第3話 思わぬ出来事
※ちょっと残酷な表現があります。
私が転生してから一ヶ月ほど経った。
流石にこれだけの時間が経つと、転生したと認めざるを得ない。心の何処かではまだ認めたく無い気持ちもあったけど、ようやく薄れてきたところだ。
相変わらずゴブリン狩りと光の玉集めは続いている。最近ではもっと大型の生き物も倒す事が増えた。生態系は大丈夫なんだろうか?とも思ったが、生物が居なくなる事はないから大丈夫だと思う。
そんな生活を続けていたある日の事だった。
「あれ…?ゴブリンにしては小さいな」
森の中に、ゴブリンに似た小さな生き物が布にくるまれた状態で落ちていた。
しばらく観察したが、ピクリとも動かない。なので近寄ってみると……
「これ……ヒトの赤ちゃんだ……」
サッと全身が冷たくなる。
そこに居たのは、最早生きているのが不思議な状態の赤ん坊だったのだ。身体のアチコチが赤黒くなり、顔は焼け爛れている。命の灯火は辛うじて…といった感じ。
このまま放っておけば、すぐにでも命は潰えてしまうだろう。精霊たる自分が『放っておけ』と囁く。いつもならその声に従うのだけれど、元・人間な部分がその囁きを全力で拒否する。
ヒトの心を持つからか、どうしても無情にはなれない。罪悪感なのか何なのか。助けることは果たしてこの赤ん坊の為になるのか。自分の行動は偽善じゃないのか。この後の責任はどうするのか。ここで終わるのがこの赤ん坊の運命なのではないか。精霊がそこまで手を出して良いのか。
迷っている間にも、赤ん坊の命は零れ落ちていく。胸が締め付けられるような思いで、無意識にその赤ん坊に触れた、その時だった。
身体が赤ん坊に吸い寄せられていく。止めようとしても、身体の先端からマナの粒子になって赤ん坊に吸収されてしまいどうにもならない。
「やば…っ」
触れたことを後悔する頃には、すっかり赤ん坊に取り込まれてしまっていた。
* * * * *
(身体が熱い!!痛い!!!なにこれ?!)
声を出そうにも、うまく声が出せない。全身を激しい痛みが襲ってくる。
パニックになりつつも、本能的に身体にマナを巡らせて痛みを緩和させた。意識を集中させると、身体の至る所のマナが滞り欠けているのがわかる。取り込まれた自分のマナを、欠けた部分を埋めるようにして巡らせていく。
足りない分は周囲からマナを引き寄せて補った。
しばらくすると、マナが定着したのか痛みも熱もすっかり治まり、自分の魂が赤ん坊に馴染んだのを感じた。…つまり、赤ん坊の身体を乗っ取ってしまったのだ。
「ふぇぇ(うそでしょ…?)」
身体は赤ん坊のままなので、うまく言葉が出てこない。手足は自由に動かせるが、この身体で立ち上がるのは難しそうだった。
試しに魔法を使ってみると、こちらは吸収される前と同じように扱うことができる。
ホッとしたが、このままではゴブリンや他の生物のエサになってしまう。なので、魔法で身体を浮かせてから、高い場所にあった木の洞の中に身を隠した。
* * * * *
私が赤ん坊と融合してから一ヶ月が経った。
木の洞に身を隠しながらマナを取り込み、肉体の成長を促す。精霊と融合したからか、私が内側からマナで肉体を構築したからかはわからないけれど、どうやら私はヒトであってヒトではない精霊に近いが純粋な精霊とも違う生物になったらしい。
どういうことかと言うと、まずマナを吸収していれば食事が必要ない事が挙げられる。前世では子供を持つ機会には恵まれなかったけれど、身近に赤ん坊が居たので一応知識はある。赤ん坊に限らず、生物は食事をしなければならないけど、自分はその枠に当てはまらなかった。
これは、この森で生活するには好都合だった。食べなければ死んでしまうような身体では到底生き抜くなんて不可能だったからだ。
そして、魔石の取り込み方。以前は触れれば身体にマナとなって吸収されたが、今は口に含んで飴のように溶かして取り込んでいる。
もちろん触れても吸収は出来るのだけど、この魔石…なんと味を感じたのだ。
同じ吸収なら、味のある方が良い。この辺はヒトとしての自分がそうさせているんだと思う。赤ん坊なので手に持ってペロペロと舐めるのだが、この吸収方法は人間らしくて気に入っている。時間がかかるのが難点なので、一つ二つ確保したら、後は前と同じように吸収しているのだけど。
どんな理由で赤ん坊が森に捨てられていたかはわからないけど、この世界には人間が存在しているというのがわかった。
「ふにゅむ(もう少し大きくなれたら、人里に行ってみよう)」
精霊の本能に従って、マナを吸収するだけの日々に新しい目標が出来たのだった。




