第1話 夢の中はファンタジー
葉擦れの音、鳥のさえずり、爽やかな風、澄んだ空気。
久しぶりに見た夢が、こんなにもリアリティ溢れる夢だなんて……相当疲れてたんだな、私。ここ一ヶ月はトイレの時間すら惜しいくらいの忙しさで、ようやく自分の部屋に帰ってこれた所までは覚えてる。
たぶん、疲れすぎて部屋の何処かで行倒れたんだと思うけど、それもいつもの事。今はこの気持ちの良い夢を堪能しよう。
うーんと伸びをするけど、身体があるような無いような、フワフワとした不思議な感覚。
そりゃ、夢だもんね。ここで思い切り腕を振ったら壁か床に手を打ち付けて目が覚めてしまうヤツだ。せっかく意識はあるんだから、醒めないように慎重に動こう。
どうやら、自分は木の枝にいるらしい。そこそこ高い場所のようだけど怖さは感じない。だって、私はここから飛べるのを知っているから。
枝からフワリと飛べば、思った通りにフワフワと身体が浮かぶ。そんなに早くは飛べないけど、木々の間を吹き抜ける風に乗って移動すれば、楽に飛べるのだ。
しばらく風と一緒に飛んでいると、ここがどんな場所なのかが見えてきた。適当な枝に留まって下を見ると、緑の皮膚に大きな耳。鉤鼻で大きく裂けた口から長い舌がダラリと出ている。上半身は裸で下半身には草の葉で作られた腰蓑を纏った小鬼の姿が見えた。
どうやらファンタジーな夢らしい。よりによってコレだなんて……絶対仕事のせいだ。
私の仕事はファンタジー小説の挿絵とコミカライズ版の絵師。……つまり漫画家って事。元々ファンタジー系はそこまで読んでなくて、ツブヤイッターで気になったアニメや漫画の絵を乗せてただけの趣味絵師。
多くはないけど『イイよ』も貰えて満足してたんだけど、その中にファンタジー小説のコンテストで大賞を獲った人が居たらしく。
『挿絵やコミカライズの担当してもらうなら、この神絵師さんしか勝たん!』
と、作者本人がツブヤイッターで発信してしまったものだから描かざるを得なくなってしまったのだ。
私、絵を描く事誰にも言ってないんだよね。
コミカライズ版も担当させてもらえたのは嬉しい事なんだけど、本業もあるわけで。つまり二足の草鞋で連日徹夜作業をしていたのだ。
副業になるので会社には相談済み。元々副業OKの会社なので詳細は伏せて申請してある。そのせいで地獄を見てるんだけど、絵師とバレた時の方が怖いんだよね。
特にこの一ヶ月は本当に忙しくて、てんてこ舞いだった。
そんな中でのファンタジーな夢は、仕事を思い起こさせて若干気持ちが萎えてしまう。まぁ、見てしまったのなら仕方がないから、今はこの夢を楽しむ事にしよう。
眼下のゴブリンは3匹。なにやら茂みをガサガサとかき分けているけど、食料でも探してるんだろうか?
しばらく動きを観察したら、風に乗って再び移動。
しばらくすると、フワフワと浮かぶ光の玉を見つけた。近寄って手を伸ばすように意識してみると、光の玉はシュンッと消えてしまった。その後も、光の玉は触れようとするたびに消えてしまった。
夢だから触れないのかもしれない。
それはそれとして、消え方が何となく面白くて森の中を移動しつつ光の玉を探しては触れて周った。
やがて辺りが暗くなる頃、不思議なことが起きた。
夢中で光の玉に触れていたら、何となく身体の感覚がリアルになった気がしたのだ。さっきまでは意識だけがハッキリとしていたのに、草や木の感触を感じるようになったのだ。
それと同時に、光の玉がほんのり温かいのも感じるようになった。不思議に思っていると、光の玉に触れる小さな手の存在に気がついた。この見知らぬ手はどうやら自分の思う通りに動いているらしい。
手のひらを表裏に向けたりグーパーとしてみたり…下の方に意識を向ければ胴体や足も見える。そっと顔のある部分に触れると、柔らかな肌の感触とフワフワとした髪の感触もあった。
成長したんだ。何故か分からないけど、そう確信していた。あの光の玉は生まれたばかりの精霊の欠片。それらが互いを吸収し、吸収されながら大きく成長して、やがて属性を持つ精霊になる。そうなると、光の玉を取り込むことはできなくなってしまう。
何故なら、精霊に至ると身体が出来るのだ。そうなると、光の玉に触れることは出来てもそれ以上は何も出来ない。精々他の光の玉とくっつけて遊ぶくらいだ。なので、その後は自分が心地良いと感じる場所で空気中に漂う"マナ"を取り込みながらゆっくりと成長するのだが……
たぶん、自分は違う。
その証拠に、身体を得ても光の玉は相変わらず自分に吸収されてしまうのだ。そして、それは続けるべき事なんだと理解していた。
まだ足りない。
精霊の本能がそう囁く。身体の形は得たけれど、これは本当の身体ではなく取り込んだ光の玉で形成された仮初の身体。感覚はあるけれど完全に肉体を得たとは言い難い。
取り込んだ光の玉が血となり肉となるまで、もっと光の玉を集めなければ。
こうして、私はその後も光の玉を吸収し続けたのだった。




