2話 ぬいぐるみマスターの能力①
教会から帰って来た僕は疲れ切っていた。
何故なら、妹ーーフィアの質問攻めにあっていたからだ。
クラスは何ですか?能力は?可愛いですか?等々。
フィア。クラスに可愛いは無いと思うよ……。
「はあ。ぬいぐるみマスターって何なんだよ……」
僕は7歳の体には大きすぎるベッドに横になってため息を吐く。
「ぬいぐるみを使役する、か……」
そこで僕はある事を思いついた。
「取り敢えず、僕のぬいぐるみで試してみようかな」
僕は枕のそばに置いてある、白銀でふさふさの毛を持った狼のぬいぐるみを手に取る。
僕の初めてのぬいぐるみでいつも一緒にいた。一緒にしゃっべたり出来たらいいなっていつも思ってた。もしそれが出来るなら、
「このクラスも悪くないかもね」
僕は狼のぬいぐるみーーワンの頭に手を置く。ワンというのはこのぬいぐるみの名前だ。安直だけど結構気に入っている。
「で、試しにぬいぐるみを持ってみたけど……こっからどうすればいいのかな?」
クラスは昨日授かったばかりでどうすれば使えるのかも分からない。
ユニテッドにはステータスっていうのがあって、それを見ればクラスの説明が書かれてるみたいだけど……僕がステータスを見れるのは最低でも明日。明日は教会に行って、ステータスを見せてもらえるんだけど、やっぱり今すぐに使ってみたい。
「……話しかけてみるか」
僕はワンを隣に置いていつもやっているように話しかけた。
「ワン。今日はクラスを授かったんだ。それでね、そのクラスがぬいぐるみマスターって言って、ぬいぐるみを使役する事が出来るみたいなんだ。僕はワンを使役したいんだけど……って、やっぱり駄目か」
話しかけてみたものの、ワンはうんともすんとも言わない。まあ、それが当たり前なんだけど。
僕は苦笑いを浮かべながらワンの頭を撫でる。ワンは狼の姿をしているが、実際には少し違う。
ワンはシルバーウルフという魔物をモデルとして作られたぬいぐるみだ。
魔物。それは知性を持って行動し、普通の動物よりもはるかに上回る攻撃力と頑丈な体を持った恐ろしい生き物。さらに、魔物は人間や動物、更には同族までも襲い、喰らう。だから、ユニテッドの人達は魔物に対し良い感情を持っていない。
しかし、魔物の中にも可愛らしい見た目のものや、人間を襲わずに仲良くしようとするものもいる。その例としてシルバーウルフが挙げられる。
シルバーウルフは可愛らしい(個人の意見です)見た目を持った魔物で、人間を襲う事はあるが、ぬいぐるみとしてなら需要はある。
「ん~。どうやったら使役できるんだろう。明日まで待つしかないのか?」
僕が頭を悩ませているとどこからか声が聞こえてきた。
「貴方がエキルシード・キルガザ―ル様ですか?」
「え?あっ、そうだけど……」
ん?この部屋には今僕しかいないはずだよね?じゃあ誰が話しかけてるんだ?
「そうですか!私はエキルシード・キルガザ―ル様に仕えてる者です!」
「えっと……色々と言いたい事はあるけど、取り敢えずフルネームで呼ぶのやめてくれるかな?」
フルネームもそうなんだけど、僕に仕えてる者?じゃあ、侍女さんの誰かなのかな?
「すみませんでした!では、どのように呼べば良いのですか?」
「じゃあエキルで良いよ」
「分かりましたエキル様!……ところでエキル様。エキル様は何故ドアの方を向いているのですか?」
「え?だって侍女さんがドアの外から話しかけてるんじゃないの?」
「あの、私は部屋の中にいますよ?」
「えっ?」
おかしい。僕の部屋には他には誰もいないはず。強いて挙げるならワンと他のぬいぐるみたちで……。
「もしかして……ワン?」
僕はワンの座っていた場所を見ると、そこには嬉しそうに尻尾を振りこちらを見ているワンがいた。……ん?尻尾を振り?
「はい!先程エキル様に使役されたシルバーウルフのぬいぐるみです!」
僕はその言葉でようやく真実に辿り着いた。
「つまり……ワンは僕に使役されたぬいぐるみって訳か」
「はい!」
ワンは元気よく吠える。
「ワンはどうやって僕に使役されたんだ?」
クラスの発動条件を知っておいた方がいいからね。……まあ、明日分かるんだけどさ。
「エキル様に頭を撫でられた時です。その時に何かズバッ!っと電気のようなものが走り、気づいたら喋れるようになってました!」
ん?電気?
「ワン。ちょっといい?」
僕はそう言いワンを持ち上げるとワンの胸を耳に当てる。
重さは、変わらないみたいだ。
「ワフ~」
するとワンは気持ちよさそうな声を出す。
「ワン?」
「あっ、いえ。気にしないで下さい。エキル様に触れられて嬉しくなり、つい出てしまったのです」
「あっそう」
僕は確かめたいことが終わり、ワンをベッドに降ろす。
「クウ~ン」
すると、ワンはどこか悲しそうな声を出す。
「またやってあげるから」
僕はワンの毛を丁寧に撫で、落ち着かせる。……何か新しいペットが増えた気分だ。
「ワン!」
ワンは悲しい表情から一転、尻尾をぶんぶん振り、喜びを体全体で表していた。
……僕がさっきやった事はワンの心臓の音を聞くためだ。そして、結論から言うと、ワンは生きていた。具体的にはワンの心臓は確かに動いていた。
つまり、ワンには命があるという事。そして、ぬいぐるみマスターというクラスはぬいぐるみに命を与える事が出来る。
ぬいぐるみと喋ったり出来るのは僕としては最高だ。だけど、本当にそれだけの理由で、僕の自己満足の為に命を与えて良いのだろうか。命があるという事は勿論、死もあるという事。普通のぬいぐるみは裂かれてしまっても特に何も変わらない。だけど、ワンは違う。ワンが裂かれてしまった場合、その命は二度と戻っては来ない。
僕はそれからこのクラスをどう使うか、夕食に呼ばれるまでの間考えていた。
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