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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
最終章 少女達の奏でるトロイメライ
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それぞれの思い

「俺は望むよ。この世界を」

俺は淡々と、そう言った。本心だった。

俺がいなければ、上手くいっていた。そう、何もかも、俺が邪魔をしていたのだ。

「望むな!そんな世界!」

ふと、遠くから声が聞こえた。俺の考えを否定する声が。

「私はギューフがいなくて良かった事なんてひとつも無い!お前がいなけりゃ私は今も過去を悔やんでいる!お前は私に前を向かせたんだ!お前がうしろを向いてどうする!」

黒猫の声。

「そうじゃな」

また、声が聞こえた。

「お主は妾に色々な出会いを経験させてもらった。もちろん、時には辛い事も、苦しいこともあった。それも全て含めて、今の妾があるのじゃとも。妾はお主のおかげで、人の優しさを理解したのじゃ」

カトレアの声。

「さすがカトレア様!いい事言いますね!」

また、声が聞こえる。

「あなたは私を変えてくれたんです。美味しかったですよ、フレンチトースト。正直、辛くて、悲しくて、どうにかなっちゃいそうだったのに…とても幸せになったんです。あぁ、なんであんなに我慢していたんだろうって思えたんです。あなたがいないと、私はきっと、色々な事を抱え込んでいたでしょう」

ベゴニアの声。

「そうだな。もっともだ」

また、声が聞こえる。

「お前は私に大切な事を色々、気づかせてくれたんだ。自覚が無いだろう?そんなものだ。助けられた人が大勢いる。悲観的になるな。そして…私もその助けられた人の1人だということを、忘れるんじゃない」

アーチュの声。

「まったく、いつまでいじけてるのやら、お兄ちゃんはホントに…」

また、声が聞こえる。

「お兄ちゃんがいなかったら私、ずっと猫を被って生きていた。お兄ちゃんは私に、心から楽しむ事を教えてくれたの。ずっと偽ってるんじゃないって。お兄ちゃんだから、猫を被らずに、私は接することが出来たんだよ。だからさ、お兄ちゃんも自分を偽らないでよ」

カランコエの声。

俺は…偽っているのか?自分の心を…。

「私の名前の由来、覚えてる?

幸せを告げる。私は長い長い旅の末、ようやく見つけたんだよ。私を、幸せにしてくれる人を。私はさ…手放したくない」

「いい加減、目を覚ましなさい。バカご主人」

また、声が聞こえる。

「ご主人は私に過去と向き合う機会をくれた。ずっと、ずっと逃げ続けてきた事に立ち向かう勇気をくれた。きっと、ご主人がいなかったら私、この先ずっと挫けて、折れて、逃げてばかりだと思う。ご主人はさ、必要なんだよ。私にとって、私達にとって」

アルミスタの声。

俺は…必要とされているのか…?

「私は、変わるのが怖かった。でも、変わる事が出来た。もちろん、カサブランカやアイリス、リタやカランコエの力もあった。けれど、変わる勇気をくれた1番の人は、あなたなんだよ。ご主人」

いても…いいのか?

世界が徐々に色を取り戻す。

世界に、俺が降り立つ。

確かに、苦難の連続だ。俺が来たことで、余計苦労する仲間が増えた。

だけど…自惚れかもしれないが、みんな、心の底から、笑っていた。怒っていた。悲しんでいた。楽しんでいた。

俺は…

「まだ、悩んでますか?ご主人様」

スタッと、俺の前に、少女が降り立った。

それは、記憶を失って初めて親しくなった少女で、ドジで、変なことを言うし、世間知らず。主従関係そっちのけで、時々無茶を言う。大事な時しかカッコつかないし、背も相変わらず低くて、きっとトランプも今でも弱い。そんな…どうしようも無くて、可愛らしい少女。

「そうだな、悩んでる」

俺は聞きたくなった。彼女の、心の底からの声を。

「そうですか。それなら」

彼女はスっと息を吸う。

「ずっとこの世界で閉じこもっていりゃいいんですよ!ご主人様は!」

予想とは正反対のことを言い出した。

「私は知りませんでしたよ!ご主人様がこんなに意気地無しで!ちょっとの事でいじけて!それで自分の殻に閉じこもっちゃって!」

吐き出すように、言葉を投げつける。

「そのくせ、私達には言うんですよね!閉じこもるなって!向き合えって!まったく…まったくもう!人の事…言えないじゃないですか…!」

ツーッと彼女の瞳から、涙が零れる。

「いいですか!?私はご主人様がいなくっても、なんら変わらなかったでしょうね!私は優秀ですから!こんな、どうしようも無いご主人様抱えてなかったら私は昇れるところまで昇って行った事でしょうね!」

再び、言葉を吐き出す。

「分かってますか!?私は1人でも!十分歩けるんですよ!」

はぁはぁと息を荒らげ、一息ついた。

「…でも」

弱気な、弱々しい声に変わった。

「私は…ご主人様と一緒がいいんです。ご主人様は1人でもいいのかもしれませんけど、私は、ご主人様と一緒に、昇るところまで、昇りたいんです」

ポツポツと、言葉が漏れる。

「私、ドジですから。転んじゃうかもしれません。1人だと怪我して、途中で折れちゃうかもしれません。なので、支えて欲しいんです。私は。ご主人様に。他の誰でもない。他の誰かなんて考えられない。私は…ご主人様と…」

世界が広がった気がした。

色を失いかけた世界は、色を取り戻し、失う前より、光沢を放ち、光り輝く。

俺の周りには、みんながいた。

「いいですか?ご主人様。私は…いえ、違いますね」

周りを見て、少し笑って、言い直した。

全員、揃って。


「私達は、あなたのいない世界なんて望まない!」


俺は、しっかりと返事をする。

「あぁ…俺も…もうそんな世界、望んだりしない」

涙がこぼれる。あぁ、俺は…凄く弱かったんだ。

世界が割れ、前へと駆け出す。


アルテミスの放った矢は、対峙している女性目掛けて放たれる。

キィン…

俺は、カードに集った皆の力を乗せ、その矢を弾く。

「アルテミス…俺はもう、迷わない」

そう、俺にはみんながいる。

迷うような要素は何一つない。

「最終決戦といこうか」

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