迷い
俺は砂漠を歩いている。簡単な話だ。こっそりと抜け出してきた。
「はぁ…」
リタに憂鬱そうだと見抜かれた。そうとも。俺は若干憂鬱だった。
あの時、あれほど皆に決意を持てと言ったのに、当の本人が決意なんて無かったのだ。
きっと、彼女達はもう、大丈夫。
これから先、何が起ころうとも、乗り越えていけるはずだ。
俺が干渉する必要は無くなった。
「…」
なのに、何故だろうか。
俺は、迷っているのだろうか。
首を横にブンブンと振る。邪念を振り払う。
俺は本当にダメだ。あの時、みんなから直接、俺が必要だと言ってくれたのに、俺は逃げ出した。
…ダメだダメだ。変に憂鬱になるな。これから先の事だけを考えよう。
これからの宿とか、食事とか。
能力も無くなり、今や普通のホームレス。
たまには実家に帰るのも悪くは無いか。
もしかしたら、居心地いいかもしれない。
「…幻滅、してるだろうな」
「そうですね。とても幻滅してます」
まったく。
こんなことしておいて、幻滅され無かった方がどうかしているか。
聞くまでもない。
答えられるまでもない。
「…はぁ…あれだけ偉そうに語っていながら…出来ていなかったのは俺の方じゃねーか…」
自虐的に喋る。
「あぁ、いえ、私はそこに幻滅なんてしてませんよ?ただただ、あそこまで言わせておいてそそくさ逃げるご主人様に幻滅しただけです」
まったくもう。返事にすら辛辣さを感じる。
「…返事?」
ふと、横を見る。
「今なら…戻ってきたら特別に許してあげます」
お怒りの様子のリタがいた。
「私達はご主人様の身の丈に合っていないその言葉に救われたからこそ、ここにいるんです!出ていくことは、私達を否定することと同義なんです!」
プンスカと両脇に手を当てるリタ。
「でも…」
「言い訳はさんっっっざん!天界で聞きました!もう聞きたくないです!」
そっぽ向かれた。
「だから…何も言わず、戻ってきてください」
…あぁ、俺はホントにチョロい。
「…すまなかった」
戻ろう。俺達の家へ。
「あのー…ですからね?ご主人様…今だけは…対等に話してもいいですか?私…大変お怒りなので」
今まで対等に話していたつもりだったが…まぁいい。
「構わないよ」
すると、リタは俯き、顔を赤らめる。
バッと顔を上げ、真っ赤な顔が正面に来る。
「ご主人様!その…わ、私…と…」
勢いは消え、再び俯く。
対等なはずなのにご主人様呼びは相変わらずだ。
…さて。俺も男だ。この先の展開は予想がつく。
俺は…なんて返事をすれば良いのだろうか。
…いや、考える必要は無いか。きっと、その時出てきた言葉こそ、本心なのだから。
「わ…わわ…私…と…!私…とぉ…!お
「おーい、ギューフー?」
リタの後ろからゾロゾロと、みんなが来た。
「ひゃうぅ!?!?!」
リタは飛び上がり、俺の顎にヘディングをかます。
「いてぇ!!」
あぁ、もう、めちゃくちゃだ。
「いたいたー!…ってか、リタも一緒だったならそう言いなさいよ」
アルミスタが駆けてくる。
「何だ?散歩でもしてたのか?」
アーチュはあっけらかんと聞いてくる。
「はっはーん、さてはお2人、そういうご関係?ニシシ」
黒猫は黒猫で笑っている。
「さ、帰ろうか!お兄ちゃん!」
カランコエがこちらにしがみついて来る。
リタはふくれっ面だったが、やがてそれは笑みに変わった。
「もー!せっかくご主人様との散歩中だったのに!」
わざとらしく、怒った。みんなはそれを見て笑う。
あぁ、これこそ、俺達の勝ち取った平和だ。
みんなで帰路につく。
そして、みんなとある程度距離が離れたところを見計らって
「ご主人様」
リタは声をかけてきた。
「大好きです」
今までに見た、リタの笑顔の中で、1番輝いた笑顔で、俺に、そう言った。
「あぁ、俺もだよ。リタ」