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第9話 楽しくない出来事

「いたぃーー!!やめてぇーー!!」


フード絶対取るマンと化したラックが、私のフードを髪ごと引っ張った。


あんまり大きな声だったからか、隣の部屋から『なんだ?!』という大人の声が聞こえてくる。それでもラックは手を離さず両手を使ってきた。


あまりの痛さに、思わず魔法を放ってしまう。


「うわぁぁぁっ!」


室内なのに風が吹き荒れ、机や椅子と一緒にラックを浮き上がらせる。


しかし、身体が浮き上がる事で慌てたのか私の髪をつかむ手が強くなってしまった。そして、引っ張られる痛みで益々パニックになる私。こうなると、もはや収拾がつかない。室内はとんでもなくカオスな空間と化していた。


いつまでも髪を引っ張られるせいで、だんだん腹が立ってきた。


半分は風を巻き起こしてる私のせいだけど、嫌だと言うのにフードを脱がそうとするどころか髪まで一緒に引っ張るラックがとても邪魔なモノのように思えてきた。精霊としての私が徐々に意識を乗っ取っていく。


「ワたし…に…触…ルナ…」


身体の内側から怒りに染まったマナが溢れてくる。


傷付けちゃダメだという理性で辛うじて抑えられているけれど、タガは外れかけていた。


「マヤ!!」


賢者が私の名を呼んで抱き締めてきた。


「ししょ…」


荒れ狂う内側のマナが今にも吹き出しそうだ。自分でもどうにもならなくて泣きそうになる。


「なるほど、フードと髪を思い切り引っ張られたのか。痛かったなぁ、よく我慢したぞ」


ラックの手はいつの間にか離れていて、賢者の手が優しく私の頭を撫でている。ギュッと抱き締められている事で、何となく安心して力も気持ちも落ち着いてきた。


「ふぇっ…ふぇぇ…」


ホッとしたと同時に、喉の奥から嗚咽が漏れる。


「フード…とらないでって…なのに…ぎゅーって…やめてって…いたかった…のに…やめてくれなかったぁ…うわぁぁぁぁんっっ!いたかったのにー!!やめてっていったのにー!!うわぁぁぁん!やめてくんなかったぁぁ!!うわぁぁぁん!!きらいー!!!もうきらいー!!!かえるーー!!!うわぁぁぁん!!!」


状況説明しないとという大人の私と、痛くて辛かったという子供の私と、人間は嫌いだという精霊の私の気持ちが混ざってしまい、感情のままに泣き喚いてしまった。とにかくこの場所が嫌になってしまい、早く森に帰りたかったのだ。


賢者は私を抱き上げると、村長さんに何かを告げてからそのまま外へ出てくれた。


村長さんの家から出てきた私が賢者にしがみついて大泣きしているからか、ゴルドさんの所で商品を見ていた村人が『どうした?』『どうせ村長んトコの坊主に泣かされたんだろ』『モニカちゃんは良い子なのにねぇ』『ウチの子もこの間ラック君に泣かされたのよ』なんて言ってた。どうやらラックは問題児として村人から認識されていたらしい。


「マヤちゃん、どうしたの?」


外に出ていってたモニカが女の子を数人連れてきた。私に紹介したくてお友達を連れてきたらしい。心配そうにこちらを見つめているが、私としてはもう子供の相手をする気になれなくて賢者の肩に顔を埋めてモニカ達の声を無視してしまった。大人げないとは思うけれど、こればっかりは仕方がないのだ。


「ゴルド、済まないが儂らは先に帰るぞ」

「おや、そうですか…申し訳ありません。私がこの村を選んだばっかりに」

「お前さんのせいではないよ。人と関わるなら必ず通る道じゃ」

「いや、最初に会わせるならもう少し年の近い子供の方が良かったんです。モニカちゃんなら大丈夫だと思っていたんですがね」

「今さら言っても仕方のない事じゃて。誰が悪いわけでは無いから、お前さんも気にするでないぞ?」

「……ありがとうございます」

「ではの」


賢者はそのまま私を抱えて村から離れた。


ここまで馬車で来たのにどうやって帰るんだろうか?不思議に思っていると、賢者は背よりも長い木の杖を空間収納から取り出し、地面をトンと軽く叩いた。


すると、足元に魔方陣が現れて光ったと思うといつの間にか森の住処へと戻っていたのだった。


「おししょ、なにした?」

「《転移魔法》じゃよ。何処でも自由に転移できるワケではないが、早く帰りたい時には便利なんじゃ」


すごいすごいと目を輝かせると、賢者は転移魔法について嬉しそうに話し始めた。こういう所がゴルドさんから『ズレてる!』と叱られる原因だったりするんだけど、私も楽しく話を聞くもんだから治る事はなさそうだ。


転移魔法のお陰でラックの事をすっかり忘れた私は、賢者が作ったシチューを食べてぐっすりと眠ったのだった。

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