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闇小説鍋  作者: 熱湯ピエロ
次元超越世紀末激闘編
9/19

カーボンニュートラル

『カーボンニュートラル』


 良い子のみんな!

 カーボンニュートラル、って知ってるかな?

 知らない子のために教えてあげるね。

 みんなは車とかクーラーとかって使っているかな?

 便利だよね!

 でもこういう便利な道具って、とーってもエネルギーを使うものなんだ。

 それでね。道具を使うのに必要なエネルギーってね、生み出すときに『温室効果ガス』っていう生き物にとーっても悪いものを生んじゃうことがあるんだよ。

 だから僕達人間が便利に生きたいと思えば思うほど、生き物にとって悪いものがどんどん増えちゃう。哀しいね。このままじゃ地球はどんどん生き物が生き辛い星になってしまうね……そして、巡り巡って僕達人間も地球に棲めなくなってしまう……なんてことにも。

 だから! 世界のみんなが考えた!

 人間にとっても、他の生き物にとっても、住みよい世界をつくっていこうって!

 そのために、2050年までを目標に人間が生活で生み出す『温室効果ガス』を無くしてしまおうって!

 ちなみに温室効果ガスは主に『二酸化炭素』を指していて、この炭素を英語でカーボンって言うんだ。

 人間の活動によるカーボン量を0つまり中立ニュートラル状態にする。

 カーボンニュートラル、というのはそういう意味。

 つまり、この世界をもっともっと住みよいものにしていこう! っていう『尊い思い』のことなんだ。覚えてくれたかな?



 時は2052年!

 世界はカーボンニュートラルの波に飲まれた!!

 二酸化炭素の排出量を0にする、という目標に向き合わず各国が問題を先送り先送りにした結果、何も出来ないまま期限である2050年を迎えた世界政府は恐怖の政策を決定したのだ!


「なんかさ、もう全部人力マンパワーでやっちゃえばいいんじゃね?」


 そりゃ人が必要なエネルギーを人力で生み出せば排出量は0だけど!?

 あまりに無茶苦茶! だが進退窮まった政府はこの政策を強行した!

 すると、どうなるか。

 一部の力ある上級民達が無力な貧困層の者達を支配し、『クリーンエネルギー』として死ぬまで使い倒し搾取するという、中世も裸足で逃げ出すような超格差社会がワールドスタンダードとなってしまったのだ!



 ゴールド・エコタウン。『第3ゴールド人力発電所』。


 いくつもの飛び出た横棒が円状に並ぶ巨大なやぐらがある。

 それらの横棒を押すことで櫓を回転させることが出来る、所謂『回転櫓かいてんやぐら』というものだ。

 その櫓を、人々が数十人がかりで押し回している。性別年齢層はバラバラであるが、皆一様にボロボロの身なりで、痩せ衰え、瞳からは光を失っている。

 櫓の上では全身パンクのモヒカン男が立ち、鞭を振り回していた。


「貧民共ぉぉぉ! もっと気合を入れて押せぇぇ! 『ゴールド・ゾー』様に捧げる電力のためになぁぁ!!」


 鞭が幾人かの背中に直撃する。

 当たった者は小さく呻き声を上げるが、それだけだ。黙々とひたすらに櫓を押し回す作業を続けている。抗議の声を上げる者など、誰もいない。

 発電所内には、そんな回転櫓がズラリと並んでいた。


 『ゴールド人力発電所』は、ゴールド・エコタウンを支配する超上級民『ゴールド・ゾー』の一族が使う電力を賄うためだけにある施設だ。

 人力発電機となる数多の回転櫓は三交代勤務で昼夜問わずにフル稼動し、総数4000人以上の貧困層の者達が強制労働をさせられている。

 8時間もの間、飲まず食わずで櫓を回し続ける過酷な労働。あまりの過酷さに死者が出ない日などない。

 だが、死者などささいなこと。

 エコは、人間の命より重い(ただし上級民は除く)……!

 それが、今の世界の常識なのだ。

 そして、今日もまた一人……


「う、うぐぅ」


 白髪の老人男性が胸を押さえ、その場で倒れる。

 老人は弾きだされるように他の労働者の手によって回転櫓の脇にどかされ、無様に地面に転がった。

 見慣れた光景。誰も気になどしない。ただ、今回は少しだけ違った。


「お父さん!」


 そう言って、一人の若い女性労働者が飛び出してくる。そして、倒れた老人男性の元へ駆け寄って屈みこんだ。

 その様子に、少しだけ労働者達がざわめく。

 あの娘なんてことを……死んでしまうぞ……まだ若いのに……かわいそうに……

 そんな声がぼそぼそと辺りから聞こえてくる。

 女性労働者は構わず、倒れた老人男性の体を抱き起した。


「お父さん! そんな、どうして! お薬は飲んだんじゃ……」

「だ、駄目だ、マリア……労働に戻れ……お前まで……」


 息も絶え絶えに老人男性が言う。その時!


「ひょう!」


 威勢のよい掛け声と共に、モヒカン男が櫓上から飛び降りてきた!

 男は二人の前に降り立ち、鞭を両手でピンと張り詰める。


「てめぇぇらぁぁ……貧困層の底辺共は上級民様のご慈悲で、太陽光発電や風力発電なんかの世で最も尊い再生エネルギーを使わせてもらってることを忘れたのかぁぁ……」

「め、めっそうも……ゴホッゴホッ、マリアだけは、どうか」


 顔を青ざめ訴える老いた父親を、娘のマリアは庇うように抱きしめた。


「お父さん、もういいよ! お父さんを見捨ててまで、私生きたくない!」

「マリア……」


 ピシャアァン!!


 モヒカン男が鞭を床へと打ち付けた!


「くっせぇぇ茶番はそこまでだぁぁ!! 底辺共は上級民様のご慈悲に応えるため、この発電所を回し続ける義務があるんだぁぁ!! それが出来ないなら、死ねぇぇぇぇ!!!!」


 おぉ、このモヒカンに、慈悲は無し!

 親子二人の死は最早避けられぬ! 誰もがそう思った時であった!


 ズドガァァァン!!!


 凄まじい衝撃! そして、破壊音!

 すわ何事か!?

 発電所内にいる全員が驚き戸惑い、その発生源へと目を向ける!


ドゥルルルン! ドゥルルルルルン!!


 吹き抜ける一陣の風に乗り、今では忘れられた12気筒の力強い連続爆発音が木霊する!

 そこにいたのは、ダンプカー! 武装された巨大改造ダンプカーが発電所の壁をぶち破って、室内へと侵入してきたのだ!!

 武装ダンプを前にしたモヒカン男は鼻をひくつかせ、驚愕する!


「こ、この音、臭い! まさか、生産が中止されたはずのディーゼルエンジンかぁぁ!? 神聖なエコ空間でカーボンを多く含む排気ガスをまき散らすとは、この狂った環境破壊者めぇぇぇ!! 一体どこの不届き者だぁぁぁ!!??」


 その叫びに応えるように、ガチャ、とダンプのドアが開く。

 そして、一人の男が飛び出し、ブーツで床を打ち鳴らしながら着地する。それは筋肉質の上半身にノースリーブジャケットだけを羽織り、サングラスをしたいかつい顔の巨漢であった。



「何者だぁぁ! 名を名乗れぃ!」


 鞭を向けたモヒカン男の問いには答えず、サングラスの男は咥えていた煙草を口から離し、白い煙を大量に吐いた。

 モヒカン男の額が青筋立ち、眉をピクピクさせる。


「おのれぇぇ……排ガスをまき散らすに留まらず、健康被害の大きい煙草の副流煙まで盛大に垂れ流しおってぇぇ……」

「なんだなんだぁ!?」

「何があったぁぁモヒカンよぉぉ!!」


 すると、騒ぎを聞きつけてか、スキンヘッドやら肩トゲパッドやらの荒くれパンク共がセグウェイに乗って駆けつけてきた。モヒカン男と同じ、監視の立場の連中だ!

 モヒカン男は凶暴な笑みを浮かべる。


「今からこの環境破壊者にエコの大事さってのを叩きこんでやるところだぁぁ……お前達も手伝えぇぇ」

「環境破壊者だとぉ!? おたんちんのひょうろく玉か、貴様ぁ!」

「これは教育が必要だぜぇぇ!」


 モヒカン共はいきり立ち、各々が持ったトゲ棍棒やらポン刀やらの凶悪な武器を振り上げた!

 しかし、サングラス男は煙草を咥えたまま眉の一つすら動かさない。

 それどころか。


「プフゥーーー」


 相手を馬鹿にするように、再度煙草の煙を大量に吐いた。


「てンめぇぇぇェェッッ!!!」


 これにはモヒカン共もブチ切れ!!!


「野郎共やっちまえぇぇぇ!!!」

「「ヒャッハァァァ!!!」」


 一斉に襲い掛かる!!!

 対するサングラス男は慌てず騒がず。落ち着いた様子で、すっ、と片手を上げた。


 すると。


 ズガガガガガガガガガッッ!!!!!


「「「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」」


 武装ダンプの荷台からにゅっと現れた大量の銃口が、情け容赦のない鉛玉の嵐をモヒカン共に叩き込んだ!!!!


 さらに!


 ズゴォォォォォォッッ!!!!


「「「うぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!!」」」


 サングラス男がいつの間にか手にしていた火炎放射器で、モヒカン共を焼き尽くす!!!!


 元・荒くれパンク共がパチパチと燃えてゆく……

 それを見たサングラス男はようやく、


「こうなっちまえばエコ野郎もただのカーボンだな! はっはっはっ!!」


 そう笑った。



 ズダダダダ、と武装ダンプの荷台から武装した男女が降りてくる。

 ずらりと並んだ武装集団を背に、サングラス男は戸惑う千を超える労働者達と相対した。

 男はサングラスを下に少し下げ、青い瞳で目の前の人達をめつける。


「名乗らせてもらう。俺の名は『バーン・ザ・マッドガイ』。『カーボン・ディオキサイド解放戦線』略して『カディッド』のリーダーをしている」

二酸化炭素カーボン・ディオキサイド解放……?」


 父親を抱くマリアは首を振って、頭を下げた。


「いえ、それより、あの、助けて頂きありがとうございます。あなた方は命の恩人です」

「何勘違いしている。俺達は助けたわけじゃないぜ、お嬢さん」

「えっ?」


 眉をひそめるマリアに、バーンはいかつい顔を崩し、ニヤァリと嫌らしい笑みを向けた。


「招待したのさ。お前らを……地獄へな」

「じ、地獄?」

「いいか、よく聞け!!」


 よく聞け、と言った相手はマリアではない。バーンは全ての労働者達に向けて話していた。


「お前達はもう奴隷として生きる道を断たれた! ゴールド・ゾーへの献上電力をこうして放棄した今、ここの連中は既に反逆対象だ!」


 ざわざわざわ!


 大きく騒めく労働者達! あまりの事態に目を奪われ、発電機のことをすっかり忘れていた。ここから電力供給がストップしたことなど、あっと言う間にばれる。今は人の命がコップ一つを冷やすエネルギーより安い時代。そうなれば……。労働者達は皆、顔を青ざめさせた。中には、早く回転櫓を動かそうと持ち場に戻ろうとする者も……


 ダァン!


 銃声が響く! 武装集団の一人が発砲したのだ!

 しん、と静まり返る室内。

 バーンはサングラスを掛けなおし、火炎放射機を肩に担ぐ。


「理解しろ。手遅れだ。お前達に残された道は二つに一つ」


 そして、凶暴な笑みを浮かべた。


「反逆者として、おとなしく死ぬか。反逆者として、俺達と共に戦うか」



 始まりは確かに尊い思いであった。

 世界をよりよいものにしていこう、という尊い思い。


「ご、ご、ゴールド・ゾー様ぁ! 報告です! 『カーボン・ディオキサイド解放戦線』なる組織が、我等に宣戦布告を!」

「ほぉ……面白い。丁度退屈しておったとこよ」


 しかし、それは歪な形で達成され、血で血を洗う抗争に発展する。


「進めぇ! ゴールド・ゾーの施設は全て破壊しろぉ!」

「ば、バーン! 奴等、エコ駆動機械兵器を出してきやがった!」


 どちらが善で。どちらが悪か。


「我が生活レベルは下げず、温室効果ガス排出0は守る。どれだけ下層の者どもが死のうとな」


 そんなものは存在しない。


「このクソッタレな制度をぶっ壊し、排出ガスなど気にしなくていい世界を作る! 例えどれだけの犠牲を払おうと!」


 そう、これは正義なき戦い。

 人々は血塗られたこの時代をこう呼んだ……


 『カーボンニュートラル暗黒時代』と。


【カーボンニュートラル 終わり】

 『闇小説鍋』はここで一旦完結※となります。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。


 もし面白いと思う話があったなら、少し下の広告欄の更に下にある☆☆☆☆☆をクリックして評価をして頂ければ嬉しく思います。

 感想頂ければ絶頂し、レビュー頂いた日にゃ爆発します。


 それでは、またいつか。闇小説鍋会場にてお会いしましょう。


※第二部始めました

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