侯爵領
「お帰りなさいませ、領主様!ようこそおいでくださいました、ミハエル様!」
領地へ入る城壁に馬車が止まる
兵士が馬車に描かれた家紋と身元を確認し終わると笑顔で敬礼し
馬車は再び動き出す
「ワシの家は本館と別館に別れておって、お前は今日からワシと別館に住まう。
お前の兄は家業を継いでおるから、本館にいるぞ」
「兄上…」
持っていた杖で床を二回叩くと御者がハイヤ!と叫ぶ
少しスピードが上がり、ガタガタと揺れだした
街中を通って一番奥にある領主の館へ向かう
大人たちは馬車を見かけると顔を下げ、馬車に道を譲る
子供たちは大きく笑顔で手を振る
オーギュストはカーテンを開け、中から手を振った
「いいか、わしらヴェイロン侯爵家がどんな家業をしているか
着いたら教えてやろう。大人たちだけなぜ
ああいう礼儀正しくお辞儀をするのか、後で理由がわかる」
「そう…なんですか」
まるで王族を相手にしているかのようで、大袈裟じゃないかと思った
領主の家に着くと大きな門が開き、中庭を通る。噴水があり、色とりどりの花が咲いていた
その先には真っ白く大きな建物と、少し小さい黒い建物があった
「本館は白、別館が黒だ。離れには使用人の寮がある」
「父上、おかえりなさい」
「おかえりなさい、あなた…大変だったでしょう」
本館の前には高身長の男性と少し老いたキレイな女性が立っていた
男性は日傘を代わりに持ち、女性が笑顔でこちらに手を振る
どこか秘書とお嬢様のように見えても上品さが醸し出されており
二人が貴族で、家族になる人なのだろうと一瞬で分かった
「ただいま帰った。紹介しよう、新しくうちの子になるミハエルだ。
お前の代わりに業務を受け持つ。仲良くしなさい」
オーギュストが長身の男性の肩をたたくと
男がじっとこちらを見つめる
「?…ミハエル…ヴェイロンです」
「そうか、私はイリーゼ・ヴェイロン現侯爵である」
「私はラウラよ。ラウラ・ヴェイロン。」
「イリーゼ兄上とお呼びしてもいいですか?」
「好きにしなさい。明日からお前にやってもらいたい業務がある。今日はもう休んで
明日以降に説明しよう。いいですね、父上」
「侯爵の御好きなように」
オーギュストに手を握られ、そのまま別館へと連れていかれる事になった
別館の中も黒いが紺色、金色、黒色に近いグレーの3色で表現されており
派手さもありつつ落ち着いた空間になっていた
「この建物は地下3階、地上5階。部屋は20部屋以上、ミハエルの部屋は3階、わしは2階、1階は食堂、応接室、美術品の展示室、4階と5階が客室になる。地下はまた明日にしよう」
メイドに捕まり、あれよあれよと三階へ
子供部屋と思われる部屋に案内されると3人のメイドがミハエルの前へ出る
「初めまして、坊ちゃま。わたくしはミハエル様の専属侍女になります
エミリアです。こちらは坊ちゃまのサポートいたします私の姉妹で三つ子になります」
「ルミリアです」
「ラミリアです」
三つ子といえど、似ておらずそれぞでに個性があった
エミリアはポニーテールで翡翠色をした瞳
ルミリアはおかっぱでブルーの瞳
ラミリアは二人とは違い、ショートヘアーで翡翠色の瞳で
騎士のような恰好をしたメイドだった
全員グレー色の髪色だが、どことなくこの地の生まれではない顔つきだった
「え!?専属!?い、いらないよ!」
「領主様の命ですので、断られると私たちは途方にくれます」
「う…っ」
「私は身支度担当、ルミリアは装飾品管理担当、ラミリアは戦闘に特化しており護衛です」
「ごっ、護衛?!冗談でしょ!?」
「どこかお出かけの際にはご一緒致します。明日はまた改めて本館へご挨拶に来ます」
挨拶が終わり、二人のメイドは出ていく
護衛であるラミリアは扉の近くで待機になった
「ラミリア」
「なんでしょう坊ちゃん」
「私の存在や性別はその…知ってるんでしょう」
「…使用人は皆、存じております。男性としてお育てになると聞き、驚いてました」
「兄上が居るのにね、皇命なんだ」
「エミリアは残念がってましたよ」
「どうして?」
「ラフスケッチですが肖像画が先に届いておりまして
あまりの可愛さにフリルいっぱいのドレスを着させたくて何着か用意したかったと」
「そ、そう…ここのお屋敷内でならこっそり着てもいいよ」
「本当ですか!?エミリアが張り切りますね。何着か発注させます」
「ドレスって高いらしいから1着でいいよ!」
ダイヤルを回し、どこかに電話をかけようとするラミリアを制し、慌てて受話器を置かせる
「坊ちゃまのスーツなどは隣の衣装室に御座いますので
お着換えが必要の際は魔道具であるこちらの鈴を鳴らすか、ベッドにあるヒモを引っ張ってください
控室にメイドが待機しております、いつでもお呼びください」
「わかった、ありがとう」
「私は外で待機しております。0時になったら交代の者が扉の前におりますので
そちらにお声掛けくださっても構いません」
「えっ!今から!?立ってなくていいよ、疲れてるでしょう!?誰か来る訳でもないし
控室にいて問題ないよ」
「心配なさってくださるのはうれしいのですが、これが我々の仕事なので」
「じゃぁさすがにずっと立ってるのは大変でしょ、椅子に座って待機してて
眠くなったら交代すること!無理しない事!」
「かしこまりました」
鈴を鳴らし、控室に待機していたエミリアが笑顔でやってくる
「どうされましたか、坊ちゃま」
「喉が渇いたので冷たい紅茶が飲みたいのと、そろそろ夕餉の時間で食堂へ行きたいから
着替えをお願い」
「かしこまりました!」
ニコニコした顔で部屋を出ていくとエミリアはどんなお洋服を選ぼうか
鼻歌混じりで衣装室に向かった。
「ルミリア、こちらの服に合わせた装飾品を選んでくれる?」
「わかったわ。イリーゼ様はいつも同じ服だし、久々に腕が鳴るわね」
「そうね!」
二人のメイドの目が熱く燃え輝く




