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三題噺もどき3

作者: 狐彪

三題噺もどき―ごひゃくろくじゅうに。

 



 窓の隙間から風が入り込む。


 車内には聞き慣れた音楽が流れている。そろそろ変えようかな。

 横を通り過ぎる車は、ものすごいスピードで走っていく。

 まぁ、こちらもたいして変わらないと思うので何とも言えまい。

 その間で聞こえる歩行者信号の音は、聞き慣れたものだ。

「……」

 進行方向の先の信号が赤に変わったのでスピードを落とす。

 前に数台いるので、信号からは少し遠い位置にとまった。

 仕事をしている間は毎日運転していたからか、ここ数日運転をしていなかっただけで、なんとなく久しぶりに運転したな……と感じてしまう。

「……」

 用もなく外出することがないからなんだけど。

 今日は、妹の迎えに行く為にこうして運転している。

 もう後ろに乗っているのだけど、携帯をいじっているのか静かにしている。

「……」

 まぁ、そうでなくても、何かしらの予定を作って外出しようと思っているところだったので丁度良かった。

 ここ数日、どうにも引きこもりがちでいたのがよくなかったのか、何とも言えないもどかしさみたいなものがずっと胸中に引っかかっていて。

「……」

 もどかしい思いばかりが募りに募って、それを発散させることも出来ないままにいたものだから、いいタイミングだった。こうした送迎だけでも気分転換にはなるらしい。

 まぁ、もう少し調子がいい時だと、ただの足に使われているだけだからな、と思うんだけど。今日はそう思えるほどにはまだ回復しきっていないようだ。

「……」

 しかし、この時間はさすがに混むなぁ。

 夕方のこの時間は、公務員の人たちが一気に帰路につくから混雑する。

 このすぐ近くに市役所があったりするものだから。

「……」

 信号は変わったが、一向に進む気配がない。

 まぁ、特に時間に追われているわけでもないし、ゆっくり待つとしよう。

 こりゃ、もう一回くらい赤信号を待つことになりそうだ。

「……?」

 そう思って、気を抜いた矢先に、何かの音が耳に飛び込んできた。

 こんな道路沿いでは普通聞こえることのなさそうな音。

 聞くとしたら、体育館とか、何かのステージ上からとか、CDとか……。

「……」

 また、信号が赤に変わったことを確認し、きょろと、外を探してみる。

 ―あぁ、あの音か。

「……」

 視線の先には、ちょっとした広場がある。

 そこに設置されたピアノを鳴らしている人が居たのだ。

 自由に、誰でも、そのピアノを弾けるように設置されているものだ。

「……」

 座っているし、こちらに背を向けている状態なので年齢までは分からないが。

 女の子……だろうか。長い髪を高い位置のポニーテイルでまとめている。大き目のシュシュでもつけているのか、纏められている辺りは白く見える。

 少し暗いので細かな服装までは見えない。

「……」

 慣れているような手つきで、ピアノを鳴らしている。

 回りに他に人が見えないので、彼女(彼?)は1人でここに来たんだろうか。

 それとも、誰かときてはいるがあそこにいるのが1人ということだろうか。

「……」

 それにしても、上手い……ような気がする。

 残念ながら、そちらの方面に興味がある人間でもないので、上手い下手を言えるような立場ではないが。それにしでも、聞き入ってしまう何かはあった。

「……」

 見た感じ、楽譜も何も置かないで弾いているようだ。

 私は楽譜が読めないので、楽譜をおいてピアノを弾いたことがないが、あの子はなんだか違うような気がした。まぁ、頭の中に入っているんだろうけど、それにしても複雑そうに聞こえるあの曲を、弾けるのは凄いなぁ、と感心してしまう。

「……」

 なんの曲かは分からないのが残念だ……案外有名な曲だったりするんだろうか。なんとなく聞き覚えがなくもないのだけど。何かは全く分からない。家に帰って覚えて居ればキーボードで弾いてみてもいいが、それで思い出せるわけでもわかるわけでもない。あぁでもスマホで調べようと思えば調べられるのか。

「……」

 よりいっそ、聞き入ろうと姿勢を正そうとしたが。

「青だよ」

 後ろから聞こえた妹の声で我に返った。

 そうだ、今は運転してるんだから、気を抜いてはいけない。

 危うくクラクションを鳴らされるところだった。

「……どっかいくとこある?」

 なんとなく、ごまかすようにそんなことを聞きながら、車を進める。

 ピアノの音はもう聞こえなくなっていた。












 お題:シュシュ・ピアノ・もどかしい

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