第4話 知らないヒト
私が転生してから1年が経過した。
森に捨てられた赤ん坊と融合した時にはどうなる事かと思ったけど、何だかんだで良い感じに成長出来ている。
相変わらず森の中でマナを吸収し、ゴブリンやオオカミそれからクマなんかを狩っては魔石を食べる生活を続けている。最近は森の果物なんかも食べられるようになってきた。
赤ん坊の身体になった最初の頃は、前世では見たこともない形や色の木の実は警戒して手を出さなかったんだけど、いつの間にか見たものがどんな名前でどんな効能なのか・食べられるのか道具として使うのか、分かるようになっていた。
つまり、鑑定能力が芽生えたのだ。
私が知ってるファンタジー世界の鑑定能力は、大抵が謎のウィンドウが現れていろんな情報が書いてあるものだったけど、私の場合は頭の中に情報が沸いて出てくるみたいだった。
それにしても、この知識はどこからきてるんだろう?少なくとも、私が知っている情報では無い。前世でも見たことなかったし。これもファンタジーな世界だからなんだろうか?
まぁ、そんな事を考えても答えが見つかるわけもなく。そんな疑問は早々に忘れる事にして、今日も森の中をフワフワと移動しつつマナを集めているところだ。
赤ん坊の身体は順調に大きくなっていて、手足もだいぶ自由に動かせるようになっていた。
普通の赤ん坊なら、何か食べないとダメなんだろうけどマナさえあれば問題ない。それとは別に、ちゃんと食事からも栄養やマナを取り込めるのがわかったので、調理の必要ない木の実も積極的に摂取している。
お気に入りの木の実を見つけて、枝の上でパクリと食べる。
真っ青なドラゴンフルーツのような見た目の果実は、皮が薄いので私の小さな指でも剥くことが出来る。中は外側と同じく真っ青な色をしているけれど、かじるとジュワッとした果汁が口の中に溢れて爽やかな甘さが広がる。味と食感は前世の桃に似ているかな?
一つ食べればお腹は満足なので、夜のオヤツ用に一つもいで『空間収納』の中へ放り込む。
この能力は赤ん坊が持っていたもので、肉体と融合した際に使えるようになった。他にも色々使えそうだけど、今は赤ん坊なので特に使う場面も無いかな?
そうして日課を終えて、いつもの寝床へ戻ってきた。
赤ん坊と融合した時に見つけた木の洞が何だか快適すぎて、すっかりお気に入りの寝床となっている。森羊という、大きな身体に角が3本あるヒツジの毛を拝借してベッドにしてあるからフカフカだ。
魔法で木の洞の穴を塞げば、魔鳥や魔蟲に襲われる心配もないし雨風も凌げるし景色もいいから最高なのだ。
そんな寝床にコロンと寝転んで、ウトウトと微睡む。今日も何事もなく1日が終わる…そんな風に思っていた。
しかし、その日はいつもと違っていた。
何かの気配に目が覚める。そっと木の洞から顔を出すと、どことなく緊張した空気が漂っていた。
(何だろう。森に何かがいる?危険なものではなさそうだけど、いつもは騒がしい精霊たちが静かだ)
神経を研ぎ澄まして周囲を伺うが、よくわからない。
どれくらい経っただろうか。不意に空気が動いたのがわかった。そして次の瞬間……
「おや、これは驚いた」
突然、男性の声が聞こえてきた。
驚いたのはこっちの方で、声の主を確認する間もなく慌てて木の洞へ引っ込む。
(ひひひひひひひひ、ヒトがいる?!全然気付かなかった!!なんで?!)
こう見えて一応精霊なので、周囲に何が居るのかは何となく把握出来ている。なのに、声がするまで全く気付けなかったのだ。
迂闊だった。もしかしたら、相手はそういった気配を消せるのかもしれない。
ふと、この身体が捨てられていた事を思い出す。あの時はまだ、精霊としての力も弱くて周囲の気配なんてわからなかった。
もし、この身体を捨てたヒトと同じだったら…
(殺される)
ゴブリン達から向けられる殺意のようなモノは感じないけど、気配を消せるならわからない。相手の強さも自分の強さもわからないけど、何もしなければ殺されるのは自分だ。
(前世より短い寿命なんて……絶対ゴメンだ!)
周囲からマナを集めて、自分を中心に爆風を起こす。内側から外へ。姿の見えない相手を吹き飛ばすつもりで。
例え相手のほうが強くても、一瞬のスキさえあれば逃げ出せるはず。そうして上空に逃げようとしたその時だった。
「あーーーまてまて!!!頼むから話を聞いておくれ!!!!儂はお前さんに危害を加えに来たのではない!!!!」
風の壁の向こうから、そんな声が飛び込んできたのだった。




