外的関係のなろう史 (2004-2013頃)
◆1.コナン小説リング
◆2.ケータイ小説
◆3.小説検索・ランキングサイト
◇勇者召喚
◆4.Arcadia
(1)転生
(2)MMO
(3)迷宮/ダンジョン
◆5.アルファポリス
◆1.コナン小説リング
小説家になろう開設最初期である2004年時点において、作品の投稿及び閲覧の中心的存在であったのが「名探偵コナン」の二次創作。
これらは「協賛サイト」である「コナン小説リング」を通じて投稿されたものであり、最初期のなろうは既存のサイトに小説投稿用のシステム「NW-SYSTEM」を供与し、それを通じて作品とユーザを確保していたという面がある。
なろうの開設は4月2日とされるが、Nコード0001A~0017Aまでがコナン二次、かつコナン小説リングの「2004年4月11日より小説の投稿方法が大幅に変更」という文言を見るに、最初の作品投稿としては4月11日以降だったものと思われる。
コナン二次の存在感が最もはっきり分かるのが、初期に実施していた「アクセス数発表」だ。
開設から半年ほど経った2004年10月の数字であるが、「読者数」に圧倒的な開きがある。
この時期のなろうはコナン小説リングを通じた利用が主であり、データの欠けから明言はできないが、およそ2005年初頭頃まではこうした状況だったかと思われる。
◆2.ケータイ小説
これに関しては「○○」というサイトの影響、といったように具体的な話ではない。
2006~2007年頃の「第二次ケータイ小説ブーム」、その時期のなろうの人気ジャンルが、「女性向け」「現代」「恋愛」といった傾向色濃かった状況への仮称である。
(※小説を読もう!で過去10日以内にもっともよく検索されたカテゴリ/キーワード)
特に2007年5月の「ラブノベ」開設に際しては、公式ブログにおいて「一番、需要が高い思われる携帯恋愛小説サイトの運営を開始」という文言が見られ、当時がどんな状況だったか窺える。
なろうで掲載していたことが確認できる最初の書籍化作品も、2008年2月開催のアルファポリス恋愛小説大賞で特別賞を受賞した「らしく。」であった。
こうした現代舞台の作品は、異世界モノに押されてゆえか、2008年に入ると後退していく姿が見られた。
ただ2009年リニューアル以前のなろうは、ランキングが「ケータイからの評価」「パソコンからの評価」で分かれており、特にケータイ側に関しては依然根強い支持を集めていたようである。
(2009年第1四半期のモバイル版ランキング)
◆3.小説検索・ランキングサイト
2009年リニューアル以前のなろう、「各種マニュアル/各種規定規約」の「小説読者数アップの心得」には以下のような記載があった。
ランキングサイトへのなろう作品登録、ランキングタグが設置可能となったのは2007年4月30日のことであり、当時の公式ブログでは「これに登録するのとしないのではアクセス数に大きな差がでます。読者数を増やしたいのであれば、必ず登録するようにしましょう。」とまで述べている。
一方のランキングサイト側について見てみる。……と行きたいところなのだが、残念ながら「カオパラ」は2007年リニューアル以後がほとんど分からず、「NEWVEL」も数量的なデータ一切が不明、「小説 大好き!!」に関しては二次の更新通知の方がメインなど、あまり有効とも言い難い。
それでも「HONなび」「Wandering Network」に関しては、2008年を中心として日間1万人近い、非常に顕著な人流増大が確認できた。
若干女性向け寄りかつオリジナルに偏るきらいはあるが、00年代半ばまでは個人がHPを作って小説を掲載し、何らかのランキングサイトに登録する、という行動は広く見られるものであった。
そうした中で「個人HPを持たずとも小説を掲載できる」「ランキングサイトに登録できる場」として、なろうが作者を集めていったものかと思われる。
なろうのシステム面の話をすると、作品の「お気に入り」(現ブックマーク)で更新通知が来るようになるのが2009年9月30日、日間・週間・月間・四半期と「小説家になろうの『今』を知る」ための「ランキング」が設置されたのが2010年12月24日のことである。
それまでの期間、具体的には2008~2010年の約3年間において、こうした機能の一部を補完していた存在こそが、ランキングサイトであったと言えよう。
HONなび「人気ランク」では「夜明けの月」「異世界の王様」「薬の罠に気をつけて」「クランベールに行ってきます」「侯爵様と女中」「蔦王」「四竜帝の大陸」、Wandering Network「人気Rank」では「異界の魔術師」「神速果断のシャープネス」「A++」「貧民と非国民と空の橋」「ワールド・カスタマイズ・クリエーター」「白の皇国物語」といった作品名が確認できた。
これらは古い時期のなろうの「総合評価が高い順」に見られた作品や、後の書籍化作品を挙げた。なろう掲載作品へのアクセスを行う上で、ランキングサイトというものは非常に強固な導線の1つであったと思われる。
こうした影響は単になろうとランキングサイト相互に人流が発生したということにとどまらず、なろうでポイントを集める作品として、作風に大きな影響を与えたのだろう。
女性向けの「異世界」「恋愛」ジャンルや、特に「トリップ」「迷い込み」という語を用いた異世界転移ジャンル。
これらは00年代半ばに「個人HP+ランキングサイト」という形で流行していたものが、2008年頃になろうに流入。そして同年1月には、なろうの評価方式が「平均点方式」から「無制限加点方式」に変わったこともあって、ポイントに繋がりやすい作風としてテンプレ化したものと思われる。
◇勇者召喚
タイトルの「外的影響」からはやや外れるのだが、2009年のなろうを特徴づけるのが「異世界召喚」、その中でも特に「勇者」が絡む作品。これは上述の「トリップ」「迷い込み」とは若干傾向が異なる。
具体例としてまずは「黒い剣の異世界譚」、この作品は2009年第2四半期の評価トップ、かつリニューアル直後約半年間の時期における総合評価1位だ。
これが起点となったか、「なりたくないけどチートな勇者」「勘違いの異世界戦記」「Re:Creator――造物主な俺と勇者な彼女――」「負け犬以下の魔法使い」「へんじがない。ただの偽勇者のようだ。」「勇者?・・・いえ、人違いです。」「義妹が勇者になりました。」「ワーカーホリック」という具合に、2010年にかけて「勇者召喚」は特に有力なテンプレとなった。
この背景にあると思われるのが、2008年10月のケータイ向け二次創作検索サイト「NOS」の開設。そしてこれが起点となったであろう、なろうの「急激な男性化」である。
(※小説を読もう!で過去10日以内にもっともよく検索されたカテゴリ/キーワード)
2007年時の検索結果とは似ても似つかない、男性向け色濃い傾向と、人気キーワードの上位に位置する「ゼロ」「魔」の存在。
具体的なことを言えるものではないが、異世界転移の中でもこと「召喚」というギミックに関しては、この時期二次創作集団の流入も背景にあって、拡大していったものかと考えられる。
◆4.Arcadia
Arcadiaというサイトを一言で説明するなら、「男性向け創作界隈の統合者」といったところだろうか。
00年代半ばまでは主に18禁PCゲーム原作の二次創作を中心に発展し、そこに美少女モノのアニメ原作が流入。およそ2008年後半から2010年前半頃にかけて、国内最大規模の人口を擁するweb小説投稿サイトとして強い存在感を示した。
オリジナルにおいてもそれは同様であり、アニメ化原作を例にすれば「アクセル・ワールド」「自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり」「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」「オーバーロード」「幼女戦記」「鬼人幻燈抄」と、これらの作品が最初に投稿された場所となる。
管理者の発言を元に具体的な数字を挙げると、2009年時点に関して、
といった具合だ。日間のトップページUAに比して、日間の総PV数の差が小さいことに関しては、サイトの特性的な部分もあったのだろう。
Arcadiaに問わず00年代の個人サイトは「他サイトのトップページ以外に直リンクするのは御法度です」(捜索掲示板注意事項)というのがある種のマナーであり、一方のなろうはランキングサイト等を通じた「小説への直リンク」を許容しており、その点で大きなギャップを生じたものと思われる。
また数字に表れにくい注意点に触れておくと、Arcadiaの作風はほぼ男性向けといったものに限られ、一方のなろうはこの時点では女性向けの作風がかなり強いサイト、という傾向が強かった。
以下では最盛期Arcadia内での大きな流行に関して触れ、商業化直前時期の小説家になろうへの影響に関して明らかにしていきたい。
(1)転生
まずは「転生」、現在のなろう必須タグで言うところの「異世界転生」というギミックに関してである。これは主に二次創作において強固な流行が形成され、それがオリジナルにも波及した、という傾向が色濃い。
Arcadiaの捜索掲示板を例にとると、転生という語の利用は2008年後半期から急激な増加が確認でき、「なのは」「ネギま」「ゼロ魔」といった原作を中心に「転生オリ主」モノの二次創作を中心として、最も強固なテンプレとして定着を見せた。
オリジナルで見ると、特にArcadiaで流行を見せたものとしては「歴史転生モノ」とでも言うべきジャンルだろう。
歴史というジャンルはその後のなろうで必ずしも流行ったとは言い難いものの、「地方の領主子息に転生」「現代知識を生かした内政」などのギミックは、ゼロ魔や恋姫といった二次創作と並んで、転生モノのテンプレ形成に大きな影響を与えたものかと思う。
こうした流行パターンに関してはなろうも同様であり、2010年5月時点の総合評価上位60作品を見てみると、
といった数字であった。あらすじやタグに「転生」という語を含む作品は、一次創作では2/42作品に限られたのに対し、二次創作では7/18作品が該当。さらに言うと二次創作側は男性主人公作品一色であり、一次創作とは根本的に異質であったことが窺える。
当時のなろうオリジナルは「トリップ」「召喚」が圧倒的に強く、2010年時点では「転生」モノの人気作はかなり少数に留まったようだ。
転生モノの流行を時系列で整理すると、
①最盛期Arcadia(2008-2010頃)二次創作を中心とした流行
②2010年頃を通じてなろう二次創作(「にじファン」以前から)にも流入
③2011年にはなろうオリジナルへも波及
という風に推移したと言えよう。現在出来る範囲で検索してみると、
という数字が見て取れ、転生を示す緑バーは2011年を起点に急増していった。
(2)MMO
次に「MMO」、現在のなろうのジャンルで言えばSFの「VRゲーム」がそれにあたると言えようか。Arcadiaにおいては専ら「MMOモノ」という言い方が主であったが、MMO自体の衰退が叫ばれるようになって久しく、近年に来るほどこの語の利用は減少している。
これはArcadiaのオリジナルで特に好まれたジャンルの1つであった。
特に著名なものとしては「超絶加速バーストリンカー」=「アクセル・ワールド」だろう。ただ実際のところこの作品の連載はArcadia最盛期からは外れ、掲載期間に関しても5ヵ月ほどと、影響性としては割り引いて考えるべき面も大きい。
またこれと合わせて押さえておくべきものが、「ゲームキャラとして異世界へ」というテンプレの形成。
特に著名なものとしては「オーバーロード」だろう。なろうにおいては「ログ・ホライズン」が2ヵ月ほど早く連載開始しているのであったが、この二者は「MMO」+「異世界転移」という部分こそ同じくしつつも、方向性を異にするように思う。
MMOという語を訳すと、「大規模・多人数・同時参加型」というものとなる。ログホラに関しては多数のプレイヤーの集団転移であり、そうした集団の協調ないし緊張を軸においた、MMOという原義通りの作品と言えるだろう。
対するオバロは、(細部はさておき)主人公一勢力の単独転移。「他のプレイヤー」という存在は消失し、主人公勢力と異世界の対峙という面がより強く出てきている。
これが何をもたらしたかというと、その後主人公単独転移へというテンプレの簡略化。MMOは単に主人公へ力を与える1ギミックまで落とし込まれ、執筆難易度が押し下がると同時に、投稿量は顕著に増大していった。
ログホラは2010年のなろうを代表する単独の人気作ではあったが、この時期のなろうにおいてゲーム系作品の流行は見られず、2011年以降の増加がより顕著である。
特に2012年は「ソードアート・オンライン」のアニメが放送された年であり、この年は際立った増加が見られた。
異世界転移がランキング除外されて久しい、現在のなろうにおいては馴染みが薄いかもしれないが、「ゲームキャラとして異世界へ」というテンプレは、特に2011年~2013年頃のなろうにおいて、ランキングの上位を占めた最も有力なテンプレの1つであった。
なろうにおける2011年の流行において起点となったと思われる作品としては、「リアデイルの大地にて」を挙げておくべきだろう。
(朱色が「ゲーム要素+転移系」、黄色が「VRゲーム」)
(3)迷宮/ダンジョン
最後に「迷宮」ないし「ダンジョン」、これはジャンルというわけではないが、現在のなろうにおいても特に広く利用されるギミックと言えよう。
これもまたArcadiaのオリジナル、に限らず二次創作を含めて特に好まれたものの1つであった。
特に著名なものとしては「ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか」だろう。……だろうが、この当時の「なろうにおける影響性」を考えるにあたっては、他に触れておかなければならない作品が存在している。
その作品が「シーカー」だ。タグ・あらすじ中に「迷宮」の語を含む作品としては最も早く、先の表でも出てきた通り四半期ランキングの上位を占め、短期間のうちに累計10位台まで上った1作であり、投稿から半年と経たずに書籍化の告知までなされた。
まことに不本意ではあるが、純粋に数字を追う限りにおいて、この作品の影響性は無視できるものではない。
現在出来る範囲で検索していくと、
という数字が見て取れ、明確に2011年が起点とした増加が窺える。2012年7月~2013年10月の間において累計1位を占めた「異世界迷宮で奴隷ハーレムを」に関してもこの年であり、迷宮というギミックはなろうにおいて完全な定着を見せた。
またこれらの作品は「ステータス」要素を多用した点も特徴であり、なろうテンプレと呼ばれるものの一角が普及する過程においても重要な役割を果たしていたように思う。
少し話を戻してダンまちの影響性として挙げるべきは、Arcadiaないしなろうへの掲載時以上に2015年のアニメ化だろう。この年を境に、迷宮以上に「ダンジョン」という語への傾斜が、急激に強まっていることが見て取れる。
2016年以降では異世界転生・転移ジャンルのランキング除外も相まって、これらを用いなくて済む異世界モノ、あるいは現代に登場させるのも可能な便利な要素として、ダンジョンというギミックは特に好まれたのだろうと思われる。
これまで見てきた3要素は、いずれも「2011年」を起点としている。これはなろうに「ランキング」が設置されたことが大きかったものと思われる。
それまでのなろうは参考にしやすい検索方法も「総合評価の高い順」程度に限られ、仕様の面からも人気が「トリップ」や「召喚」というギミックに固定されがちだった面がある。
その状況から2010年末には、日間週間月間四半期と、より短い期間の人気を通じて作品にアクセスする手段が確立されたことにより、そこで人気を博すジャンルに関しても多様化していったのだろう。
その反面、女性向けと見られる作品は急速に後退していく姿が見られた。2010年代前半期はなろう利用者の男性化が際立って進んだ時期と見られ、女性主人公作品は多くがランキングから姿を消していくこととなる。
はっきりと言えるものではないが、2009年9月リニューアルによる評価方式の変更(以前は作品投稿者以外の評価はシステム上小さく抑えられていた)や、2010年末には自前のランキング設置により、ランキングサイトの存在感が相対的に減少などが関係していたものと思われる。
単純な人口では2008年末頃には男性優位に傾きつつあったと見られるが、その頃はまだ女性向け色濃いサイトを通じた導線も別に存在しており、ある程度の拮抗を保っていたが、それが崩れて急激な男性優位のサイト化が進行したのだろう。
本節の主題であるArcadiaに関しては、2010年後半頃から人流の減少が見られるようになっていく。特に2011年の東日本大震災時に際しては管理者自身も被災し、運営困難な状況が続いた。
そこにいた人間の多くがこの時期なろうへ移住していったものと思われ、これもまた男性優位なサイト化を推し進めた要因の1つかと思われる。
なろうはweb小説投稿の場所として絶対的な存在となり、自前のランキング設置と合わせて、もはや作風面において影響を与えうるようなサイトは存在しなくなった。
◆5.アルファポリス
現在のなろうユーザはアルファポリスという語を聞いてどう感じるだろうか。おそらくは大手の小説投稿サイトないしwebコミックのサイトあたりではないか。
ただこれから扱う時期、なろうと特に関係の深かった2010年代前半に関しては、先述した「ランキングサイト」として認識してほしい。アルファポリスが小説投稿機能を持つようになるのは2014年10月のことであり、それまでの時期は出版社の運営という差異こそあれ、あくまでランキングサイトの1つであった。
アルファポリスはかつて「月間訪問者数」という数字(先述のトップUAに該当)を出しており、時期は限られるものの当時の人流をほぼ完全な形で把握できる。
最も顕著な動きが見られたのは、2009年9月の「エタニティブックス」創刊時。ランキングに登録してある小説が、一定のポイントで書籍化することが認知された契機であり、急激にアクセス量が増大したことが見て取れた。
ただ当初はなろうとの関係は非常に薄く、書籍化は個人HPをメインとして進行したようである。またレーベルの特色として「女性向け」「現代」「恋愛」に特化したものであった。
書報で確認する限り、なろう作品の書籍化は2010年5月の「EYES」が最初の例だ。公式ブログ及び作者活動報告を参照するに、「ダイジェスト化」という手法に関してはこの時に産まれたものと考えられる。
一応この手法に関しても触れておきたい。公式ブログ「ダイジェストへの対応変更に伴う運営対応の基準について」を参考にすれば、
①アルファポリス→書籍化契約として小説全文をweb上で掲載するのは認められない
②作者→でも「小説家になろうでの連載を継続したい」
③小説家になろう→「読み物としての体裁を為すに十分な描写・文章量をご準備いただくことを条件」に許容
という中で産まれたのが、文字数を一定まで削った作品を残す、ダイジェスト化という手法である。
個人HP等全てを確認できたわけではないが、アルファポリスにおける書籍化は原則削除を基本としており、この時期のなろう内において特異に広まった手法(ただなろう内でもレジーナブックス系は多くが削除)であるようだ。
なろう作者がアルファポリスへの登録を本格化させた契機と考えられるのが、2010年11月の「レジーナブックス」創刊であり、その際には当時のなろう総合評価8位であった「リセット」が書籍化している。
エタニティが現代系であるのに対して、レジーナは異世界系のレーベルであり、当のリセットに関しても神様転生ギミックを用いた一作だ。その後「女性向け」「異世界」「恋愛」という作風を中心に、数多くのなろう作品が書籍化していった。
かつては個人HP多数が登録する場所であったアルファポリスだが、なろう作者の登録が相次ぐ中で、徐々になろう専門ランキングサイトであるかのような様相を呈していく。
2011年初頭頃までは女性向け作品に限られていたものが、後半期には男性向け作品まで挙って登録するようになる姿が見て取れた。冗談めかして語られた「シーカーショック」であるが、「なろう作者のアルファポリス登録ラッシュ」として見る場合誇張では無い。
おおむね2010年後半~2013年頃のアルファポリスというサイトは、なろう作者が本気でweb書籍化を望む場合の、唯一の存在だったといっても過言では無い。
中には「ログホラ」「劣等生」「オバロ」という書籍化例こそあっても、それらはあくまで例外的存在。2012年9月には「ヒーロー文庫」が創刊され、なろう作品書籍化が進みはしたものの、その時点では累計最上位層の作品に限られていた。
対するアルファポリスは作者が主体的に動き、出版社側にアピールが可能な数少ない場であったと言える。2013年の半ばまで月間訪問者数が伸び続けていたのが、その証左のように思う。
ただこの当時のアルファポリス、web書籍化における独占的存在とも言うべき地位が、大きく揺らぐ事態が発生した。2013年8月、ライトノベル業界最大手の角川グループの全面的参入である。
これ以後多くの会社の参入が相次ぎ、書籍化の間口は短期間で劇的に拡大。かつて出版社の目に留まったごくわずかな作品のみが書籍化されるという状況は、なろう内のランキングで高ポイントさえ得られれば書籍化出来る、という普遍的なことへと変化。
月間訪問者数を確認できたのはこの年の10月までに限られるのだが、短期間に3分の1超もの減少が見られた点は興味深い。
アルファポリスはその後もなろう書籍化の大手でこそあったが、数ある一社へとその地位を後退。2014年10月に自前の小説投稿サイト化したことは、こうした状況と無関係ではないだろう。
なろうは2016年6月にはダイジェスト化禁止を通達し、9月には完全な削除を実施した。現在もランキングサイトへの登録やマルチ投稿等は禁止されていないものの、2サイトの関係性はこの時点でほぼ失われたと言えよう。
この時代の書籍化は概ね4パターン程度に分けられるかと思う。
①ライトノベル新人賞を志向した活動
『アクセル・ワールド』『はたらく魔王さま!』
『ダンジョンに出会いを求めるのは間違っているだろうか』
その過程でweb掲載作品も拾われる
『ソードアート・オンライン』『魔法科高校の劣等生』
②web掲載作品直接の書籍化を志向した活動
アルファポリス ドリームブッククラブ
『レイン』『自衛隊 彼の地にて、斯く戦えり』
ほかアルファポリス作品全般
以上2つでは「出版するのであれば、web掲載物は取り下げるべき」という認識ないし商慣行が存在。
③趣味的活動の延長で拾われただろう事例
エンターブレイン
『まおゆう』『ログ・ホライズン』『オーバーロード』
(フェザー文庫)
ヒーロー文庫の最初期組
『理想のヒモ生活』『竜殺しの過ごす日々』『薬屋のひとりごと』
『異世界迷宮でハーレムを』『ナイツ&マジック』
④web作品書籍化が一般化した後の世代
2013年8月以降
興味の範囲があくまでなろう周りに限られるので、その他の出版関係はなおざり。(ケータイ小説等)