第2話 ここは現実ですか?
「いや、おかしいでしょ」
自分の口から出た声は鈴の鳴るような可愛い声。それにも驚くが、それよりも自分の状況に疑問を感じるようになっていた。
森の中を漂い続け、身体を得るために光の玉を吸収し続けてずいぶん経った。夢中で光の玉集めをしていたが、そろそろ目が覚めてもおかしくないのに一向に覚める気配がないどころか、現実感が増していく。
朝が来て、夜になり、また朝が来る……少なくとも1週間ほど過ごしているはず。
お腹もすかないし、眠くもならない。やっぱりココは夢の中なんだと思ったが、光の玉を取り込んで感覚が鋭くなると、肌で感じる空気が現実と変わらないモノのような気がしてきたのだ。
不思議ながらも、心の奥から湧き上がる精霊の本能のようなものに従って森の中での生活を続けた。
この頃になると、光の玉が集まりやすい場所が分かってくる。いわば餌場のようなものたが、そこをユラユラと巡回すれば効率よく吸収出来るようになっていた。なので割と時間が余る。
では、何をして過ごしているのか?
それは『検証』だ。
精霊は特殊な条件が無ければ見ることも触れる事も出来ない。それは魔物にも言えることで、現に目の前にいる小鬼は自分の存在に気付かずに通り過ぎていく。
試しに、ゴブリンの肩をつついてみる。ブニブニとした感触が指先に伝わってくると同時に、肩を突かれたゴブリンが振り返った。
姿が見えていればたちまち襲われるだろうけど、ゴブリンは不思議そうに首を傾げると再び前を向いた。
どうやら、姿が見えずとも触れることは出来るようだ。
魔法も使ってみた。が、身体の中から何かが抜けて自分が薄くなるような気がしたのでそれ以来使うのは控えている。そして、魔法を使った後は自分に吸収される光の玉が格段に増えるのもわかった。
この光の玉は高密度の"マナ"で、ある程度マナが集まると核となる魂が宿る。そこから、マナを取り込んで成長し身体を得て精霊に至るのだ。そして、魂を持たない光の玉は常に生まれている。空気中にマナが豊富に含まれているからだろう。
魔法を使う為にはマナが必要だ。身体を得たとはいえ自分も濃いマナの塊なので、そこからマナを引き出すと自分の存在が薄くなるのは当然のことだった。その分マナを吸収すれば良いのだけど、今はまだ使うべきじゃない。
自分の中のマナを使わずに魔法を使うにはどうしたらいいのだろう。そうだ、空気中のマナを使えば良いのでは?と検証し始めて今に至る。
魔法を使うにはイメージが必要。人差し指を立てて空気中のマナが集まるイメージをし、LEDライトの光を思い浮かべれば、指先に小さな灯りが現れた。
空気中にあるマナを使って魔法を使うことは意外と簡単だった。人が無意識で呼吸をしているのと同じで、特に考えなくてもマナを集めて魔法を使う事ができたのだ。
そこからマナの集め方を変えるように意識すると、空気中のマナを自在に扱えるようになってきた。すると、魔法の威力が上がった。
魔法を駆使すれば、ゴブリン程度なら倒せる。夢の中だからか精霊の気質なのか、生き物の命を屠る事に抵抗感は無かったが、最初はむせ返るような悪臭と錆びた鉄の臭いに気分が悪くなったりもした。
それでもゴブリンを倒したのは、彼らが身の内に宿した宝石のようなマナの石が目当てだったからだ。光の玉よりも効率的にマナを吸収出来るので、見つけたら積極的に狩っている。
そして、ようやくココが現実世界である事に目を向けた。
「いや、何でこんな事になってんの……?」
誰とも無しに疑問をぶつけてみる。が、答えは返ってこない。
考えられる事はただ一つ。
「異世界転生……って事か」
どう考えてもソレしかなかった。何故なら、魔法が使えてゴブリンが存在しているのだから。そして、たぶんあそこの木に張り付いているプヨプヨとしたものはスライムだろうし、ゴブリンに狙われてるのは角の生えた大きなウサギなのだ。
「異世界なんだなぁ……」
現実のような現実でないような。そんな不思議な感覚だが、自分が元の日本に戻れなさそうなのは理解した。死因は分からないが、死ぬ寸前の事は覚えてないので苦しまずに逝けたんだと思う。
自分が担当した小説や漫画にも、自分がいつの間にか異世界に転生していた…というモノはあった。しかし、まさか自分がそんな目に遭うだなんて。アレは虚構だから面白いのであって、現実になったら笑えない。
何より強く思うのは、自分の部屋に残した誰にも触れられたくない品々が、どうか人目に触れませんようにという事。親や兄弟に関しては『申し訳無い』という思いが無くはないが、元々ドライな関係だったので『会えなくなって悲しい』といった可愛い感情は沸いてこなかった。
まぁ、すでに転生しているのだし今更どう足掻いても戻れないのだ。それなら精霊としての力をもっと高めて、いずれは世界中を見て回ろう。
それからも、ひたすら光の玉とマナの石を集める日々は続いたのだった。




