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闇小説鍋  作者: 熱湯ピエロ
次元超越世紀末激闘編
1/19

怪奇! 恐怖の納豆男!!

『怪奇! 恐怖の納豆男!!』


「あーだるい……」


 肩を落とした義男よしおはぽつぽつある街灯が照らす暗い夜道をとぼとぼ歩いていた。

 終わらない仕事、上司の無茶振り、止まない同僚のグチ……特に仕事自体が嫌いなわけではないが、何かと疲れることが多い。

 もういっそ明日休んでやろうか……義男が溜め息をつきながら、どこにでもあるような電柱の横を通りすぎた時だった。


「疲れた顔してますね……」


 誰もいない夜道に響く、低い声。

 義男はびっくりしてバッと声のした方へ……電柱の影へと顔を向ける。そこには手に何かを持った一人の男が不気味に立っていた。

 初夏だというのに着込んでいるトレンチコート。目深に被っているつば広帽子。かすかに見える口元に湛えるほのかな笑み。

 こんな恰好で、こんな時間に、こんな人気ひとけの無いところで、電柱の影に身を潜ませている……不審者役満である。義男の頭には『逃げる』という選択肢しか無い。

 しかし、目の前の不審者が起こした次の行動に義男はあっけにとられて、逃げることが出来なかった。


 なんと不審な男は手に持った何かを猛然とバリバリ食い始めたのだ。


 それは納豆だった。間違いなくパック納豆だった。パック納豆をパックごとバリバリと食っているのだ!

 義男は恐怖を感じ、顔を引きつらせる。だが、更なる恐怖を義男が襲う!

 不審者男のかすかに見えている顔の部分にぶつぶつと何か……いや、暗くて見えにくいが間違いない! ぬらぬらと糸引く納豆だ! びっしりと納豆が浮き出て顔を覆っていっているのだ!

 義男は腰を抜かしながら絶叫した!


「ひぎゃぁぁぁぁぁ!!!!」

「ネーバネバネバ!! 怪人ナットマン参上ネバー!!!」


 不審者男はトレンチコートとつば広帽子を脱ぎさる。その下も大量のぬらぬらした納豆で埋め尽くされており、発酵臭がムンと周囲に立ち込めた!


 説明しよう!!

 怪人ナットマン『本猛ほんもう 武彦たけひこ』は改造人間である!

 悪の秘密組織『タピオカ』によって改造された彼は「何かキモいなコイツ」と組織から身勝手に捨てられ、はぐれ怪人となったのだ!!

 好きなものはネギ! 嫌いなものはアルコール全般!


「ひぎゃ、ひぎゃ、ひぎゃぁぁぁ!!!」


 ナットマンの恐怖の姿にビビり倒した義男は、腰を抜かしながらも這ってその場から逃げようとする。しかし。


「ナットーストリングス!」


 ナットマンの指先からビャッと放たれた粘着性の糸によって、地べたに拘束されてしまう!

 これが漫画やアニメだったらマー〇ルに怒られそうな技だが、これは小説なのでセーフ! 完全なるセーフである!!


「逃げる必要無いネバー」


 拘束された義男に、ぬっちょぬっちょと粘着性の足音を響かせてナットマンが近づいてくる。上に向けられた掌からは、ボコボコと大量の納豆が泉のように湧き出ていた。


「うわぁぁぁ! 来るな! 来るな!」

「食いねぇ。食いねぇ」

「や、やめ、ウゴボボボボボ」


 義男は必死に身をくねらせ抵抗したが、憐れ、無理矢理ナットマンの手から溢れる納豆を口の中へと突っ込まれてしまうのだった。


「ゴボボボボー……ボ?」


 その時、不思議なことが起こった! あれだけ感じていた体のだるさが、まるで魔法のように消えてしまったのだ! それどころか調子が人生で一番いいまである!

 気付けば、義男はナットマンの納豆をムシャムシャと貪っていた!


「うううぅぅぅうんまーい!!!」


 しかも、美味かった!!

 ナットマンは満足そうに頷く。


「納豆は5大栄養素と食物繊維が全て含まれる超栄養食ネバー。更に納豆特有の酵素『ナットウキナーゼ』には体内の状態を正常に整える効果もあり、『スーパーフード』なんて呼ばれてるネバよ。更にワタシにはその納豆パワーを極限に高める能力があり、ワタシが生み出す納豆を食べればどんな不調だって一発で解決するネバー」

「そ、そうだったのか!」


 義男は全身が納豆でベトベトだったが、そんなことはちっとも気にならなかった。

 最高だ。最高の気分だったのだ!


「ありがとう! ナットマン!」


 ナットマンは納豆まみれの手で義男にサムズアップをすると、闇夜の街へと消えていくのであった。


 *


 武彦は悪の組織に捨てられた、はぐれ怪人『ナットマン』である。

 だが、組織に復讐する気もなく、ましてや正義の味方に挑む気も無かった彼が選んだのは、『人助け』であった。

 自分の力で疲れている人々が健康になって、笑顔と感謝を向けてくれる。

 元々善良な性格であった彼にとって、何よりそれが嬉しかったのだ。


 *


「あー、あの先公マヂムカツクんですけどー!」

「怪人ナットマン参上ネバー!」

「ウゴボボボボボー! なんか気分ハレバレー!」


 しかし、武彦は知らなかった。


「睡眠不足で肌が荒れっちゃった……」

「怪人ナットマン参上ネバー!」

「ウゴボボボボボー! つるつる肌になっちゃった!」


 ナットマンの納豆には脅威の『中毒性』があることを。


「もう三日もウンコ出てねぇ」

「怪人ナットマン参上ネバー!」

「ウゴボボボボボー! うぉぉぉギュルっときてるぅ!」


 一度食べてしまうと一定周期でこの納豆を接種しなければ、人間は『納豆を求め徘徊はいかいするだけの廃人』と化してしまうことを。


 武彦は、ナットマンは、知らなかったのだ。


 *


 一年後。とあるアパート。


 部屋の片隅で武彦は膝を抱えて座っていた。


「うぅぅぅ納豆ぉ……納豆ぉぉぉ……」


 聞こえてくるうめき声。

 外では納豆を求め徘徊する納豆ゾンビが街に溢れているのだ。


 どうしてだ……どうしてこうなった?

 有名になってきた時に調子に乗って、応募者全員サービスでナットマン納豆を配り出したのが運の尽きだったか? でもあれは善意だったんだ。本当に悪気は無かったんだ。こんなことになるなんて……


 武彦の目から涙が溢れる。

 納豆ゾンビとなってしまった者はもう救えない。自分の納豆を食べさせても正気に戻るのは一瞬で、すぐに元に戻ってしまうのだ。

 何より、数が多すぎる。

 最早街にはまともな人間の方が少ない。もうどうしようもなかった。


「納豆ぉぉぉ……納豆ぉぉぉ……」


 声が近い。武彦は身を強張らせる。

 全身納豆の自分が納豆ゾンビに見つかったらどうなるか。考えただけでも恐怖であった。


 嫌だ。死にたくない。来るな。来るな。頼む。


 バガァァン!!


 アパートの扉が蹴破られた。


「納豆ぉぉのぉぉぉ臭いがぁぁするぅぅぅぅ」


 嫌だ。来るな、来るな、来るな。


「来るなぁぁぁぁぁぁ!!!!!!」


 食べられたくない。


【怪奇! 恐怖の納豆男!! 終わり】

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