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第5話 森の賢者

「儂はお前さんに危害を加えるつもりで来たのではない!!!頼むから話を聞いておくれ!!!」


そんな声が聞こえてくる。


私は風の壁を維持したまま、とりあえず相手の様子を伺うことにした。とはいえ、こちらはヒトと話した事もない赤ん坊。発声もおぼつかないので、こちらから何かを問いかける事は出来ない。


一先ず風の勢いを少しだけ緩める。すると、私に聞く気があると受け取ったのか、相手が話し始めた。


「儂はこの森の南方に居を構える者じゃ。『森の賢者』の称号を女神ナシェリージュ様より賜っておる」 


女神ナシェリージュ……聞いたこともない名前だが、この世界のヒトから信仰されているんだろうか?精霊としては女神に対して好ましい感情もあるけど、前世では神様の存在なんて気にしたことも感じたこともないから『だから?』という感じ。


「昨晩、女神様より神託を賜ってな。お前さんを保護しに来たのだ。異世界からの客人よ」


異世界からの客人。その一言で、私は風の壁を消した。


それは、たぶん私しか知らないはずの事。なので、私に声をかけてきたヒトは本当に私を保護しに来たんだと思った。


(何で1年も放置してたんだ……という文句は言いたいけどね!!!)


木の洞からそっと顔を出すと、そこには真っ白なローブを来た優しい顔の男性が佇んでいた。年齢はよくわからないけれど、白髪でヒゲが生えている。周りの空気はキラキラとして澄んでいて、とても悪人とは思えなかった。


森の賢者は、そっと私に近づくといつのまにか手に持っていた毛布で優しく包み、そのまま抱え上げた。ビックリして賢者の方を見つめると、何も言わずに優しく微笑み私の寝床に背を向けて歩き出したのだった。


* * * * *


「おししょ!できた!」

「おぉ、良く出来たの。えらいえらい」

「えへ」


森の賢者に拾われてから二年が過ぎた。


賢者の住む家は私のいた木の洞から随分と離れていた。私が居たのは森の最奥で、精霊の生まれる聖地として人の立ち入りが禁じられているらしい。


そんな場所にワザワザ立ち入ったのは神託を受けたからというのもあったんだけど、『森の賢者』という称号も関係しているみたい。この辺の話は賢者を訪ねてきた人達からの話を総合した結果から導き出した事。


賢者は私の中身がそこそこ大人だという事を知らない。ただ、精霊と赤ん坊が混ざった生き物だという事は理解しているようだ。賢者というだけあって、そうした気配を読むのは長けているらしい。ただ、独りで暮らしているからこの世界の常識から少しズレているようだ。


賢者は私に難しい歴史の本や魔術理論の本を読み聞かせてくる。理解できなくはないけれど、赤ん坊に聞かせる内容では無いと思うんだよね。


もしかしたら、この世界の子供はこういった本を読み聞かせられるのかもしれない。そんな風に思っていたのだけど…


「賢者様?!赤ん坊になんつー本を読み聞かせてるんですか!!」

「む、ダメだったかの…?」

「も〜!子供の頃は絵本を読ませるモンなんですよ?」


と、私が難しい本を読み聞かせられてると知った商人が絵本を持ってきてくれた。


この商人は賢者と古くからの知り合いらしく、私の存在を知ってから子育て経験のない賢者に代わって私の身の回りの品をアレコレと用意してくれた。更には、様子を見に来る回数を増やして賢者に子育てのアレコレも指導してくれたので、私の生活も随分と人間らしくなった。


マナの吸収も緩やかになり、身体の中にあるマナで魔法を使っても存在が希薄になるような事もなくなった。


様々な食べ物からマナを吸収し、身体はとんどん成長していく。まぁ、普通の子どもと同じようなペースなんだけれども。


最近は、賢者が魔法の扱い方を教えてくれるようになった。私が扱うのは原初魔法と呼ばれる『精霊魔法』で、ヒトの扱う魔法とは使い方も威力も違っていた。


「良いか?精霊魔法は強力すぎる。じゃから、ヒトの前では使ってはならんぞ?」

「あい!」


ヒトが魔法を扱うには、持って生まれた魔法との相性が必要で、属性別に得意不得意が分かれる。私は元の肉体が全属性扱えたので、その点もなるべく隠したほうが良いと言われた。


賢者から魔法やその他の知識を習うたびに、元の肉体のチートさが良くわかる。そんな才能の持ち主だった赤ん坊をあんな酷い状態で森に捨てたのはどんな人物なんだろうか?


知るのは怖いけれど、知らずにいたらもっと大変なことになるんじゃないかと不安がよぎる。もし、捨てられた赤ん坊(わたし)が生きていると知られたら?きっと、相手は私を野放しにはしてくれないだろう。


自分が知らずにその相手と出会わないように、気を付けたほうが良いのかもしれない。


それと、自分を鑑定した時に知った家名。森の賢者なら、その名前を知っているんじゃないかな?もしかしたら犯人かもしれないけれど、血の繋がった人が居るはずの家名。


今はまだ、それらを訊ねる勇気はないけれど。

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