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第7話 ヒトの集まるところ

「ふむ、マヤよ。人里へ行ってみるか?」

「ひとざと?」

「そうじゃ。ヒトが沢山住んでいる場所のことじゃよ。お前さんはヒトの多い場所へは行ったことが無いだろう?大きくなった時に困らぬよう、今から慣れておかねばな」

「おぉ…」


ある日、森の賢者からそんな提案が出された。


私が私に名前をつけた事で、不安定だった身体の中のマナが安定し、人里…つまり森から離れても大丈夫だろうという判断らしい。


今までは半分精霊半分人間という中途半端な状態だったので、精霊の生まれる聖域から離れた時に精霊の部分がどうなるのか分からなかったというのも一つの理由なようだ。


もう一つは、私の精霊としての格が上がった事。


これは私にしかわからない事だけど、精霊はマナを多く集めて肉体を得て存在を確立させなければ聖域から離れられない。正確には、聖域から離れると集めたマナが散ってしまい存在を保てなくなる。森の外に居る精霊はどれも属性の力を得て存在を確立させた個体なのだ。


私の場合は、前世の魂によって属性が定まらず森の外に出られるほどのマナを集めても存在が不安定なままだった。そんな時に、この肉体と融合をしてしまい存在が曖昧なままだったのだ。


そして、つい先日自分で名前つけた事で精霊としての格が上がり、存在が確立されて体内のマナが安定。ようやく人里に降りられる身体となった‥らしい。


この辺の仕組みは良くわからないけど、精霊としての知識がそう教えてくれた。


ちなみに、精霊としての自分は『精霊人』


精霊の格付けは、光の玉こと精霊球から始まり、意思を持った精霊核、肉体を得た下級精霊、属性の力を得た中級精霊、下級・中級を意のままに動かせる上級精霊、人間のような肉体をを持った精霊人、属性を統べる七色の精霊、そして頂点に立つのが精霊王となる。


ちなみに、この世界には妖精もいるのだけど、彼らは精霊を祖先に持つヒト族という扱いだ。ドワーフ、ノーム、ウンディーネ、シルフといった、前世でもファンタジー小説などで有名な妖精達はヒトとして存在している。


さて、そんなこんなで人里へ向かう日がやってきた。案内役はいつもの商人で名前はゴンドさんと言うそうだ。アンドレール商会という所の商人で、これから案内してもらう人里は、彼がいつもここへ立ち寄ってから商品を運ぶ所らしい。


賢者の住まいは特殊な結界が張ってあって、用事のある人しか入れないようになっている。なので、いつも商人のゴンドさんは一人で来ていたんだけど、結界の外には十数人の護衛らしき人達が居たので驚いてしまった。


いかにも冒険者らしい、革や金属の鎧を身に纏った人達が珍しくてついつい凝視してしまう。


あんまり見つめていたからか、クスクスと笑われてしまって少し恥ずかしかった。


馬車に乗ったのも初めてだったので、すごくワクワクしていたのだけど……


「おしりが、われちゃう」

「ぶふっっ」


それもそうだ。車輪は木製だしサスペンションなんて付いていない。そのうえ道路も土を固めただけだから、かなりガタガタと揺れるのだ。


馬車を引く馬は脚が太くてずんぐりとした体型。昔、テレビで見たばんえい競馬の馬みたいだ。重い馬車をひいて長い距離を移動するからなのかな?サラブレッドじゃないんだ…とちょっと衝撃だった。


馬車に乗ってしばらく進み、乙女のお尻が大ピンチを迎えそうになった頃、森の賢者が魔法で柔らかいクッションを作ってくれた。


最初から作ってくれたら良かったのに…とは言わなかったが、どうやら賢者自身も久しぶりの馬車で忘れていたらしい。


この魔法は、お尻の痛みに耐えかねた若き日の賢者が初めて創作した魔法なんだとか。


賢者が魔法を創作するくらい辛いなら、他の人はどうしてるんだろう?と思ったら、旅人は『ゼライム』という弾力のある魔物を捕獲して、革袋に詰めてクッションにしてるんだって。このゼライム、前世では『スライム』と呼ばれる最弱の魔物で、子供でも簡単に捕獲できるのだ。


棲む場所によっては危険な性質を持つらしいけど、大抵は無害なので便利なクッション材とされているんだとか。皮袋に詰めると三日くらいしか持たないので、野営地で新しいゼライムを保革して詰め替える必要があるそうだ。


ちなみに、三日目になるとすごく臭い水分になってしまうので注意が必要だ。ちなみに、ゼライムの時は臭わない。


休憩の時に護衛の人がゼライムクッションを使わせてくれたけど、少しヒンヤリしていてブルブルとした感触が面白かった。ペチと叩くとブルンと震えるのが楽しくて、何度もペチペチしているうちに、水風船を思い出して少し懐かしい気持ちになった。


そうして楽しい時間を過ごしながら、馬車はゆっくりと森の中を進み、やがて人里が見えてきたのだった。

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