第1章 第2節 巡り会う糸、出会えた人
「君、私のギルドのメンバーにならないか?————」
ギルドねぇ……。
「面白い冗談だ、怪盗なんて呼ばれ方や自分でもそう言っているが、言っちまえば泥棒。ただの犯罪者だぜ?そんな奴を自分のギルドに入れてどうすんだよ」
「怪盗の君については散々調べたよ。けど、どんなに調べても君については噂程度しか情報が出てこなかったよ。あと、この界隈では奏者と呼ばれているという情報くらいだね」
————奏者……ね。変な呼ばれ方されてるなー俺。まあ心当たりはあるけど。
「誰が言い出したかは知らんが、的外れなあだ名だよ」
カエデはニヤリと口角を上げる。なんか嫌な予感……。
「なるほど。奏者という人物はナツメで確定か。そのことについては一般的には私くらいしかしらないことだろう。つまりナツメは世に出てもただの一般人だ。今日を最後に怪盗業から足を洗えば犯罪者という事はバレずにギルドの一員となる。ナツメにとっても悪い話ではないと思うが?」
————確かに、悪い話ではないな。
正直、好奇心で始めた石探しだが、怪盗を続けていくには限界を薄々感じていたし、その宝石についての情報だって集めてはいたが、大した情報は掴めていないのが現状だ。
実際にこの目で見たことあるから探している宝石は実在していることは間違いないんだけど、俺の情報量じゃ中々手に入らないし、トレジャーギルドに関しても最初は、この国には探索に力を入れているギルドはなかったからわざわざ他国のトレジャーギルドに足を伸ばしたが他所の国の人間ということで、門前払いだったしな。
この誘いは乗るべきか、乗らぬべきか…
「どう思う?ツバサ」
カエデの後ろの方を見て問いかける。不思議に思ったカエデは首を後ろに振り向けると虚空から人がいきなり現れた。
「そうだね。この人。カエデさんだっけ?僕が聞いた感じ嘘はついていないし、ナツメの夢を叶えるためにもいい話だと思うよ」
「そうか……」
今の状況に多少戸惑っているカエデに軽く説明しておくか……。
「紹介するよ。そいつは九重ツバサ。俺の頼れる相棒だ。ちなみに性別は男な」
「ほう……、えっ!?男!?この子が!?」
髪は金髪で平均と比べると小柄な体に少し長い前髪に隠れた目はパッチリとしており輪郭は丸く顔は童顔で女の子のような顔をしているが残念、男だ。
「しかし、いつの間に後ろに居たんだ?正直全く気がつかなかったよ」
「ずっと見ていたよ。ナツメとカエデさんが闘ってたあたりから」
「そういう能力なの?」
「まあ想像に任せるよ」
途中で連絡が取れなくなって少しあせったが、捕まったふりをしている最中にツバサから合図があり存在に気づいていた。まあ大体の人は能力を自分から言ったりはしないがツバサの場合は尚更言えないな。
「さっきのギルドの件だが、カエデの言うとおり悪くない話だが、いくつか聞かせてくれ」
「いいよ。前向きに考えてくれてるのならいくらでも話そう。けど、ずっとここにいるのもなんだし向こうに私の車を停めてある。そこに向かいながらと、車に乗って話をしようじゃないか」
「ああ、わかった。いくぞツバサ」
「了解だよ」
美術館を出て、山のふもとにある車へ向かう。夜の山はいいな、静かで落ち着くし、山頂から下がっていくと肌寒さはなくなりちょっと涼しいくらいで丁度いい。
「話の続きだが、そのディスカバリーには人は何人くらい居るんだ?」
「私を含めて全部で3人だ。君たちと年が近い双子のメンバーが居るよ」
「へぇ、ずいぶん少数なんだな」
「うん。なにせ設立して2ヶ月目だからね、それにむやみに人を増やそうとも思ってないしね」
「この国でギルドを新しく設立するなんて、相当面倒だったんじゃないか?」
「まあ、苦労はしたさ……けど勉学は学生時代に、戦闘基礎や金に関しては王国直属の軍で働いていた時に準備してなんとかしたさ」
王国直属の軍人ってことは相当エリートじゃねぇか……入るのも出るのも超難関ってはなしだぞ……。
「なんでギルドを設立したんだ?正直、軍を抜けるのはもったいなかったと思うが……」
「目的は君と一緒さ、全ては「サン・ジュエル」を見つけるための過程にすぎないよ。あと、あまり人にこき使われるのは好きじゃなかったしね」
目的が一緒ね……。確かに目的は一緒だが、その為の努力の差が天と地程の差がある。
すごい人だと俺は思うし、ギルドに入ってついていっても問題ないだろうな。
「そろそろ車を停めている所につくよ」
「ああ」
そうこう話をしている内に山のふもとまで降りてきていた。
「……?どこに車があるんですか?」
人見知りでずっと俺の後ろでだんまりだったツバサが口を開いた。
確かに、周りは平地で辺りを結構遠くまで見渡せるが、見たところ車の姿は見えない。
「隠してあるからね。そう簡単には見つからないさ」
こんな遮蔽物もなにもない所に隠してあるだと?一体どうやって……。
「ツバサ、見てみろよ」
「わかった」
ツバサはフッと目を閉じ、少し集中した後目を見開く。
すると、見開いた目は淡い緑色を宿し、辺りを見渡す。
「……なるほど。カエデさんの能力だからこそできる隠し方だね、ナツメこの辺に立ってると邪魔になるだろうからちょっと移動しようか」
「流石だな」
ツバサは俺らの立っている地面を指差しながらそう言った。地面に隠していたのか、そりゃ簡単には見つからないな。
「凄いな。まさか見つかるとは、不思議な能力だね」
「しかし、車を地面の中に埋めて大丈夫なのか?」
「問題ないよ。私の砂でコーティングして埋めてあるからね」
そう言いながらカエデは地面に手を当て、地面の中から車を湧き出るように取り出した。
「そういや、車に一緒に乗れと言っていたがどこへ行くんだ?」
「私のギルドだよ」
「ずいぶん気が早いな、前向きに考えているだけでまだ加入するとは言っていないぞ」
「そうなの?私はもう決定しているものだとばっかり」
いや、ほんと自分勝手だなこの人……。
「車に乗る前に決めておこう、俺はギルドに入るのは全然良いと思っている。だが、ツバサももちろん入れてもらう。それが条件だ」
「全然かまわないよ。ただ、仲間になるのならツバサ君の能力を教えてもらいたい。けれど、無理にとは言わないわ。言える範囲でかまわない」
「だとさ、どうする?ツバサ」
「少し、考えさせてほしい……」
ツバサには時間が必要だ、こいつは神聖能力の持ち主の神聖人だ。中々、簡単には言えない。
さて、どうしたものか……————ッツ!?
山の木の陰から先端に錘のついた鎖が飛んできてそれが首に巻き付いてきた。
く、苦しい……!するとすさまじい力で木の陰の方に引っ張られ俺の体が飛んでいく。
「うおっ!————」
「「ナツメ!!」」
カエデとツバサが同時に俺の名を呼ぶ。
「くっ……!はあっ!!」
引っ張られる木とはまた別の木に糸を伸ばし結びつけ、動きを止める。
そして、手から糸を繰り出し、それに切れ味を持たせ、糸鋸のように扱い鎖を断ち切る。
すると、引っ張られていた鎖の力はなくなり、結びつけた木の方へ飛んでいく。
「うおおおおおおおおぉっ!!!」
勢いが強くそのまま木にぶつかってしまった、クソ痛えぇ……。
「なんなんだ、一体……」
「ナツメ!!大丈夫か!?」
そばにカエデが駆けつけてくる。
鎖が飛んできた木の陰のほうを見ると、次は一本ではなく大量に鎖が伸びてきた。
「やられっぱなしにはなんねぇよ!!」
飛んでくる鎖全てに糸を放ち結びつける。
逆にこっちに引っ張りだしてやる!!
グッと力を込めるが、鎖の主と引っ張り合っており、綱引きのようになってしまっている。
「私に任せろ!!」
カエデは俺の糸と鎖に砂を纏わせ、鎖の方へ伸ばしていく。
「ぐわぁぁぁぁ!!」
木の陰の方から男の声が聞こえてきた。
カエデの攻撃が当たったのだろう、鎖の引っ張る力が抜けたのを感じたので糸で引っ張り上げる。すると、大柄の男が釣れた。
「こいつ……何のために俺に攻撃を……?」
だが、引っ張りあげた空中で大柄の男は俺に向け鎖で攻撃してくる。
「きかねぇよ!」
俺の右頭部側を狙ってきた鎖を右手と左手の指を合わせ、大きく開き、指の先から出した5本の糸でガードする。
次に、両の手から糸を出し、大柄の男にくくりつけそのまま木にぶつけてやった。
動けないようにそのまま木に縫い付けてやった。
「ナツメ!カエデさん!気をつけて!奥にもう一人居る!!」
後ろからツバサの声が聞こえてくる。
バッと木の陰の方を振り向くとまた一人男が現れた。さっきの大柄の男と比べると中肉中背の男で、なんだか嫌な気配を感じる。
「女の方か……「クリスタルライト」を持っているのは……」
「こいつ……!!盗賊のオルガ・ランジェストだ」
————盗賊か、何回か闘ったことはあるがここまで邪悪な気配を感じる奴は初めてだ……
それに、なんでカエデが宝石を持ってることに気づいたんだ?
「匣————展開」
オルガの前に突如、棺桶のような長い箱が出て、その中から2つの節がある棒を取り出したのが見えた。
「ありゃぁ……三節棍か」
「気をつけろ……奴は神出鬼没とも言われている」
「……扉、解錠」
オルガの後ろに突如、開かれた扉が現れ、バックステップで扉へと飛び込んでいく。
「箱やら扉やら、あいつの能力か?」
「どうだろうな……周りに気をつけてね!」
「ナツメ!後ろからくるよ!」
後ろを振り向くと、俺に向け三節棍で攻撃してくるオルガが見えた。
バキッ!!
「がぁっ!!」
胴の辺りを三節棍でぶん殴られる。
「効かねぇな……」
「なにっ!」
普段から体に巻きつけてある糸で防御力を増しているんだ。打撃はそんなに効かん。
それに、殴られたときにそのまま俺の体と三節棍を結び付けてやった。返さねぇよ。
「くらいな!!」
糸で槍の形を造型していく。糸も使いようによっちゃこんなこともできるんだぜ。
「《ロンゴミニアド》!!」
槍の形を模した糸を体に貫き、気管内にある魔素の通り道———— 魔気道を縛り上げる技だ。体に魔素が巡らなきゃ能力は使えなくなる。ただ、能力で糸を体内に侵入させるだけなので外傷は特に無い。
能力が使えなくなると誰でも困惑する。その隙を狙って適当に縛り上げて警察にでも渡して終わりだ。
「仕掛けた相手が悪かったな、オルガ」
《ロンゴミニアド》はオルガの体を貫いた————。