4話 文芸部②
ガラガラっと、文芸部の部室が開いて、妹の凛が入ってくる。
凛は高校1年生。制服の夏服を身にまとっている。コンバースのパーカーにネクタイをしめている。紺色のハイソックスに靴はローファ。
「兄、誠司郎さん。おはようございます。誠司郎さん、【国際物理オリンピック出場】が決まったそうですね。おめでとうございます」
誠司郎は3年生で学年トップ、俺は2年の学年トップ、凛は1年の学年トップ。俺達は高校で【暁の3賢者】と言われている。他の生徒とは隔絶たる差があり、それは生命体としてのレベルの違いだ。
「ありがとよ。凛。俺の目的はあの大会に出る【楊冬】という少女だ。彼女を日本に連れて帰りたいんだ。得難い才能の持ち主だからな。一説によると、アインシュタインの血を引いているらしい。俺が唯一、尊敬してやまない男だ。もう一人はホーキング博士だが、彼も鬼籍に入っている」
「それって誘拐?犯罪なんじゃないんですか?」
「違う。“勧誘”だ」
誠司郎は文芸部の他にも科学部に属している。何をやっているかは学校の先生も把握していない。
凛と誠司郎の話を傍らで聞いていた俺は部室の奥にある冷蔵庫の扉を開けて、メロンバーを取り出すと口にくわえた。そしてノートパソコンのスイッチをつける。学校にはwi-fiが通っていて便利だ。『ヤンドン』で検索してみる。韓国の料理屋が出てきた。これは違うだろ。俺は検索するのを辞めて『なろう系サイト』にアクセスする。
なろう系小説の更新も文芸部の活動の一貫である。部員は誠司郎以外は全員、なろう系小説を書いている。なろう系小説の“ウケ”で自分達の部内のポジションを競い合っているのだ。ネット時代ならではの面白い試みだと思う。もっとも俺の場合は読者を増やす事よりも、真理の追求がテーマなので、下手に意識しないでやっている。