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糸の奏者の探しもの  作者: 藍葉翔太
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第1章 第1節 巡り会う糸、出会えた人

「雲一つない、綺麗な夜空だ……満月が輝いている、今日はいい日だ。仕事もまた上手くいくだろう」


 俺は八代(やつしろ)ナツメ————職業・怪盗

 怪盗というと、どういったのを想像するだろうか。予告状を出したり、奇抜なトリックなどで警察などを欺き、華麗にお宝を盗んで去っていくのを想像するだろう。

 ただ、現実は違く、わざわざ捕まるリスクがデカくなる予告状なんて出さないし、警察や警備員なんかと闘う暇があったら全力で逃げるさ。

 怪盗なんて格好つけていっているが実際はただのコソ泥だな。

 

「俺の能力的にも、コソコソしてる方が性に合うしな」


 この世界の人間は空気中に流れる魔素(まそ)を身体に呼吸と共に取り込み、自身が持っている能力を活性化させ発動させる。

 その能力は人が生まれた時から決まっていて、遺伝等には一切の関係性がないのが判明されており、それがシンプルなものだったり、かなり複雑なものだったり、強力なものや非力なものだったりする。

 どんな能力を授かるのかはその人次第ということになり、基本的には1人1つの能力を持つが、極一部では、能力を複数持つ人がいたり、人間の域を超えた能力を持つ者なども存在したりしている。

 人間の域を超えた能力は能力と称されず、神聖能力(しんせいのうりょく)と呼ばれ、その神聖能力を持つ者を————神聖人(しんせいびと)と呼ぶ。

 誰が言い始めたのかは知らないが、神聖な力という名称には実際見てみれば納得がいく。

 俺にはこの怪盗という盗人の仕事には頼りになる相棒がいる。その相棒が神聖人だからだ。

 

 ————けれど、大きな力というのは恐れらるもので、神聖人ということがバレた途端、国に連行され、国に保護、教育を受け、愛国者(あいこくしゃ)として育て上げられ、神聖能力によっては、国を導くトップの人間になったり、国の為に闘う戦士になったりと色々ある。

 俺の相棒はまだ神聖人という事はバレてはおらず、バレたとしてもそう簡単には捕まらないだろう。あの神聖能力ならな。

 俺が教えられた神聖人ってものはこれくらいのもので、本当はもっと闇の深いものなのかも知れないが、生憎、俺は神聖能力なんてものは持っていないし、能力もシンプルなものだ。

 けれど、シンプルな分だけ汎用性が高くかなり役に立つ。

 さぁ、そろそろ相棒も準備ができた頃だろう、能力を駆使してお宝をいただきましょうか。


「ナツメ、防犯装置の解除が完了したよ。警備も厳重じゃないしさっさと終わらせよう。準備はいい?」

 

 相棒からインカムを通して声が聞こえてきた。


「了解、この美術館は山の上にあるせいかちょっと肌寒いな。パッと盗んでサッと帰ろう」

「うん。また例の場所で落ち合おうね」


 ————さぁてと、お仕事始めますか。と言っても、もうお宝の真上に居るんですけどね。

 問題は、そのお宝のを囲っているガラスのショーケースでこいつを外そうとすると警報がなり警備員が飛んでくる仕組みだ。

 だが、それももう問題ない、頼りの相棒がその装置を解除してくれたからだ。

 俺はお宝の真上の天井に自身の能力である「糸」によってへばり付いており、足の先からゆっくり糸を出し、糸を垂らす蜘蛛(くも)のように頭からお宝に降りていく。

 

 ちょうどいい距離まで近づくと、右手から糸を繰り出し、その糸に鋭さを持たせ、さらに左手からは粘着性のある糸を出し、右手の糸をガラスのショーケースの上に突き刺し、その横に左手の糸をガラスにくっつけ、右手の糸を円の形に動かして、ガラスをくり抜いて、くり抜いたガラスを左手の糸で巻き上げ回収した。


 同じ要領で、拳サイズ程の透き通る透明の宝石であるお宝を糸をくっつけ回収する。


(この宝石が俺の探している宝石だといいんだが……)

 

 宝石を手にし、懐にしまった瞬間、視界の端で何かが動いたのを捉えた。

(しまった! いつの間にか人が居たのか!?)

 動いた方向に視線を向けると————何かが飛んできた。


「うおっ!!」


 飛んできたのは「砂」だ。

 扇状の形をした砂の塊が飛んできた。————だが、その砂は俺ではなくぶら下がっている「糸」に向かって飛んできていた。

 その「砂」によって俺の「糸」は切断された。

 

 「くっ……!!」

 

 空中で体を捻り、壁に向かって粘着性と伸縮性を持たせた糸を飛ばし、糸がくっつき、伸縮の反動で壁の地面へと逃げた。

 ————けれど、逃げた先の地面は既に「砂」があり俺はその「砂」に捕らえられた。


 「逃げろ! 誰かいる!」

 

 インカムを通して、相棒に伝えるが、反応がない。なぜだ?

 

 「反応がない相棒も心配だが、今は自分の心配だ」

 

 すると、コツコツと足音を立てながら誰かが近づいてくる。


「その盗みの手法、見事だったよ」

 

 黒いスーツを着た、黒色のストレートヘアーの女が俺の前に立ち喋りかけてくる。

 恐らく、この女がこの砂の能力者だろう。


「あんたがこの砂の能力の持ち主か?」

 

 ダメ元で聞いてみるが、返答なんて期待できない。

 それより、連絡が取れない相棒が心配だ。


「ああ、そうだよ。私が君をこの能力で捕らえた。」

  

 教えてくれるんだ……。

 意外にも、あっさりと教えてくれた。


 「悪いが、盗んできたお宝は全部闇市に流しちまったからもう残ってないぜ。コレクター趣味はないから————「君が今まで盗んできた中に琥珀色のダイヤモンドはなかったか!? サン・ジュエルという名前 の宝石だ!それか、サン・ジュエルに関する情報を持ってないか!?」

 

 女は食い気味で俺に質問してきた。

 人の話は最後まで聞くもんだぞ……もしかしてこの女、警察や警備員じゃなくて同業者か?


「……この砂を解いてくれたら答えてやるよ」

「答えるのが先だ」

「じゃあこのまま煮るなり焼くなり、警察に突き出すなり好きにしな」

 

 俺は強情を張る。人の話を最後まで聞かない奴に答える気はないし、そんな宝石は知らん。

 女は左手を前に出しグッと握りしめる。

 その動作に疑問を抱いたが、女も俺を見て首を傾け、眉を顰める。

 ————こりゃ気付かれるな……。

 俺はスルリと捕らえられた砂から抜け出す。


「……べんりな能力ね」

「そりゃどうも、あんた同業者か?」

 

 女は少し考える素振りを見せるが隙はみせない、なかなかやるな……。


「同業者では無いけど、目的はおそらく同じよ。あなたも探している宝石があるんでしょう?」


 さっきも聞いたが、この女はどうも「サン・ジュエル」という宝石を探しているらしい。

 俺の探している宝石はそんな名前じゃないだろうし多分別物だろう。


「あんた、宝石について詳しいのか?」

「そういう返答をするあたり、私の探している宝石とは違うものを探しているようね。サン・ジュエルにつ いて情報を持っているのかどうか素直に教えてくれたら考えてあげる」

 

 この女が俺の探している宝石を知っていたら好都合だ。

 俺は探し求めているくせに探している宝石に関しての情報が全然無い。


「……俺が探している宝石は満月の日の月の光に当てたら紫色に輝く宝石だ。俺はそれにしか興味がないからそのサン・ジュエルとやらは知らん」

「そうか、知らないか……。残念だが、私も君の探している宝石については知らないな。なんていう名前の宝石なんだ?」

「……名前も知らん」

「えぇ……君はその、満月の光に当てたら紫色に輝くって情報だけで探していたのかい?」

「……その通りだ」

 

 俺はその情報だけで15歳の頃からその宝石を探し続けて3年経ったが全く情報も手に入らず、勿論その宝石も手に入っていない。

 

 (そういえば……)


 俺はさっき手に入れた宝石のことを思い出す。


 「この宝石が俺の探しているものかどうか確かめたい。一度、屋根に上がるぞ。あんたとはもう少し話がしたい、ついてきてもらうぞ」

「自分勝手だな……君。————まあ、わかった。私も君とはもう少し話をしたいと思っていたしね。ついていくよ」

 

 そう言うと女は、自分の足元に砂を円盤状に集めて、それに乗り、この部屋の天井の天窓まで浮き始めた。

 あの砂、空飛べるんだ……すげー……。

 女が天窓を開け屋根に上がっていく。見惚れてる場合じゃないや。

 空いた天窓に向けて糸を繰り出し、屋根まで一気に上がっていく。

 屋根に上がると、懐から手に入れた宝石を出し、満月に向けてみる。

 ……結果は違うっぽいな、何の変化もない。


「どうだ?」

 

 女が俺に問いかけてくる。


「どうも違うっぽいな、これは透明だし、あんたの探してるものでのないだろ?」

「よく見せてほしい」

 

 女は手を差し出しながらそう言う。

 まあ、お目当てじゃないし渡してもいいか。


「ほらよ」


 俺は女に向け宝石を放り投げる。


「おっとっと……ふむ……」

 

 女は宝石を受け取りまじまじと確認すると————その宝石を懐にしまった。いや、差し上げたつもりは無いんですけど……。


「————私の探しているのとは違うなあ……けれど、帰って確認してみるよ。もしかしたら、サン・ジュエルに繋がる何かを得れるかもしれない」


 俺とは違って真剣に探してるんだなあ……いや俺も真剣だよ?ただやり方が雑なだけで。


「さいですか。それじゃあ最後に質問だ、あんたは何者だ?」

「私は、トレジャーハントギルド・『ディスカバリー』 ギルド長————五十嵐(いがらし)カエデだ」


 女は自分の顔写真と名前が入ったカード見せながら凛々しい顔でそう言う。恐らく、見せたカードはそのギルドの証明カードかなんかだろう。

 しかし、ギルドか。同じ陸内にギルド業が盛んな国があるのは知っているが、この国でギルドがあるのは初耳だな。


「珍しいな、この国でギルドなんて。で、そのギルド長の五十嵐さんが俺に何の用だ?」

「カエデでいいわ。私は自分の事を素直に言ったのだから君も教えるべきではないか?」


 何言ってんだこいつ。————まあ礼儀には礼儀で返すのも当然か。


 「俺は八代ナツメだ。証明できるものはない」

 

 カエデの目的は恐らく俺だ。ギルドの人間なら宝石の所有者に掛け合えば、その宝石を直接調べさせてくれることもできるだろうし、わざわざこんな夜の美術館に忍び込む必要もない。ギルドの仕事として雇われで警備等なら俺を外に出してる時点で違うとわかるし、消去法で宝石でもなく仕事でもなければ目的は————俺となる。

トレジャーギルドという職種の事に関しては昔、調べていたからわかるぞ。まあ怪盗やってるんですけどね。


 「ナツメ…か、君の噂は予々聞いていてね。今日その手法を見て今までの窃盗事件の犯人が君だと断定したよ」

「ああ、でも、犯人を俺だと断定しても捕まえるのが目的じゃないんだろ?本当の目的は何だ?」


 事実、室内で闘ってカエデが本気を出していない事はわかっていた。

 何かを探っているような闘い方だったしな。

 「頭の回転も早いな……単刀直入に言おう、ナツメ、私のギルドのメンバーにならないか?」

 ————意外にも、カエデの口から出たのはスカウトだった。

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