第8話 ラオンテ村
「さぁ、着きましたよ」
商人のゴンドさんが御者台からそう告げた。
森を出て1時間ほどの所にある長閑な農村。小川が流れ、田畑が広がり中心部に素朴な家屋が集まっている。
家屋が真ん中に固まっているのは、主に魔獣対策。田畑の一番外側には魔獣が嫌う臭いを出す薬草類が植えてあって、そこを越えて家屋のある方へと向かってきても家の中に逃げ込めるだけの時間を稼ぐ為なんだそうだ。
育てられているのは主に小麦。それから自給自足用の野菜と家畜が少々。小麦はこの辺の名産品で、ゴンドさんの商会はこの村から小麦を仕入れている。ブランド小麦ってヤツかな?
「村長、まいどどうも」
「ゴンドさん、お待ちしてましたよ」
馬車が村の中心部に停まると、村の人達が集まってきた。ゴンドさん達にも言えることたけど、この世界では目鼻立ちのはっきりした顔が一般的なようだ。髪色は明るい茶髪が一番多いみたい。農村だからか、どの人も朝黒く日焼けをしていて、服装は男性はチュニック風のシャツとズボンで、女性は襟ぐりが広めに開いたシャツとロングスカートという出で立ちだ。
大人達は小麦の袋を一箇所に運んでいる。そして、少し離れた所から私よりも大きな子供達が目をキラキラさせながら馬車から降ろされる荷物を見つめていた。
「あれ、ちっちゃい子がいる!」
集まっていた子供のうちの一人が、馬車に乗っていた私のことを見つけて指を差した。
一斉に注目されたので、森の賢者の腕に隠れる。子供が乗っているのが珍しいからか、子供たちがワラワラと集まってきてしまった。
賢者に抱っこされて馬車から降りると、子供たちが一斉に近寄ってきた。なのでフードが外れないように深く被り直してから子供達の方を見る。
「ねぇねぇ!オジサンは冒険者?」
「この子だれー?」
「すごーい、ちっちゃーい」
「なまえはー?」
「どこからきたのー?」
「なんでフードとらないのー?」
一斉にアレコレと話しかけられて少しパニックになってしまう。コレには賢者も苦笑いだ。
騒ぎに気づいた子供達の親が、子供をそれぞれ回収していくまで、私は賢者にずっとしがみついたままだった。
「ははは、大人気でしたな」
「人里に来るのは久方振りじゃが、子供が元気なのは良いことじゃな」
「これはこれは…森の賢者殿ではありませんか!」
ゴンドさんと賢者がそう笑い合っていると、村長と呼ばれたお爺さんがやってきた。賢者の事を知っているらしい。賢者も顔を綻ばせている。
「おぉ、ビトではないか!久しぶりじゃのぅ。息災であったか?」
「はい、お陰様で元気に過ごさせて頂いてますよ。…ところで、そちらの子供は?」
村長が私をチラリとみる。
「この子は訳あって儂が養育しておるのじゃ。人里は初めてじゃから少し緊張しておるようじゃの」
「左様でしたか。よろしければお茶でも如何ですかな?年の頃が近い孫がおりますし」
「おぉ、それは有り難い。では呼ばれようかね」
賢者とともに招かれたのは、村長の家だった。
「賢者殿、孫のラックとモニカです。ほらご挨拶なさい」
「「こんにちは」」
紹介されたのは5歳くらいの双子の男女だった。賢者と村長が話をしている間、私は二人と隣の部屋に。
すると、男の子のラックが話しかけてきた。
「なぁ、なんでフード取らないの?」
何故と言われても。賢者から被っているようにと言われているのでそれを守っているだけだ。でも言葉が達者ではないのでうまく説明出来ず、首を横に振るくらいしかできなかった。
モニカの方は、私の手を握ってここは何あそこは何と家の中を説明してくれている。そして「ちょっとまってて!」と外へ出ていってしまった。
残されたのは私とラックのみ。
すると、なんとラックは私のフードを外そうとしてきたのだ。
「やめてー!」
と言って、5歳の子供がやめるわけもなく。何なら『フード絶対取るマン』と化しているラックから必死に逃げ回る。
別にフードくらい外しても良いのだけど、こちらも無理矢理外されるのは癪に障るのだ。この辺の感情は身体に引きずられているのか精霊由来のものなのか。魂の年齢は高いはずだけど、自分でも子供っぽいと思う行動を度々してしまうのだ。
部屋の中をパタパタと走って逃げる。子ども同士だが、相手は2歳ほど年上だ。子供の頃はほんの数ヶ月の差も大人より大きいから、2歳も離れると私の方が圧倒的に不利になってしまうのは仕方がない事だった。
部屋の隅に追い詰められ、髪ごとフードを強く引っ張られた私は、その痛みから逃れたくてついに魔法を使ったのだった。




