ギューフのいない世界
ここは…どこだ?
ふと、ある景色が浮かぶ。
俺だ。幼い頃の。家族で、平和に暮らしている。
やがて、景色がぼやけ、再び鮮明になる。
そこには、大きくなった俺が、映し出される。
しかし、今とは大きく違う点があった。親が…まだ元気に、俺の名を呼んでいた。
俺の掴めなかった幸せ。
スーッと、黒板が消されるように消え、次の景色が映る。
リタだ。あの頃の…トレーズさんの屋敷で、せっせと働いている。
やがて彼女は俺では無い、大切な人を見つけ、結婚し、家庭を築く。
まるでそれは、俺がいなかったら、を表しているかのような情景。
そしてリタは笑顔で、その後の人生を過した。
次に映るのはアルミスタだ。
カサブランカと、アイリスに囲まれ、とても平和に暮らしていた。
俺があの時助け出したばっかりに…あの時、俺は彼女を助け出さなければ…。きっと彼女はもっと色々な幸せを見つけられたことだろう。
俺は…助けなければ良かったのだ。
次にカランコエが映った。
彼女は、奴隷から解放され、町長に引き取られた。
そこでかけがえのない、妹のような存在も出来、笑顔で暮らしている。
俺は彼女を助けなければ、もっと平和に暮らせたのだろう。
次に、カトレアが映る。
彼女は俺と出会うこと無く、魔王業をこなしていた。やがて、世界は魔王に注目し、争いは途絶え始めた。
ユルによって、魔王城が乗っ取られることも無く、何不自由なく、目的を達成へと導いている。
俺があの時、関わったから…。
次にベゴニアが映った。
彼女は無事に就任式を執り行って、大天使となった。彼女に尊敬の眼差しが向けられる。人間界が順調にユルの手に染っているため、ベゴニアに無害判定が下ったのだろう。
俺が…変なことをしなければ…。
次は、アーチュが映った。
相変わらず、王国で働いている。
しかし、争いは減り、仕事が徐々に無くなった彼女はゆとりが出来た。
慕っていた者の墓参り、今まで出来ていなかった料理など、様々な事をする時間が出来た。
俺は…彼女の時間を奪ってしまった。
次に黒猫が映る。
彼女は1人の革命に打って出た。しかし、それは未遂に終わる。
何も成し遂げられず、打ちひしがれた彼女に手が差し伸べられる。
やがて、彼女は徒党を組み、奴隷解放運動を始めた。誰しもが、彼女に敬意を評した。
俺が指揮を執らなければ、もっと円滑に事が運んだことだろう。
次に、カサブランカが映る。
彼女は自国で高らかに演説をしていた。
誰しもが彼女を信頼し、尊敬し、憧れの的となった。
イデアルを引き取り、順調に、立派に育つ彼女を誰もが羨んだ。しかし、妬まれることは無かった。
俺は、彼女の大勢の機会を逃してしまったのだろうか。
次にアイリスが映る。
彼女は考古学の研究を始めた。彼女の顔は生き生きしていた。好きなことが、やりたい事が、見つかったのだろう。
彼女の目の輝きは、今より、ずっと輝いている。
俺は、彼女から好きなことを奪い去ってしまった。
次にアントスが映る。
彼は王宮で、妹と出くわした。
黒猫と共に行動していた彼は、妹の説得に成功し、解放軍を抜けた。
そして、2人で、自分達の住んでいた家へと帰っていった。
俺は彼の幸せを、履き違えていたのだろう。
次に、ロベリアが映る。
実家に帰った彼女はアントスと共に、それぞれの幸せを求め、行動し始めた。
そして、その行動は徐々に村の人達に認められ、村の人達の信頼を勝ち得た。
俺はそんな機会すら、奪ってしまった。
「どうです?あなた、自分のやってきた事が分かりましたか?」
「…あぁ、とっても良く分かったよ」
俺はすぐさま返事をする。
「私なら、あなたをご招待出来ますよ。あなたの…いない世界に」
俺は迷わず答える。
「俺は望むよ。その世界を」