ゼピュロス廃神殿
気づけばベッドの上で天井を見上げていた。俺は二日酔いのせいかベッドから体を域良いよく飛び出てトイレに駆け込んだ。
「クソ…なんでまたやっちまったんだ、これで4日連続かよ…」
そう昨日の過ちを犯した自分に対して怒りを感じながら込み上げてくる吐き気を全てトイレに吐き出した。そして改めて部屋の周りを見てみると宿だという事が分かった。きっと昨日の酔い潰れた俺をグレイソンが宿にまで担いでくれたのだろう、俺は自分の荷物を探そうと部屋のタンスを開いた、タンスの中には俺の荷物や服が入っていたが同時に置き手紙が入っていた。
『先に廃神殿を偵察しに行ってる、さっさと酔いを覚まして来い。』
無愛想な文字でそう書かれてあった。
「廃神殿…」
うろ覚えではあったが昨日のことをは覚えていたはずだが確か身なりの良い男性に廃神殿の話を持ちかけられたはずだと薄れた記憶がある中で本当はそんな事はなくてただ呑んだくれただけという記憶も混じっている、とにかく考え続けるとそれだけ混乱して頭がさらに痛くなるだけだと思い俺は考えるのをやめて服を着た。部屋の扉を開けて階段を降りて左側に受付の人が立っている事が分かりここは本当に宿なのだと再確認できた。しかし受付の人は俺のことを凝視していた。
「大丈夫ですか?昨日見た時はかなり酔っていた様子で。」
「ああ、平気だ…」
そう適当に流すが俺の顔色は悪かったらしく受付の人は相変わらず心配し続けていた。それを横目で見て俺は宿から出た。
宿から出た瞬間、太陽の日差しが眩しくて俺は手で太陽を遮った、天気は快晴で一日を有意義に過ごす日にはもってこい感じだ。このまま町でゆっくりするのも良いだろうが、グレイソンが廃神殿で俺のことを待っているだろうし俺は馬に跨ってグレイソンがいるであろうゼピュロス廃神殿へと向かった。
カロス町から少し離れた場所にある丘を登るとグレイソンがオペラグラスを使って廃神殿を見ている姿が見えた、なぜオペラグラスを片手に持っているのかを疑問に思ったがその前に構わず馬から降りてグレイソンの方へと近づいた。
「なんでオペラグラス?」
「この前、劇を見に行った時に偶然見つけたやつだ。前のやつより全然見通しが良い。」
「盗んだんだろ。」
俺はそう言いながらグレイソンの隣で膝を曲げてしゃがんだ。良く見てみると望遠鏡を使わずとも廃神殿の様子は一望できた、廃神殿は思った以上に廃れている事が分かった。建物はかなり大破してその建物にはツタやら苔などが侵食していて神殿とは言えないような外見をしていた。しかしグレイソンが望遠鏡で様子を探っていると指を差しながらオペラグラスを外して俺の方を見た。「蛮族どもの姿が見えた、かなり前から住み着いているみたいだな。」
そう言ってオペラグラスを俺の手のひらに渡すとそれを目元に当てた、遠くからでは全く分からなかったが五、六人ぐらいのゴブリンがいた。奴らはこう言った自然に支配された建物や身を隠す事ができる森の奥深くで繁殖をするという話を良く聞く。平原では見かける事は滅多になくもし見かけたとしても襲う事は稀ではあるが、奴らは自分のテリトリーを守るために近づく生物を襲う習性がある。昨日の森の出来事のように下手したら目を離したその瞬間に死んでしまうかもしれないから容易に近づく事はかなり困難であるだろう。
「どうする?」
俺がグレイソンに何か作戦がないかと問うと彼はしばらく考え込むようにして沈黙をしていた。
「真正面ではかなり危険だろうな…寝ている間にあいつらを燃やしてやろう。」
詳しく作戦の内容を聞いてみると、深夜に廃神殿に来て寝ているゴブリンどもに炎魔法で燃やし尽くすというものだった、しかしゴブリンの数と魔法の影響の体力の消耗を考えるとかなり大掛かりな作戦となるだろう、なぜなら魔法というのは一般人であれば一度発動してしまうと最悪の場合体力が尽きて昏睡してしまう危険がある。(経験者によると三時間走り続けたのと同じぐらいの疲れを感じたと言う。ただし、聖職者や魔法人、書物使いとなれば別だが。)そのため俺たち旅人にとっては魔法というのはかなり負担のかかるものなのだ。しかしただ闇雲に一人一人を暗殺するだけではかえって負担が大きいと考えたグレイソンがそう言うと俺はその作戦の了承した。
「それじゃ、今夜だ。」
俺がそう言うとグレイソンが俺を諭すかのように真っ直ぐとした視線で俺の方を見て語りかけてきた。
「これで何もなかったらどうする?」
「そいつを見つけ出して殴るだけだ。」
グレイソンは呆れたように話を続けた。
「酒場でいきなり話してきた野郎、あれは絶対にお前を騙しにきてるぞ。どうせ神器なんてものは存在しない、それにもしあったとしても騙し取るだけだぞ?」
「じゃあなんで今ここにいるんだ?」
俺がグレイソンにそう反論するとグレイソンは黙り後ろを振り返って馬の方へと向かった。
「作戦は今夜だ、一度街に戻るぞ。」
グレイソンがそう話を遮ったため俺は芝生から立ち上がり馬に乗って一度カロス町へと戻った。
今朝俺が目を覚ました宿に戻り夜を待っていた。窓の外を見ながら煙草を吸う。グレイソンは買い出しに行くと言ってもう二時間は戻らないためどこか胸騒ぎをした俺は煙草の火を灰皿に擦り付けて椅子から立ち上がり外へ向かった。
太陽は南中に姿を現して額から汗が吹き出てそれを腕で拭き取った。暑さも相まってか街行く商人やらが鬱陶しく感じた、その人混みを掻い潜りグレイソンを探し続けた。人混みを抜けてようやく広場へと辿り着いた。広場に設けられている剣を悠々と振り上げた屈強な戦士の銅像を横目に俺は枝別れている道の前で止まった。
「ったくどこにいるんだ…?」
苛立ちのせいか懐から煙草を取り出して口に咥え指先から炎魔法を少量出して火をつけた。煙草をふかしながら街を隅々まで廻り続けた。しばらくして店と店の間にある路地裏から男性の呻き声のようなものが聞こえてきた。俺はその音が聞こえた方に急ぎようにして向かった。路地裏の角を曲がるとグレイソンがうずくまって男性数名の集団に暴力を振られていた事が分かった。俺は咄嗟に剣を取り出して走り出した。
「酒場にあいつもいた!殺せ!」
男性が剣を両手で構えて俺に殺意を向けた、俺は構いなしに剣を振り斬りつけた。他の男性が俺の背後に立ち剣を大きく振りあげえると俺は咄嗟に斬りつけた男性を盾にして攻撃を防いだ。
「ぐわ!」
さらに盾にしていたそいつを突き放して男性に当たり怯むと俺はつかさず首を横から斬りつけた。
「ぐ…が…!」
首から血が噴き出ている様子を見た最後の一人の男性は剣を握っていた手を振るわせその場に腰を抜かした。俺が視線を後ろにやると男性は攻撃を遮るようにして両手で身を守ろうとしたが俺はその男性を思いっきり蹴って鼻血を出させた。胸ぐらを掴んで顔を引っ叩いた。
「なんでこんな事をしたんだ?」
「お前たちを殺して神器を手に入れようとしたんだよ!もうこんな事しないから見逃し―!」
拳を握り思いっきりその男性の顔に喰わらせた、男性は気絶したようでその場に倒れ込んだ。俺は立ち上がりグレイソンの方へと駆け寄った。
「おいグレイソン、大丈夫か!?」
「っく…あのクソ野郎ども…!いきなり襲いやがって!うっ!」
グレイソンが立ちあがろうとすると傷のせいか立ち上がれずにうずくまっていた、俺はとにかく急いで宿に戻ろうとしてグレイソンを担いだ。宿へ向かう途中に多くの住民から変な眼差しでこちらを見ていたようだったが俺はそれを横目に走って宿に向かった。きっと他にも俺たちの計画を邪魔する奴がいるのではないかと考えるとここにいる住民全員が信用できなくなってしまった。広場を抜けて宿に辿り着いて部屋に向かおうとするとグレイソンは俺の背中を掴んだ。
「シルヴィオ…廃神殿は諦めろ…明日すぐにここを発つぞ…」
俺は無言のまま階段を登り部屋に着いてドアを開けるとゆっくりと寝床にグレイソンを横にさせてポーションを手渡した。
「とにかく、宿には来たが安全じゃないかもしれない。しばらく様子を見るぞ。」
そういうと俺は剣を抜いて床に突き立てた。
そのまま数時間が経って陽は沈みかけようとしていた。敵が来るどころか足音すらしなかった、強いて聞こえるのは部屋に置いてある時計の音とグレイソンが寝返る音くらいだった。ずっと同じ場所に座り続けるのに痺れを切らした俺は一度その場に立ち上がり窓の外を眺めた。夕日はとっくに沈んで朱色と紺色が混ざり合わせたような空に目を向ける。昨日はこんなはずではなかったとどこか後悔しながら外を眺め続けた。窓から離れて再び寝床に腰をかけると突然何かの音が耳を透き通るように聞こえてきた。
『力を得よ、誓人の種子よ…』
俺は咄嗟に寝床から立ち上がった、驚きを隠せずにはいられず視線を周囲に見渡しながら剣を構えた、すると窓から光の糸のようなものが見えてきた。
「あれは…?」
ゼピュロス廃神殿がある方角に一筋の光が見えた。
『ゼピュロスの息吹を得よ、誓人の種子よ…』
今度ははっきりとどんな状況か分かった。呼ばれているのだ、あのゼピュロス廃神殿の方からゼピュロス本人かどうかは定かではないがなんにせよ間違いなく誰かが俺を呼んでいる。剣をおさめてグレイソンの方に視線をやった、グレイソンは相変わらずに魘されながら寝ている、それを見ると俺は部屋のドアに手をやろうとした。しかし宿に来る途中のグレイソンの言うことを思い出した。
『廃神殿は諦めろ…』
その言葉が頭の中に強くよぎった、もしかしたらこれは何かの罠かもしれない。魔法人の奇妙な魔法で俺を誘き寄せているのかもしれないという疑問が思い上がってきた、しかしそれとは裏腹にグレイソンをこんな目に合わせた連中や俺たちの依頼を横取りしようとする野蛮人は絶対に許さないという怒りが込み上げてきた。しばらく、ここに残るか廃神殿へ向かうかという選択肢が互いに俺の中でぶつかり合い俺は部屋の中を落ち着きのない仕草で歩き続けていたがその時…
『己の家族を殺した者らに復讐したいであろう…』
その言葉が聞こえてきた瞬間俺は決心がついた、「ゼピュロス廃神殿へと向かおう。」と呟くと咄嗟にドアに手をかけグレイソンに目をやると俺は心の中で謝罪と同時に彼をこんな目にさせた奴らを復讐したいと思いドアノブを捻って外へ出てゼピュロス廃神殿へと向かった。
空を見上げると星で覆い尽くされていた、赤く光る恒星の数々や他の星とは比べ物にならないぐらいに光る恒星に目を向けて心を奪われていたがゼピュロス廃神殿に着くや否やその感情は吹き飛んだ。宿から見えた一筋の光は姿を消していて見えるのは月に照らされた廃神殿の影だった、馬を降りて警戒をしながら廃神殿の方へと向かった。しかし、蛮族どもの姿は一切なく代わりに今朝閉まっていたはずの神殿の入り口が開いていたのだ。俺は剣を取り出して恐る恐るその神殿の中へと入った。
内装は外見とは裏腹に当時の装飾がそのまま残り続けているかのように綺麗な状態に保たれていた。そして神殿の奥には風神ゼピュロスの像が立っていた。その像を見ながら近づこうとすると突然、強風が俺の目の前を襲った。
「な…なんだ!?」
片手で顔を覆いながら剣を構えようとした、しばらくして風が止むと目の前に立っていた風神ゼピュロスの姿は消えていた。
「人よ―」
上から声が聞こえて咄嗟にその方を向くと羽を生やし、風を纏っている人のような姿をしたものがいた。いや、もしかしたらあれが風神ゼピュロス本人なのかもしれない。
「あんたがここに呼んだのか!?」
「我が憩ひの場汚しなほ我が寝床にまで侵入すとは何事だ―」
「なんだと…?」
「死ね―」
そうゼピュロスが言った瞬間、巨大な竜巻が俺を襲ってきた。
「ぐわぁ!」
風に引きずり込まれて強風によって吹き飛び俺は壁にぶつかった。血が額から垂れてくるのが分かる、しかし朦朧としている暇は全くなく剣を両手で思いっきり掴んで構えた。ゼピュロスが俺を見下すように見るが俺は思いっきり走りゼピュロスの方へと向かった。殺さなければこっちが殺されるといった本能が理性よりも働き無我夢中に走り続けた。しかしゼピュロスはそれを嘲笑うかのように風で目の前を遮った。その風に吹き飛ばれて俺は再び壁にぶつかり瓦礫が崩れ落ちてきた。
「っぐ…!」
「遊びは終はりだ、定かに殺してやる。」
そうゼピュロスが片手を俺の方へと向けると風の光線のようなものが俺の胸を突き刺した。
「ぐあぁ!」
血が噴き出てくるのと同時に周りの時間が止まっているように感じた。訳のまま分からぬ死ぬというのがどれだけ屈辱的な事かを悟りながら俺を死を実感した。
『それで良い…』
再び俺を呼んだ声が聞こえてきた。
『死を覚悟せよ、させば己の真の力に目覚めさせよう。』
死を覚悟…?その言葉が聞こえてきた瞬間、俺は死というものをもう一度考えてみた。
死というのは生命の活動が止まるという事でそうなれば物を見る事も聞く事も感じる事もできない、全てが無に期すという事だ。しかしそれは今俺たちが生きている世界から思い込んでいる事で果たして本当はどうだろうか?もしかしたら死んでもなお意識はそのままあって苦しみ続けるかもしれないしもしかしたらこの世には存在しない気持ち良さを感じるかもしれない。しかし俺はその双方ととも感じなかった。俺が感じたのは恐怖感でも解放感でもない、戸惑いだ。自分はなぜ死んだのか?こうなった原因の元は?そもそもなぜ自分は生まれたのだ?という疑問ばっかのしかかってきた。しかしそう考えているうちにだんだんと答えが見つかってくる。そして俺は結論を見つけ出すことができた。
「俺は、この世を救うために生まれてきた。」
『そうだ、己の野心を力に変えろ―』
その瞬間は俺は今までに感じたことの勇気に満ち溢れた。貫かられた胸の傷は跡形もなく消えて瓦礫を波動のようなもので吹き飛ばすと俺はその場で立ち上がった。ゼピュロスは戸惑いを隠せずにはいられず羽を使って後退した。
「なぜ、人が?まさか…誓人か―?」
ゼピュロスはそう戸惑いながらも風を起こして俺に向けて放った。しかし俺はその風を片手を振り跳ね返した。
「うあぁぁあ!」
そう大声をあげると波動が出てゼピュロスの羽が折れたみたいで、ゼピュロスはそのまま地面に崩れて落ちた。俺は床に落とした剣を握りしめてゼピュロスに向かって走り出した。剣を振り上げてゼピュロスの顔に突き刺した。ゼピュロスは化け物かのような唸り声を上げて血を吹き出した。
「―人よ、貴様を殺す…」
そうして手の爪を俺の方へと向けて来たが俺は剣をその手を切り落として目に剣を突き刺した。ゼピュロスは既に虫の息になりかけていた。ふと気がつくとゼピュロスは息絶えていてその姿は見るに絶えないほど残酷なものになっていた、しかし俺は神様であろうが自業自得だと思いそのまま神器を漁ろうと思いゼピュロスに突き刺していた剣を抜こうとすると―
ゼピュロスから緑色の霧のようなものが漂って来てしばらくしてそれは俺のての中へと吸収されて来た。
「なんだ?」
その霧のようなものが吸収されるのと同時に力が体全体に渡ってくるものがあった。霧のようなものを吸収し尽くすとゼピュロスの姿は消えていた。俺はそのまま、何事もなかったかのように動こうとした瞬間、突然頭痛と耳鳴りがして来た。
「うっ…っく…!」
『風神の力を手に入れし誓人よ。己は生まれ変わったのだ。』
『世を救うのだ…この世に住まう全ての神々と啓示を施すのだ―』
しばらくして俺は廃神殿の外で目を覚ました。廃神殿の扉は完全に閉まっていてさっきの戦いが嘘のように感じられた。俺はその場で立ち上がり急いで町に戻ろうと馬のところに向かおうとすると、丘の上から何者かの姿が見えた。
「ヴィクトール…?」
昨日の酒場で俺に依頼をしてきた男性がそこに立っていた。
「あんたならやり遂げてくれると信じていたよ。」
「貴様は何者だ?」
俺がそう言いながら彼の方へと向かうと一瞬にして彼の姿は消えた。
「あんたを世を救う救世主にするための者だ。」
声が聞こえた方に視線をやると丘を下ったところに彼が立っていた。何がなんだか分からないまま俺はその場で立ちすくんでいた。
「俺の役目はあんたを風、炎、土、雷、氷、そして光を司る神々との誓の指南を授けること。―そして全ての力を手に入れた時、あんたの力は神を超えて真の誓人となる、そうすれば世界の脅威を全て消し去る事ができる。」
「世界の脅威…?」
「今度はグランヌス火山で会おう…シルヴィオ―」
そう言うとヴィクトールは影に消えるかのようにして姿をくらませた。
俺は何が何だか分からないまま夜を明かした。そのまま町に向かい気づけば朝になっていた。疲労が募りに募って俺は宿に帰るや否やすぐさま寝床に身を放り投げた。
「シルヴィオ?」
グレイソンが俺を心配するように俺を見ていたが俺はもう疲れ切っていてその後の記憶は全く覚えていなかった。




