返還
砂煙が晴れると、そこには地に伏したアルテミスがいた。
「ケホッコホッ…フフ…」
笑っている。
「フフフ…私の負けね…」
体はピクリとも動いていない。体の至る所からの出血も酷い。
「でもね…」
嫌な笑みを浮かべ続ける。
「私の面白い世界の創造のために…負けるなんて許されない…フフフ…さぁ、ぶっ壊して、全て無かったことにしちゃいましょうか」
ドン!!
破裂音がした。
「知ってる?どうやって天界が浮いているのか…」
「まさか!?」
ケトラがハッとした。
「中枢を破壊したのですか!?」
「…フフッ」
グラリと地面が揺れた。
「ギューフさん!落ち着いてください!天界は間もなく真っ逆さまに落ちます!おそらく、人間界を破り、冥界にすら危害を加えることでしょう…」
あぁ、なんて事を…と頭を抱える。
俺は…至って冷静だった。
「なんか方法は思い浮かばないか?」
カードからみんなを出し、問いかける。俺以外も全員冷静だった。
「そうじゃの…魔王城の中枢と同じ仕組みならば、魔力を込めると中枢は回復する」
カトレアは悩みながらも判断を下した。
「ケトラ、中枢への案内を」
おろおろするケトラにベゴニアは声をかける。
「でもお姉ちゃん…」
「ケトラ!」
厳しい口調でベゴニアは声をかけた。そして、優しい顔で言った。
「あなた、天界の防衛担当になったのよ。しゃんとしなさい」
姉からの、元々大天使になるはずだった者からの励ましの言葉だった。
ケトラの目が据わった。
みんな走り出した。中枢に向かって。
「…フフ…もう、終わりかしらね…私の望んだ…楽しい世界は…」
俺は振り返り、こう言った。
「始まるんだよ。これから、たくさん」
中枢に到着する。黒煙が立ち上っている。
「さぁ!魔力をここに込めるんだ!」
アーチュは声をかける。
魔力を、MFを、中枢に向かって流し込む。
中枢が光を徐々に取り戻す。
「足りないなんてこと…無いですよね?」
中枢が光を自ら放つ。
「うぁ…」
アンスールがペタリと尻もちをつく。
「私は限界だ…MFも全て流し込んだ…」
なるほど、完全に流し込めば、MFは金輪際使えなくなるのか。
構うものか。これから先、こんな力必要ない。
みんな、次々に力尽きる。
そして…
「…あれ?」
魔力を込めることが出来なくなった。
もう他のみんなはMFは使えなくなっていた。
そう、普通に戻ったのだ。
「良かった…」
ホッと胸を撫で下ろしたのは、ケトラだった。
「皆さん…本当に…ありがとうございました…」
ケトラは涙ながら、そう語った。
こうして、世界には平和が訪れたのだった。
それから先は呆気ないものだった。
ケトラは能力を使い、歴史を修正してくると言っていた。きっと、過去の俺に能力を受け渡しに行ったのだ。俺はケトラに能力を返還した。
こんなもの、もうこの先必要ない。
そして、俺たちは船に戻る。
「アルミスター!」
ギュッとアルミスタに抱きつく2人。その脇を通り抜け、カトレアはヴォーチェの元へ向かった。
ベゴニアはそんな2人のどちらに着こうか、おろおろしている。
カランコエはそんなベゴニアを見かねて構いに行った。
アーチュと黒猫は、いつも通りだ。何も変わることは無い。
「ご主人様?」
リタはこちらを向いている。
「どうかしましたか?なにか憂鬱そうですが…」
「そ、そうか?ハハ…そんな事は無いはずなんだけどな」
俺は、この光景を目に焼き付けた。