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ラブ·イズ·エターナル

◆作者:鳥 海王

◆梗概

大資産家、大河原裕一郞の一人娘である麗子は、現在付き合いのある五人の男性からプロポーズされて。大河原家の跡取り婿として相応しい男性を選ぶべき最終審査の面談が、今日の午後から、大河原本家で執り行われる。……果たして、五人のプロポーザ―の誰が一体、大河原麗子と大富豪なる財を手に入れるのか?

その面談審査には、専門人事審査官二人の厳しい質問が、いま彼ら五人のプロポーザーの前に待ち構えている。


〈第一話〉『プレリュード』

メトロ東京の副都心のビル街。その一住宅街。この近辺には高層マンションが、アートのようになって優雅に建ち並ぶ。

そのマンションビルの一つ、十五階建ての大河原家ビルが威厳高に天空へ敢然と聳える。

(場面:大河原家ビル内)

七階の鳳凰の部屋で、昼餐に授かる五人のプロポーザー。

(各位の自己紹介)

会食中のテーブル東側の二人。

鉄門寺 明、二十六歳。大手広告会社、企画営業部の社員。

湯川 優、二十五歳。IT関連のプログラミング制作会社の社員。

会食中のテーブル西側の三人。

長谷 浩、二十七歳。大手商事会社の貿易営業部に所属する社員。

菊沢 健吾、三十歳。大河原グループの大手不動産会社、第ニ営業部主任。

五月灘 拓也、二十四歳。アスレチック·クラブの専属テニスコーチ。


(八階の自室で寛ぐ、大河原麗子のプロフィール)

大資産家、大河原裕一郞氏の一人娘の令嬢、二十四歳。父の特別秘書でもある。麗子の部屋は三LDKとなっていて、プライベートな生活を自立エンジョイしている。

いまリビングルームでファッション雑誌を見ている、麗子。


(麗子の自室)

自机に向かって麗子は、ノートパソコンを起動操作している。

その画面に映し出される、五人のプロポーザーの顔写真。各男性の顔を見つめる麗子の顔の表情。その顔の表情が微妙に変化する。

麗子「あたしの性格って、八方美人!損な性格……」

画面に、シャットダウンの文字が表示される。

パソコンをシャットダウンさせながら、

麗子「自分の婚約者も、決められないんだから……」

自室を出て、隣の寝室へ向かう。

麗子「パパの判定、評価は、厳しい裁定が下されそう!」


(麗子の寝室)

麗子ドアを開けて、部屋に入る。

麗子、化粧台の鏡の前に座る。

麗子「あたし、どうしたらいいのか……迷ってしまう」

ロングヘアを両手でさすりながら、

麗子「パパは中途半端な妥協はしない。……だから……」

目元や、ルージュの化粧を直しつつ、

麗子「ああ―、もう、いゃんなっちゃう!」

化粧台前を立ち、寝室のドアを開けて入る。

洋服ダンス前で着替える。

麗子「彼達に、……どう言い訳したらいいの?」

華美なナイトドレスへ着替える、麗子。

等身大の鏡に映し出すその姿は、女盛りの麗美な肉体美を誇示している。申し分ない容姿と、百六十五センチの肢体。その美貌とで五人のプロポーザーを一目で魅了し、……虜にしてしまうほどの美女。


(八階の裕一郞の書斎)

部屋の片隅でゴルフクラブを振っている、裕一郞。

巨万の富の風格を漂わす風貌と厳格さを秘める双眸、口髭を生やした勇相は、巨財を超えた英知なる威厳さをも見せる。


ー〈大河原家先祖代々の財産を最大限に投資運用し、金融、株式市場の世界で投資専門会社を作り、株投機から金融スワップ、ヘッジファンドに、デリバティブ。更に商品市場へも投機して、あらゆる投機技術テクニックを駆使させて、……勝利を掴んだ男である。……

1989年のバブル経済は核分裂の如く弾け、……末端まで完全崩壊した。大河原裕一郎は、その経済社会の要にいた人物の一人でもある。その中で数少ない勝ち組の一人であった。……

それら数々の修羅を生き抜き続けてきた、大富豪家である。

尚、更にハブル後も、超低金利を利用して、更なる企業買収へと走り、M&Aなども数多く仕掛、手掛けた。》ー

ゴルフスィングを終わると、裕一郎、書斎机に向かう。

裕一郞「そろそろ、面談審査の時間だな!」

裕一郞、書類に眼を通している。

(裕一郞の心の声)

(麗子にも困ったもんだ。美人がゆえに、五人ものプロポーザーを魅了したとは……)

裕一郞、書類から眼を離す。

(一体、誰を選んだらよいのやら……)

裕一郞、立ち上がる。

裕一郞「評決し、裁定を下すのは、非情となろう!」

裕一郞、窓際へゆく。

カーテンを開けて、外窓を眺める裕一郞。

裕一郞「こうなってしまったからには、二人の審査官に、全面的に任せ。公正な評決をして貰うしか…ない」


(二人の審査官の紹介)

海堂 進、四十五歳。大河原グループ·大手不動産会社の人事部長。大河原関連会社の総務、人事を数社経験を経た後、現在の地位に就く。


林田陽一、六十三歳。フリーの個人弁護士。

五年前、知人の紹介を経て、大河原家の顧問弁護士を兼務する。

二人共、大河原裕一郞氏には絶大な信用がある。

裕一郞は、窓から外景を眺めながら、苦悩な面持ちで二人の顔を思い浮かべる。


〈第ニ話〉『面談審査1』


(鳳凰の部屋)

昼餐会の会食は終わり、各個別の面談が始まる。

黒服の執事に案内されて、最初の鉄門寺明が鳳凰の部屋を出て、十階の面談会場へ向かう。

残された鳳凰部屋の席に付いている四人の各位に、緊張の色がでる。


(エレベーター内)

機内の十階のランプが灯る。ドアが開き執事の後に鉄門寺が出る。

十階の廊下を執事と共に歩く鉄門寺。


(小会議室)

執事に導かれて、南テーブル席に付く鉄門寺。

前方五メートル先に、面談審査官二人が威高に座している。

審査官の一人、海堂の整髪した誠実な顔相は管理職の風貌を如実に出ている。

もう一人の林田は、細面で年相応に見え、白髪混じりの温和な顔付き。

二人はテーブル上の書類に眼を通しつつ、面談者を見投げする。

海堂「早速ですが、鉄門寺さん、幾つか質問させて頂きます」

鉄門寺「はい、……」

海堂「現在、広告会社の企画営業部ですが、会社経営や資産運営などの知識や、興味について、お話して頂けますか?」

鉄門寺「経営学については、現在携わっている広告関連の一般知

識のみで、会社経営、資産運営や投資運用などの大きな問題には、今現在は興味ありません。」

鉄門寺は前方審査官の左端、ドア前に立つ三十代の黒服の執事を何気なく見つめながら、応えた。

執事はもう一人、案内役の老齢な執事が鉄門寺後方に立つ。

海堂「では、率直にお尋ねしますが、大河原家の総資産はどのくらいと、お見積りですか?」

鉄門寺「正直、はっきり言って、数字的には全く分かりません。」

海堂「ご令嬢に、お聞きになったと

か。お尋ねしたことは御座いませんか?」

鉄門寺、幾らか顔をゆがめる。

鉄門寺「私は、財産にプロポーズしたわけでは、ありませんので……」

鉄門寺少なからず、尋問に苛立ちの表情を出す。精神を落ち着かせようと、身体を少し動かし正す。

次に、林田が質問する。

林田「では仮に、貴殿がご令嬢とご結婚なすった場合、どう資産を運用し、又、グループ会社を経営、運営していくのか。その私案のほどは?」

鉄門寺「先ほど申したように、そのような質問には、私としては従来通り、現状の専門家にお任せする次第であります。」

林田「また、正式に婚約が決まられた場合、現在の会社のお勤めは、どうなさるおつもりですか?」

(鉄門寺の胸中の声)

(全く、愚問ばっかりしてきおって!)

鉄門寺「そんなことは、私のプライベートな事で、答えられません。質問が愚問過ぎませんか?」

鉄門寺は呆れ顔で、苛立ちをストレートに態度に出す。

鉄門寺「私は、職探しの面接に来たのではありません。」

海堂「私共が知りたい、最低限の仕事内容として、お尋ねしているのです。その辺のご事情を御理解頂きたいのです。……」

鉄門寺はプロポーザーの一人として、やる方ない心情に駆られる。

林田「私の最後の質問になりますが、結婚なさった場合には、法律上では大河原家の姓を、お継ぎになるのですね」

鉄門寺「それは、まず彼女の考えを第一に尊重して決めたいと、考えています。」

鉄門寺は麗子を思い、こころなしに、そのように答えた。

海堂「鉄門寺さん、最後にご令嬢のどこに魅了されたのか?お聞かせ下さい」

鉄門寺「彼女の人柄です。非常に思い遣りのある性格です」

海堂「ご苦労様でした。本日の面談審査は、これで終了です。ご協力有難うございました。」

海堂と林田は、同時に頭を下げる。

それに応えるように、鉄門寺も一礼する。

鉄門寺、案内役の執事に促されて、小会議室を退場する。

廊下を歩く執事と鉄門寺。

エレベーターに乗る執事と鉄門寺。


(大河原家ビル玄関前)

鉄門寺、一人正門へ向かって歩く。

鉄門寺の胸中の呟き(なんで、こんな屈辱な面談をされなけりゃ、いけないんだ!)

と、鉄門寺ぶつくさ心で言いつつ正門を出る。


(八階の麗子の部屋)

偶然、リビングルームの窓際で外景を見ていた麗子。

麗子「あら、明さん。……何か歩く姿がイラついてるように見える」

麗子の不安顔。鉄門寺のスラリとした後姿を注視する麗子。

麗子「面談で何か嫌な思い、質問されたのね!」

麗子、窓際からリビングルームへ戻る。麗子のノースリーブのドレスの華麗さとは逆に、顔は心配げに曇っている。

麗子、落ち着かぬ素振りでリビングルームから自室へ歩き向かう。


〈第三話〉『面談審査2』


(小会議室)

第ニ番目の面談者は、湯川 優、二十五歳。

会議室のテーブル席についた湯川は、緊張を和らげようとセンター分けの長髪を両手で上へ逆撫であげる。

二人の審査官の自己紹介の後、面談尋問が始まった。

海堂「湯川さん、あなたの仕事内容がもうひとつ不明瞭なので、現在の仕事の説明をして下さい。」

湯川「はい、私は現在IT関連の制作会社·アルファで、プログラミングの仕事に携わっています。スマートフォンのアプリの企画から制作までを担当しています。……」

海堂「ご自分で制作したものを、現在アップロードした作品は有りますか?」

湯川「ええ、簡単なゲームアプリで、ノベルゲームやボーカロイドのアニメーションなどのキャラクターも作り、歌手として歌わせています。勿論、アップロードして配信されてます。」

海堂、興味ありげな顔を示す。

海堂「大河原グループ関連会社に関しては、どのくらいの知識がお有りですか?」

湯川、肩で大きく息をする。

湯川「以前、IT系の雑誌で読んだ知識ぐらいです。でも、かなりの企業、会社数をお持ちである事は、分かります。」

海堂「大河原グループ会社に興味は有りますか?有れば、どのような所に……」

湯川「非常に有ります。今後、どのような方向に進んでゆくのか。また、これからどんな分野に金融投資、買収並びにM&Aしていくのか。大変興味を持っています。……」

湯川の考えを聞いて、海堂は顔をほころばせる。

林田が質問する。

林田「仮に、ご令嬢とご結婚した場合は、経営に参加なさいますか?」

湯川「参加したい気持は有りますが、現在のところは、フィフティ-フィフティです。」

林田「それは、どうしてですか。理由を聞かせて下さい。」

湯川「今の仕事が佳境に入っているので。それに、経営知識も十分に備わっていないので、これから少しずつ勉強していくつもりです」

東側の壁時計が、午後三時ジャストを指している。


(麗子の部屋)

机に向かって、ノートパソコンを操作している、麗子。

画面に、鉄門寺の顔写真が映し出ている。

(麗子の心の声)

麗子(明さん、嫌な質問されたのね。御免なさい!私があなたの立場だったら、とても耐えられないわ!こんなことになったのは、私の責任。とても痛感しています。……他の人にも同じ思いで、今反省しています。……)

鉄門寺の端正で、整髪された顔写真を見て、憂いる麗子。

麗子(あなたの優しさは、いつでも忘れません!)

(鉄門寺と麗子のデートの回想シーン)

二人のレストランでの食事、公園を歩く二人の光景。

(麗子、パソコンのキーボードを操作する)

画面は、湯川の顔写真が写出する。

麗子(今は、湯川さんの面談中ね……)

(海、ビーチでの湯川とデートの回想シーン)

麗子(あなたとハワイでのめぐり逢いは、とても思い出深いわ!ビーチでの散歩や、海で泳ぎ、はしゃいだりの遊戯は昨日のように感じられます。……百七十七のスマートなあなたは、とても魅力的です。)

麗子、パソコンをシャットダウンする。ロングヘアの美貌に憂色さを少し出して立ち上がる。

麗子、自室を出る。


(小会議室、面談中の湯川)

海堂「では、最後にお尋ねします。ご結婚となった場合には、大河原家の姓を継ぐ条件となっていますが、その点については……」

湯川「はい、条件に適います。」

海堂「ご苦労様でした。これで貴殿の面談は終了します。お疲れ様です。」

湯川、立ち上がって、頭を下げる。


(大河原家の正門前)

湯川、正門に向かって歩く姿。その姿態には自信に満ちた素振りが見える。

(八階の麗子の部屋)

窓際に立って、外を見ている、麗子。

眼に入る湯川の誇らし気な様子に、麗子の顔は安堵感を帯びる。

麗子、窓際を離れる。

(麗子の部屋、リビングルーム)

リビングルームでワイングラスにワインを注ぐ、麗子。

ワインを飲みながら、長ソファで寛ぐ、麗子。

ワインを片手に、麗子は両眼を閉じる。

その瞼に、次なる面談者の顔が浮かぶ。

長谷 浩の顔。

(麗子の心の声)

麗子(彼はやや浅黒く、髪型はウェーブぎみで、幾らか長め。目鼻立ちの良い精悍な顔。ニューヨーク育ちのちょっと野性味を感じる、日本人男性。……)


〈第四話〉『面談審査3』


(小会議室)

ドアが開き。執事に導かれてテーブルの所定の場に座る、長谷浩。

長谷は自信のある態度を外見に漲らせている。

海堂、書類を見ながら質問する。

海堂「早速ですが、長谷さん。あなたの海外出張は、年に何回ぐらい行かれるのですか?」

長谷「取引情報、状況によって、その年まちまちです。」

海堂「貿易営業部第三課に勤務なさっていますが。専門の業務内容を教えて下さい」

長谷「メディスン関連の薬品や、医療機器が主です。時には食品関連も業務指令で海外出張します。」

長谷は淡々と話す。

海堂「海外不動産関係の仕事はなすった経験は、お有りですか?」

長谷の胸意の声(やっぱり、不動産関係だ!)

長谷「不動産関係は、課が違います」

海堂、書類を見ながら、質問を続ける。

海堂「外国語は何ケ国語、お話になります?」

長谷「英語だけですが、あと、中国語を少々……」

林田が質問する。

林田「ニューヨークの大学を中退しておられますが。差しつかえなければ、お聞かせ下さい。……」

長谷、嫌な質問をされたとばかりに、少し眉間を寄せる。

長谷「生化学を専攻したのですが、実験が苦手なので。……東京の大学に編入しました。……」

海堂「結婚なされる時は、大河原家の籍に入ることには、問題はありませんか?」

長谷「はい、ございません!」


(裕一郎の書斎)

八階の廊下。書斎室、と書かれたドア。

(書斎室内)

裕一郎、机に向かって書類を検討している。

裕一郎の胸中の声(鉄門寺明、二十六歳。秋田県出身、大手N広告会社勤務……)

裕一郎、書類を換える。

裕一郎の胸中の声(湯川優、二十五歳。メトロ東京出身。IT制作会社·アルファ、勤務。企画、制作担当……)

裕一郎「ううむっ、……もうひとつ、適格に……」

裕一郎、大きくため息をつく。その顔色が曇る。

裕一郎、椅子から立ち上がる。窓際へゆき、外景を投視する。……


『面談審査4』


(小会議室)

第四番目の面談者、菊沢健吾が面談席に付いている。

幾分緊張した趣で、前方の審査官二人を黙視している。

海堂「貴殿が勤める不動産会社は、唯一、大河原グループ出身の社員の面談者となります。そこで、不動産会社の今後の経営展望を、どう進めるべきか。個人的見解をお聞かせ下さい。」

菊沢「……これからは、発展するIT産業の中で、会社の幅広い商品物件を情報公開し、不動産と金融·各証券。その他の市場等を含めた各商品をグローバル情報市場の中で売買出来るように、ネット市場に投資拡大を向けて、CMやマスメディアを通して広く大衆にアピールする事が、大切であると考えております。」

菊沢は自分の考案を、自信を持って話す。

海堂「その構想案については、会社上層部は、どうお考えでありますか?」

菊沢「今後、どんどん意見、アイデアを出し合い。関連グループ以外にも幅広く呼掛けて、IT市場のグローバル性を最大限に活かして行く。そして、情報ユーザーと一体化してゆくことで、営業サービス等を大きく関連、循環させて行くのです。……そのシステム方法を技術的に構築して行こうと、今、その方向で上層部と一体となって、進んでいます。」

菊沢は話し終えると、両肩を上げて息をした。

菊沢の顔には精悍さと誠実性を滲ませた、知性の一端も窺えた。

林田「仮に、ご令嬢と結ばれた場合には、大河原グループの本社への転職。希望なりを考えていますか?」

菊沢「いや、まだそこまでは……」。後は口を濁すように黙する。

壁時計が、午後五時を回り出している。


(麗子の部屋)

いつしかリビングルームの長ソファで寝てしまった麗子が、突然、目を覚ます。

麗子「あら、大変!こんな時間……」

麗子、腕時計を見て立ち上がる。自室へ歩きゆく。

麗子「浩さん、帰ったかしら……」、歩きながら呟く。

(麗子の自室)

机に向かって、パソコンを操作する麗子。

PC画面に、長谷の顔写真が映し出る。

麗子の脳裡に、長谷との思い出が蘇る。

(ニューヨークの摩天楼のシーン)

(二人のレストランでの食事のシーン)

麗子の心の声(彼とブロードウェイで知合い。食事や、劇など見た思い出と共に。……彼の優しさに、私の心は惹かれていった。)


〈第五話〉『面談審査5』


(小会議室)

最後の面談者のプロポーザー、五月灘拓也はすでに所定のテーブル席に付いている。

〈彼は自分の面談時間がくるまで、二時間以上待たされた。だが、待たされる間の行動も審査対象の査定に入る。と、五月灘は読んだ。で、その時間内は絶対に焦燥感や、性格上の欠点を晒けだすことを極力避け、我慢強さを示すように心掛けた。……執事に飲み物を要求したり。また、建物の階上や中庭に出て散歩する。そうする事で、心を静め、眼の保養として庭園を楽しんで時間を潰した。〉

壁時計は、午後五を十五分程過ぎている。

五月灘は、待ちわびた態度は一切見せず。顔相は普段と変わらない。

審査官二人も、面談を待ちわびた五月灘の性格を読み取ろうと、彼を注視する。

海堂、質問する。

海堂「五月灘さん、あなたは現在、スポーツ·フィットネスクラブのテニスコーチをなすっておられます。そこで、お聞きしたいのは、あなたの将来の人生ビジョンを率直に、お話し下さい。」

五月灘「今は、将来の事はあまり考えていません。現在の仕事を継続しながら……何かもう一つ、他の世界を探し模索している段階です。」

五月灘、小さく肩で息する。

海堂「貴殿は、大学では法学部を専攻なすっておられる。司法試験には、何度トライしました?」

五月灘の胸意の声(聞かれたくない事を、ズバリ質問してきた!)

五月灘の眉間に一瞬縦皺が一条出る。も、意識的に直ぐ消す。

五月灘「二回ほど、受験しました。……が、それ以降は、人生転換を図りました。……」

五月灘は平然と言った。

五月灘の胸意の声(過去の汚点は完全に排除し、今は次なる道へ進んでいる。好きなテニスを仕事に生きている。)

林田「正式に、婚約者になられたら、大河原グループ関連会社の経営や、運営に携わる事を、お考えですか?」

五月灘、少し考える。

五月灘「否、まだ私の知識と経験は、そこまで達していませんので。現在の専門の方々に、お任せする次第であります」


(麗子の部屋)

麗子、机上でパソコンを操作している。

麗子「菊沢さんは、帰られたのね……」

(麗子、菊沢との思い出の回想シーン)

菊沢の七三の整髪した、温和な顔がPC画面に映っている。

(麗子の心の声)

麗子(身長は百七十で、体型は華奢でも、とても行動的に仕事をする。不動産鑑定士で営業主任の彼と、誘われる度に食事やドライブのデートも楽しんだ!)

その回想シーンで物思いに耽る、麗子の顔。

麗子の心の声(菊沢さんはグループ会社の社員なので。彼と会う度に、私、親近感を感じちゃうの!)


麗子、パソコンの画面を換える。

五月灘の顔写真が画面に映し出る。

麗子「五月灘さんの面談も、そろそろ終るころね!」

(麗子、五月灘との思い出の回想シーン)

麗子の胸意の声(拓也さんは、私と同じ年。彼は司法の世界を悔いなく諦めてからは、ヘアスタイルは長めで、ブロンド色に染め心機一転をはかり。現在は、アスレチッククラブのテニスコーチの仕事をしている。クラブで出会って、一緒にプレイして以来お付き合いしています。彼は、身長は百六十で小柄ですが、体型はがっしりしたスポーツタイプ。誠実味があり、好感が持てる男性です。)

パソコン画面の五月灘の顔。が、直ぐ画面から消える。画面は暗くなる。画面に、シャットダウン、の文字が表れる。

麗子、パソコンをシャットダウンする。


(小会議室)

壁時計の針は、午後五時四十分を指している。

面談が終了した小会議室は、二人の審査官だけとなる。

海堂と林田は書類鞄を持って、小会議室を出る。


《今日の五人のプロポーザーへの審査結果報告は、一週間後にて文面郵送される。》


面談審査、翌日の午後五時。

(裕一郎の書斎)

机に向かっている裕一郎と、その前の長ソファに座る麗子。

裕一郎「……と、いう事である。……」

麗子、悲愴な顔で、俯く。

麗子の胸意の声(お付き合いしている五人のプロポーザーには、一人も、父の目に適った人はいなかったなんて……)

〈総資産額、約十兆と言われる大資産家·大河原裕一郎氏の厳しく、高い審査評価を得る人格者は、今回、五人の中にはいなかった!…………》

麗子は立ち上がって、悲痛な姿で、書斎を出る。

(項垂れて廊下を歩く、麗子)

麗子の胸意の声(麗子のお付き合いしている五人から、私の結婚相手を出したかった。………出したかったわ!)

(裕一郎の書斎)

麗子が書斎を出た後、裕一郎は机上の五人の評価査定書類を手に取ると、捻り潰し曲げる。そして、それをゴミ屑籠へ捨て入れた。

麗子、自室へ向かって一人廊下を寂寥感に苛まれて歩く。

その麗子の涙顔。

麗子の胸意の声(父の心に適う人格者って、誰?……どんな男性!………一体!……)


(夜空の一光星)

夜の天空に輝く、一光星。

《非情な裁定を下された五人のプロポーザーは、尚、麗子への熱い思慕の愛は、これからも変わらない!……完全に雲散霧消した訳でもない、と、彼等は思っている。……

………それは、闇夜に光輝く一光星が、一条の希望の光を投げかけている……如く!……》


〈エピローグ〉『異質、特異な体験談』


ーー〈五人のプロポーザーは、遂に誰一人として、大河原家の後継者には選ばれず。……不適格の裁定を、主、裕一郎氏に断を下された!〉ーー

┉〈……であるが、また、彼等五人の各自にとっては、大富豪家の豪邸、ビル屋敷内へ入り。その威厳、威光なる格式に触れた経験、体験は金銭には値しない、超価な物を得た様子だ!〉┉


┉┉五人のそれぞれのプロポーザーの、大資産家·大河原家の感想は、以下の通りである。代表して、二人に登場してもらう。┉┉


最初に、鉄門寺明の体験談を紹介する。

┉鉄門寺明〈大河原家ビル玄関へ足を踏み入れた瞬間、何かいままで感受したことのない、異質な雰囲気に包まれ、のみ込まれる。季節は十一月上旬で、外気は薄ら寒さを感じる時期だが、大河原家のビル内に入ると、ポカーッと温暖なプラント室に入った感じになった。春を思わせる錯覚に一瞬、覚えた。……

それに、エレベーター機内でも、七階の廊下、そして食事をした鳳凰の部屋でも。……特異質な室内エアを体感した。……

後日、今思うと、何か超常走った"オーラ"なるものを感じざるを、得なかった。……

┉┉それは、大河原家独特なスピリチュアル·オーラ!なのか┉┉

┉┉またそれが、大富豪が持ち、発散する巨万の富のスーパー·ナチュラル·パワーなのか?┉┉それらは、私の頭では、答え、解析は出来ずじまいである。┉┉〉


二人目は、最後の面談者になった、五月灘拓也に大河原邸の感想を求めた。

五月灘拓也〈私は、面談の待ち時間を利用して、大河原家ビル内を、各階の廊下や、ビルの階上にも足を運んだ。また、中庭にも気晴らしに散歩し、見て回りました。……

┉(こんな家ビルに、私も住みたい!)……と言うのが、心の本音。

……大河原家、最上階の十五階は、広々としたホールになっていて、外景を東西南北、どの方角も見渡せる回廊造りになっている。……

ーそこに辿り着いた時、……に、物凄い"生気"を全身に感じた!

その体感は身体の重量感を感じないほど、軽くなって、体調、気分も非常に良好となった。……

┉┉思わず、これこそ大富豪·大河原裕一郎の証明……か?と、心で唸ったほどだ!また直後、異なる思考も脳裡に浮かんだ。……

┉┉これは、ひょっとすると、蒼穹なる大宇宙のエネルギーが、天から降流して来ているのか?……とも、考えた。……

┉(宇宙の光のエネルギー、スーパー·オプティック·エナジーが強力な"アース·オーラ"……となって、室内で物理化学的に変換反応されて……作り出されている……)┉┉そう考えたほどである。)┉〉


┉┉以上が、二人が実際に大河原家ビル邸内で体感、体験した異質、特異な"パワー·オーラ″の、……実体験談である。


〈The End〉

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