産まれる
「オギャァ、オギャァ」
「マリヴェル様、元気な女の子が御生まれになりました!」
「そう…女の子」
帝国歴389年 12月26日 第14帝位後継者 側妾が生まれる
白髪の側妃と同じ白い頭髪に、赤と青の空模様を思わせるオッドアイの女児
額にはブラックダイアを思わせる黒く小さな宝石が埋め込まれていた
「これは…!」
マリヴェル妃は目を大きくして赤子の額のものを凝視する
「不吉じゃ!!!!不吉じゃ!!!!この子は災いを呼ぶ!!殺さねばならぬ!!!」
バァン!と大きな音を立てて入ってきた黒いローブをした老婆が突然入ってきて叫ぶ
魔女の額には紫色に輝く宝石が埋め込まれていた
「魔女ごときが無礼者!!」
ガシャガシャと鎧の音を立て、騎士たちが魔女を取り囲む
「よいか、この者を生かしておくといつか後悔することになるぞ」
「うわっ」「なんだ!?」「消えた…?」
抑え込もうとした瞬間、ローブだけが残り魔女は居なくなった
頭をぶつけた騎士らはあっけらかんとした表情で自身の頭を押さえる
「何事か!」
「陛下…」
側妃の紫色に染まった唇から発せられた言葉と共に全員が振り返り
騎士らは膝を着く。ことの顛末を立会人の宰相から説明してもらい
皇帝は悲し気な表情でマリヴェルを見つめた
茶色の髪に赤い瞳を持ち皇帝の額には小さなルビーが埋め込まれていた
これは魔力持って産まれた者の証で、魔女や魔法士なら誰でもあるものだった
色によって属性が決まるのだが皇帝は炎
マリヴェルはその美しさ故に皇帝の目にとまり、側室になったものの魔力を持たない人間である
後になぜ、黒色の闇の力を持つ御子が産まれたのか、疑問の声も上がった
「この子の名前は、どうしましょう」
「マリヴェル…今はゆっくり休みなさい」
「でも…」
皇帝の手のひらに突然魔法陣が浮き出し、側妃であるマリヴェルの瞳の上に覆いかぶさると
ゆっくりと眠りに落ちた
皇帝は赤子を抱き上げ、マリヴェルの部屋から出て行った
宰相は慌てて皇帝を追いかける
「私はこの赤子を西の森にある塔に幽閉させる」
「恐れながら申しますが陛下、それではマリヴェル様が御怒りになります。どうかご再考を」
顔を真っ青にした宰相が頭を下げ、皇帝から渡された赤子を抱き上げ見つめる
「私の命令は絶対だ。彼女には赤子を殺したと申せ」
「何故その様な事を…!?マリヴェル様のお心が壊れてしまいます!!」
「貴様はマリヴェルにご執心のようだな。皇后が亡くなり、周りがうるさいから
私は側室を何人も娶っただけ。それ以上も以下もない。
それにこの子は使える。その時まで塔で育てておけ。もし災いが起こる様なら始末するだけ」
「陛下!!!」
自身の執務室へと消えていった皇帝の後ろ姿をにただ茫然と立ち尽くすだけだった
赤子の泣き叫ぶ声だけが廊下に響き渡る