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CRISIS ORBIS  作者: ナカノツカ
誓の旅
4/4

雪国の少女たち


昨日のことはグレイソンには何も話さなかった、彼がどうにかして聞き出そうとするが俺ははぐらかし続けた。しかし、グレイソンにある事だけを言った。それは…

「グランヌス火山へ行こう。」


カロス町を離れてから数日が経った、南下しているせいか温度がどんどん上がっている気がする、この辺りは湿地帯でジメジメとした空気で漂い続けていて額に汗をかくばかりであった。

「あそこの木の下で休むぞ。」

俺が指をさして木陰へ移動して馬から降りた。木陰に腰を下ろして地図を取り出した。

「結構南に来たな、このまま行けばアギト大国に着くんじゃないか?」

グレイソンが懐から食糧を取り出して食べながらそう言う、確かにあと数日もしたらアギト大国に着きそうだし国境でもあり目的地のグランヌス火山に着く。ヴィクトールの話がもし本当であればあいつは必ず現れるだろう。

「このまま山を越えればあとは楽だな。」

俺がそう言って地図を懐にしまう。

「なあ、本当に教えてくれよ。なんでグランヌス火山に向かうんだ?」

いつもの質問だ、俺はこのまま適当に流そうと思ったがそろそろ現状を把握させておいた方が良いのではないかと思い全ての経緯を話した。その後、経緯を話している間にもやはりグレイソンは眉間に皺をよせて難しい顔をしていた。無理もない、こんな話狂ったカルト宗教の信者しか理解できないだろう。だが実際に俺は経験したという事をグレイソンにはっきり伝えるとその旨が伝わったのかグレイソンは頷いて理解を示してくれた。

「まあそんな事があったのは分かったが、一回死んだのか?」

あの時の話を掘り返して来た、俺が死を悟った場面だ。俺はよくわからないとしか言えなかった、実際死んだ感覚というよりかは全ての時間が止まっているような感覚だったのだ。ただ死とは一体何かという事に気付かされたという事だ。ただそんな事を直接しても理解はできないだろうからこの事は脳裏にしまっておいた。いずれその意味はグレイソンに理解してもらえるのかもしれないと思いながら―

数十分が経ったあたりでグレイソンが立ち上がった。

「そろそろ行くか?」

先ほどの話を聞いたせいかグレイソンはどこか浮かれたような仕草で俺を急かそうとしていた。だが実際に休憩というには長居しすぎたため俺は立ち上がり再び馬にまたがってグランヌス火山へと向かった。


山地に着くとなぜだか湿地帯と比べるとかなり涼しく感じた、俺たちは細い道をなんとか馬で登る事ができた。

「あんま下を見るなよ。」

「あ、ああ…平気だ。」

山道を登り続けると標高はかなり高くなっていると言う事がわかった、それに山道が細いため少しでも躓いたら命の危険があるだろう。グレイソンは高所恐怖症とやらに罹っているらしいため一応忠告はしておいたのだが人というのはするなと言われるほどしたくなってしまう生き物だ、グレイソンが不意に下を見た瞬間グレイソンが叫び出した。

「うわぁあ!」

「だから見るなって言ったのに…」

折り返し地点に着くと地面が広々としていてしばらく腰をかけて休むことにした。


「あぁ…」

グレイソンが既に精神的に疲れているようだった、彼は地面に疲れ切ったかのように横になっていた。俺はそれを岩の陰で見ながら煙草を吸った。しばらく沈黙の時間が続いてどこか気難しい空気になっていた。今となっては突然、グレイソンに旅に出ようとなんて言ったらただのおかしな奴だろうと思うことは確信している。しかし、当時に俺はとにかく無我夢中だった。少しでも考える時間があればこんな所にはいなかったかもしれない。しかし俺には世界を救う事と俺の家族を殺した奴らに復讐するために神様とやらが俺に力を与えてくれた事にはその当時では平静を保っていられる事はできないだろう。

「シルヴィオ。」

「ん?」

地面に大きく両腕を広げて横になりながら俺の方を見てそう呼んできた。俺は煙草を吸いながら彼の方を見た。

「旅だよなこれって?」

「ああ。」

「なんだかあまり実感が湧かない、町を出てからずっと同じ景色しか見ていない気がする。」

「何を想像してた?」

俺は煙草を横に放り投げて立ち上がる。それを見たグレイソンが起き上がって興味津々に語りはじめた。

「波瀾万丈な旅、凶暴な魔物を倒した先には金銀財宝が!そして仲間との絆―」

「もういい、夢の見過ぎだ。」

グレイソンがまだ何かを語ろうとしていたが話を遮った。夢のような話を語られるだけでは俺は何の感情も奮い起こす事はない、むしろどうでもいいという感情が勝る、旅というのは確かに夢のある事だ。実際俺も夢小説のように何かを期待していた頃があった。しかし今となっては旅というのは神の力とやらを得るためであってただ気の赴くままに行動することではないと実感させられた。その時に考えたのは旅というのはただ闇雲に世界を周りたいという単純な感情ではなくその旅人が求めているものを探求するための冒険だと思っている。

「とにかく、今は余計な事は考えるな。この度は大事なことでそんな夢物語のような事をしてる場合じゃ―」

話を続けようとしたその瞬間、どこから女性のかすかな抵抗するような声が聞こえてきた。

「なんか聞こえなかったか?」

「しっ…」

俺は人差し指を口元に当てて声が聞こえた方にじっと耳を堪えた。鳥の囀りや木々の葉が擦れ合う音が邪魔をしているが微かに女性が抵抗をしているような声が聞こえてきた。

『離して!』

今度ははっきりと何を言っているのかが分かった、俺とグレイソンは顔を合わせて眉間に皺を寄せると剣を構えて音が聞こえてくるほうに俺たちは走り出した。音が聞こえた方は山道を下った先にあるところから聞こえた、坂道なためかなり走りづらく思うように速く走れなかったがそれでも人を助けるという感情が昂り必死に走った。先ほどの休憩していたところか数十メートルくらいのところに来た。何者かの姿が視界に一瞬入ると茂みに隠れ、グレイソンもそれに続くようにして身を隠した。彼女の声と共に薄汚い声の男性二人の声が聞こえてきた。

「こいつはエイヴァ人でかなりの別嬪だ、町に売れば高い値段で売れるだろうな。」

「やだ!」

茂みから少しを顔を出してみると白い髪の毛を長く伸ばしたエイヴァ人の女性が手足を拘束されている事がわかった。

「このガキはどうする?」

もう一人の男性の方に視線を向けると今度はまだ幼い少女が先ほどの女性と同じように手足を縛られている姿を目の当たりにした。少女は先ほどの女性に比べて沈黙を保っていて男性らをじっと見つめていていた。こんな光景はもう二度と見たくはない。俺の家族のように、ただ弄ばれて気が済めば虫のように踏み潰されるような姿は見たくはない!そう思った瞬間、俺は理性よりも本能が働き剣を構えて男性らに突進していた。

「うおぉ!」

俺が雄叫びを上げて男性の腹に剣を貫通させた、グレイソンがそれに続いてもう片方の男性が気を逸らしている間に背中を思いっきり斬った。

「ぐわぁ!」

俺が剣を貫かれた男性は既に息をしていなかったがもう片方の男性はまだ生きているようで剣を放り投げてそいつのところへ突進して転ばせると跨って俺は無我夢中に拳で殴り始めた。男性は交互に繰り出す拳に必死に抵抗をしようとしていたが次第に顔の形は変わり抵抗する腕の力が老人のように抜けて行った。もう息をしていなくとも俺は殴り続けた。

「ああ!ああ!ああ!」

殴るたびに叫び声をあげる、手と体には大量の返り血が付着していてその姿はまるで鬼のようなものだった。さらに殴り続けようとしているとグレイソンが俺の片腕を思いっきり掴んできた。

「もうやめろ!死んだ。」

その言葉を聞いた瞬間に俺は理性を取り戻した。俺は跨っていた男性から離れて女性の方を見つめた。自分が経験したような光景と似たようなものが俺の視界に広がっていたため俺はその場からただ唖然として立っていた。グレイソンがナイフを持って彼女たちに縛られていた縄を解き始めた。

「今は解くからな。」

グレイソンが幼い少女に縛られていた縄を解いているのを見ると俺は意識を取り戻したかのように長い白い髪の毛を生やした女性の方へと駆け寄り縄を解き、彼女の肩を持ってゆっくりと立たせた。

「大丈夫か?」

俺が彼女にそう言うと彼女は手首をさすりながら俺の方を見て涙目になった。きっとまさかこんな誰も来なさそうな山で救世主に巡りあえたなんて思っているに違いない。

「神様…!」

彼女は落ちてくる涙に指で拭き取りながら俺に身を放り投げるように抱きついてきた。俺の体や顔には大量の血が付着しているというのに彼女なんの躊躇もしなかった。

「もう大丈夫だ。」

俺は血が付着している手で彼女の背中に手をやる。彼女は次第に力をなくすかのようにして体重を俺の体に任せてきた。グレイソンの方に視線をやると相変わらず幼い少女は沈黙を保っていてグレイソンはどう対応すればいいかを迷っているようだった。とにかく、彼女たちを休ませまいと再び俺たちが休憩していた場所へと戻った。


「助けてくれてありがとう、名前を聞いても?」

彼女が岩の木陰で腕を膝の腕に当てて俺に尋ねてきた。

「シルヴィオだ、でこっちはグレイソン。」

俺がそう言うとグレイソンは軽く手を挙げた。

「私シルヴィっていうの、そしてこの子はエルガ。」

シルヴィ…その名前は俺の名前に酷似しているように思えたがただの偶然だと思ってそのまま聞き流していた。

「えっとシルヴィとエルガ、しばらく休んだらここを離れた方がいい。また山賊どもが現れるかもしれないからな。」

俺はそう言ってその場に腰をかけた。

「ありがとう、優しいのね。」

俺は世辞というのは嫌いだったのでその台詞もただはいはいと聞き流して煙草をふかした。グレイソンは懐から軽食を取り出した。

「食べる?」

グレイソンはしゃがんで軽食をエルガに差し出そうとした。エルガは何も言わなかったが軽食を受け取ると勢いに任せて大きく口を開けて頬張り始めた。まるで何日も食べていなかったような食べ方だ。

「何も食べてないのか?」

俺がシルヴィの方に視線を向けて言う。

「お金が底を尽きちゃってもうないの。」

詳しい事情を聞くのは俺の流儀ではないがどこか親密感のような感情が湧いてきたため話を聞こうとした。彼女曰く、エイヴァ大国(常に雪が降り続けてとにかく寒い国だと聞いている)からある使命を果たすためにこのレイアミア大国にまで来たという。そしてここに来るまでの過程で道を聞くために悪徳な連中どもに大金を払い続けていたら無一文になってしまったらしい。事情を知った俺は懐から金を取り出してその三分の一ぐらいを彼女に手渡そうとした。

「え?」

「この国じゃ信用できる奴は誰一人もいない。」

彼女は受け取る気配はないため彼女の手を掴んで金を手の中におさめた。

「誰一人も?あなたは?」

「さあな、だが気をつけるんだ。」

彼女はその言葉を聞くと深く頷いて鞄に金をしまった。グレイソンもそれを横目に見ていたが善人の面構えで咎める事はなかった。そして、俺にはもう一つ気になる事があった。

「どこに向かってるんだ?」

「グランヌス火山だよ。」

「奇遇だな。俺たちもあそこに向かうんだ。」

この時の俺はこれはただの偶然ではないのではないかと思い始めていた、グランヌス火山に行くなんて命の危険を冒してでも不法入国したがる移民や単に山に登るだけで優越感に浸る変な人か馬鹿しかいかない。それなのに彼女たちは一体どういった理由であの火山に行くのだろうかと考えれば考える程不思議でならなかった。

「そうなんだ…」

シルヴィは俺たちがグランヌス火山に行くと言った瞬間にどこか怪しさのようなものを感じたようにそう言った。俺は彼女に微細な面構えに何か不信感を感じたがそれを見て見ぬふりをしてしばらく四人で休憩をしていた。


彼女たちを俺とグレイソンの馬に乗せ最寄りの村であるリヴィーナ村へと馬を走らせていた、この時空を見上げてみると既に陽は沈みかけていた、本当であればもう少し早く着いていたかもしれなかったが状況を考えてみるとあそこで見捨てる訳にもいかない。


―リヴィーナ村


村に着き馬から降りた、シルヴィが両腕を伸ばして体を解しているのを見ながら俺は煙草を取り出そうとしたが煙草が既に切らしていた事に普段であれば苛立ってしまうが、今日は色々あったためそんな気力はなくなっていた。

「疲れた。」

そう呟くとどうやら皆同じことを思っていたみたいでグレイソンが疲労に呪詛を吐くようにして馬に寄りかかった。全員が今日のことで疲れているみたいだった。

「どこかで休める場所があるといいんだけど。」

とシルヴィが言うと俺はそれに便乗して村の宿を探し始めた。

しばらく村を散策してどこか違和感を感じ始めた。ここの村の人たちは旅人が珍しいのだろうか、至る所で俺たちの姿を見ては村人たちは怪しむかのようにヒソヒソと話し合っていた。変な村だなと思いながら村を歩き続けた。きっと皆も俺と同じことを思っているのだろう。特にシルヴィが落ち着かない様子で周りを見続けていた、それを横目に俺は見て見ぬふりをしていた、もしここで何か彼女に言うものならそれを聞いた村人が癇癪を起こしてなにかしでかすかもしれない。(という事が本に書いてあった気がする)そう村のことを考えていくうちに宿に着いた。外観はかなり年季が入っているせいかかなりボロボロで吊るされている看板が風に当たると不快な甲高い音を鳴らす。どこか悪寒のようなものを感じたがしばらく野宿しかしていなかったため仕方がなく宿へ入った。

「…いらっしゃい。」

薄暗い建物の奥で店番をしている老婆が掠れた声でそう言った。その人の方へと恐る恐る進んで部屋を借りようとした。

「部屋を借りたいんだが…」

「どこの部屋も空いてるよ。」

さすがに男女ともに同じ部屋を使う事ができないため、シルヴィが金の事を考えたのか気にしないと言っていたが俺は彼女に気を遣って二部屋を借りる事にした。鍵を受け取って部屋に通じる階段を上ろうとしたが老婆が俺たちに語りかけてきて俺たちは足を止めた。

「お客なんて珍しいねぇ。」

そう老婆が机の帳簿に羽ペンで何かを記入しながらそう言った。シルヴィは止めていた足を老婆の方へと向けて老婆の方へと向かった。俺は一瞬腕を伸ばして彼女を止めようとしたが少し思いとどまって俺は腕を戻した。

「あの…この村は―」

「変だと思うだろお嬢さん、無理もないさ。」

シルヴィが村のことを聞こうとしたが老婆はそれを突然遮るようにしてそう言うとパイプを火をつけた。

「お前さんたちはどこから来たのかい?」

「私とこの子はエイヴァ国から来て、あの二人は…」

「カロス町だ。」

俺が先に言おうと思ったがグレイソンに先を越された。

「じゃあ知らんだろうなぁ。この村の事を―」

老婆は立ち上がって近くの窓から外の景色を眺めながら話を続けようとした。

「この村は昔から旅人なんてのは珍しくて村人たちは旅人たちを盛大に出迎えたんだ。しゃがそんな事はある日突然なくなってしまった、あいつらが来てから…」

「あいつらって?」

シルヴィが言う。

「村を恐怖に貶めた連中さ!やつらは一見ただの旅人のようで村人たちは盛大にやつらを祝った、しゃが奴らは旅人なんかじゃなかった。突然、女子(おなご)を誘拐したんだ、それならまだしもそれを目撃した村人が止めようとすると奴らは魔法で村人を燃やしちまったんだ!その光景をわしゃ窓越しに見ていた…そしてついには奴らは村人たちを集めさせて脅したんだ!『神託官の命によりこの村から毎月一人ずつ生贄に捧げる、もし拒むものがいれば神に逆らった愚物とみなし即刻死刑と処す!』とな!皆なんのことかは分からんかったが、しかしそれから村は変わってしまった―」

話の突然に、老婆は語っていた口を手で抑えて泣き出しそうになり涙を堪えていた。それを見たシルヴィが老婆の方へと駆け寄って背中を摩るようにした。

「大丈夫ですか?」

「ああ…ありがとう…」

老婆はシルヴィに摩られて涙をぐっと堪えてそのまま話を続けた。

「ある日、わしの娘も拐われちまったんだ。あれは冬の事だった―」

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