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闇小説鍋  作者: 熱湯ピエロ
心理と探求のブルース編
18/19

あの東京タワーからはタワマンしか見えない

『あの東京タワーからはタワマンしか見えない』


 西暦20XX年。

 突如として宇宙人が地球へと襲来した。


 あらゆる武器をもってして、異星からの招かれざる来訪者に地球人われわれは無力だった。

 何故か。

 それは、宇宙人が規格外の巨大さであったからだ。


 平均身長40.4m。平均体重39822トン……

 これが一人、二人なら戦いようはあったかもしれない。しかし、相手は『軍』であった。


 普通に考えればわかる。こんなデカい連中には勝てねぇって。


 こうして、地球は植民星となった。

 ただ、地球人への無用で残酷な虐殺などは起きなかった。むしろ、A5ランクの肉牛を育てる農家のように、宇宙人は我々を手厚く保護した。


 理由は二つある。

 1つ目は、この宇宙人が人間を食べないこと。

 2つ目は、宇宙人の主食は木材、金属、石といった……建材であったこと。


 そう。宇宙人の食料は建物だったのだ。

 それも、超高層マンション……我々で言うところの『タワマン』を特に好んだのであった。



「さぁぁ、タワマン料理人番付、決勝戦ン!! このスペースナンバーワンと言われるタワマン産地である地球を舞台にした長きに渡る戦いも、いよいよファイナル、決着を迎えることになったぁぁ!!!」


 巨大モニターに映し出された蝶ネクタイをしたタコのような宇宙人が触腕の一本で器用にマイクを握りしめ、ハイテンションで叫ぶと、会場のボルテージは一気に最高潮へと達した。


「並び立つ両雄! 脇には最強至高のタワマン料理! 果たしてどちらがタワマン料理人宇宙一の栄冠を勝ち取ることが出来るのかぁぁ!!」


 モニターが切り替わり、料理人二人を映し出す。

 一人は自信ありげな表情で六本腕を組み不敵に笑う宇宙人、もう一人は四つ目を伏せるようにして閉じ、静謐な様子で腕を組む宇宙人だ。二人の脇には巨大なクローシュ(銀色の丸い覆い蓋)が乗ったテーブルが置かれていた。


「いざ、実食にぃ、あ、入るぅぅぅ!!!」


 ナレーションが響き渡ると、六本腕の宇宙人が腕を解き、前に進み出た。


「まずはミーからザンショ!」


 六本腕でクローシュをバッと取り払う。

 現れたのは黒焦げのへし折られたタワマン。会場が「どよよ」と大きく騒めく。


 なんてうまそうなんだ……

 濃厚な香りがここまで漂ってくる気がする……

 涎が止まらん……


 そんな賞賛の声を聞き、六本腕宇宙人は改めて不敵に笑った。


「ショッショッショッ! 流石、この会場に来るような皆さんはお目がベリ、ベリ、トールネ!!」


 そして、黒焦げのタワマンを審査員達の前へとドカリと置く。


「これは、タワマン総本山! アメリカ地方(ディストリクト)で養殖された、101階建てタワマンの重油揚げ!! 宇宙で最も高級なモスト・エクスペンシブタワマン料理(ディッシュ)ショ!!」


 説明を聞いていた審査員の一人、毛むくじゃらの宇宙人が眉を上げる。


「ほぉ……しかも、この香り……重油もアメリカ産だね?」

「ザッツイグザクトリィ!! わかってらっしゃる!!」

「なるほど、確かに素材は最高……では、味はいかがかな」


 毛むくじゃらの腕を伸ばし、黒焦げのタワマンをフォークとナイフで切り分け、口元へと運ぶ。ボリボリとしばらくかみ砕いた跡、目を見開いた。


「!!? これは……!?」


 驚きの表情の毛むくじゃら。それを見た六本腕がニヤリと笑う。


「気づきましたネ」

「このコリコリした歯ごたえ……これは、まさか、家具をマクガイアで統一したか!?」

「フフフ……そう、これぞアメリカン・オール……オール・アメリカン・タワマンの重油揚げネ!! ショーッショッショッショッ!!!」

「ここにきて、これほどのものを出してくるとは……」


 毛むくじゃらが「むむむ」と唸った。

 それを見たタコ宇宙人がマイクを振り上げる。


「何という贅沢なタワマン料理だぁぁ!! これは既に決着がついたかぁぁ!!!」


 他の審査員も食べ進めるが、皆一様に驚きの声を上げ、あまりの美味さに唸る。

 会場に全員が、最早このタワマン料理が宇宙ナンバーワンで違いないと、そう思っていた。


 ただ、一人を除いて。


「次は、俺の番だな……」


 どれだけ会場が盛り上がっても、眉一つ動かさずに目を伏せていた四ツ目の宇宙人が腕を解く。審査員達の前へと料理を運び、クローシュを持ち上げた。


 会場が騒めく。悪い意味で。


 それは、タワマンというには、特に六本腕が出したものと比べると、明らかに見劣りする小振りなものであったのだ。

 高笑いする六本腕。


「ショーッショッショッショッ!! 勝利(ヴィクトリー)を諦めたとみたぁぁ!!!」

「それは、何かね?」


 毛むくじゃらが静かに尋ねた。臆することなく、四ツ目の宇宙人が答える。


「ニッポン地方で取れたタワマンの、寿司でございます。シャリには花崗岩を使っております」

「ほぉ……スーシー……聞いたことがある。ニッポンの民族料理だね?」

「はい」

「なるほど。アメリカに対してニッポン。面白い戦いだ」


 毛むくじゃらがフォークとナイフを伸ばす。しかし、ふと思い立ったように、それらテーブルに置いた。


「ニッポンの料理は、ニッポン式で食さねばな」


 そして、改めて、素手でタワマン寿司を掴み、口へと運んだ。

 モゴモゴとしばらく口を動かした後、震えた。


「ま、ま、まさか……こ、これは……」

「はい。ニッポン地方のグンマーという秘境で採れた……『天然もの』にございます」


 悠然と答える四ツ目。


「バカなぁぁぁぁぁ!?!? 天然(ナチュラル)タワマンだとぉぉぉぉ!!!?」


 六本腕が驚愕に叫び、会場が一気に興奮に包まれた。


 ……勝負の行方は、まだ分からない。



 ヴィジョンモニターから流れるタワマン料理対決番組を消し、窓の外に見える東京タワーを見ながら地球人である『スギモトイチスケ』はため息をついた。


 宇宙人に地球を支配されてからというもの、地球は彼等にとって高級食材であるタワマンの養殖場となった。主要産業は全て建築系に支配され、地球人はタワマンを作り育てるためだけに生かされている。スギモトイチスケもまた、タワマンメンテナンスのためにタワマンに住む、タワマン職人の一人だ。


 昔は東京タワーの見えるタワマンなんて憧れの的だったもんだが……


 今では猫の額ほどの土地ですらもタワマンが建てられ、刈り取られ、建てられを繰り返している。東京タワーどころか、タワマンに住むことすら、何の自慢にもなりはしない。


 あの東京タワーからはタワマンしか見えないのだから。


【あの東京タワーからはタワマンしか見えない おわり】

 第二回『闇小説鍋』はここで終了となります。

 ここまでお読み頂きありがとうございました。


 もし面白いと思う話があったなら、少し下の広告欄の更に下にある☆☆☆☆☆をクリックして評価をして頂ければ嬉しく思います。


 それでは、またいつか。闇小説鍋会場にてお会いしましょう。

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