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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
最終章 少女達の奏でるトロイメライ
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彼女達の選択

私は、両親の元へと駆けていく。

距離が近づいてきた。あと、あと少しで触れられる。


…私はピタリと、その位置で足を止めた。

「ねぇ、パパ…ママ…」

私は触れない。この人たちに。いや、触れることは出来ない。

「私は…さ。考えたの」

そう、私は考え、答えを出した。

「私のパパとママは…もういない。理解なんてしたくはなかった。だから…忘れよう、忘れようって、ずっと逃げていた。ユルの屋敷では、一生懸命仕事に打ち込んで、逃げて、逃げ続けた」

私はいつからか、両親の話を口に出さなくなっていった。

「でもね…私、ある人にね、勇気を貰ったの」

そう、私の、大事な人。

弱くて、意気地無し。変なところでふざけるし、たまによく分からないことを言う。

そんな、優しい、私の大事な人。

「私…ね、やっと…前を向けたの」

今まで、進んでこれなかった道を、ようやく歩き出すことが出来た。

私は、受け入れ、足を踏み出した。

「だから…さ」

私の頬を涙が滑り落ちる。次の言葉を言えば、私は後悔するかもしれない。それがどうした。後悔すればいい。その時は、私の大事な人に慰めてもらおう。たっぷり、よしよしって。その胸に顔を埋め、たっぷり泣こう。だから…言おう




「イデアルー?」

母が呼んでいる。私が夢にまで見た光景。

優しい母がいて、優しい父がいて、友人がいて、憧れの人がいて…。

それは、とても素晴らしい事だと、今でも分かる。

でも、足りない。

私には、何か足りない。

何も無い景色に、色の無い景色に目を向ける。頭がそれを拒絶する。それでも、必死に、見ようとする。

こんな私を誰がとめられようか。誰にも、止めさせはしない。私は、私の信じた道を突き進む。

「こっち…!アルテミス…!」

その向こうで、何者かが私を呼んでいる。

その人は、気弱で、泣き虫で、弱虫で…私より、何倍も強い…「私」だった。

私は階段を駆け下りる。

急げ!急げ!頭が言う事を聞くうちに!

「イデアル…」

そこには、みんながいた。

「この世界を、諦めるの?」

みんなが私に問いかける。

「この世界は、あなたが望んだ世界でしょ?」

そう、この世界は私が望んだ世界。

否、かつての私が望んだ世界。

「そうね、私はこの世界を望んだ」

私は1度立ちどまり、声をかける。

「こんな世界も悪くないなって思うわよ」

私は臆することなく、答える。

臆すことのない、それが私の長所。

それなら、存分に活かしてやる。

「でもね、私はそれ以上に望む世界を見つけたの」

一切、臆すことのなく、語る。

「それは、この世界を出たからこそ、見えてきたの」

誰もが、夢物語だと語るような事を、恥ずかしげも何も無く、語る。

「いい?この世界を諦めるんじゃない。私は、元の世界で、私の手で、その世界を掴んでみせる」

私の、望む世界を。

「だから…!」

声を一層張り上げた。この先の言葉を言うための助走。私はこの先の言葉を言わなければならない。それは、私のため、そして…「私」達のために。




「そうね。悪くは無いかもね」

この世界がずっと続けば。

私はそれ以上、何も望む物は無い。

無い…はずだった。

シラユリ…その名前が心に引っかかる。

手持ち無沙汰になり、ポケットに手を入れてみる。

「?」

何かに触れた。

これは…

途端、記憶が鮮明に蘇る。

「…カランコエ」

そうだ。私が、これ以上に、望むもの。

「私は…」

そう、私には、あったのだ。それ以上に望んだ世界が。

「シラユリ、それがあなたの名前」

アネモネは私に言う。その声に、抑揚も何も無い。

「いいえ、違うわ。私はカランコエよ。私の、お兄ちゃんが付けてくれた、大事な大事な名前」

他の世界で勝手に名付けられてたまるものか。私には、確かに大切な名前がある。

「アネモネ?いいえ、あなたはアネモネでは無いわね」

直感だが、分かった。この子は幻想だ。実体はない。ただの虚像だ。

「私は、ハッキリ言わせてもらうわ。猫なんて被らずに」

ハキハキと語る。

「こんな、他人の大切なものを捏造する世界なんて…」

この言葉を言えば、この世界は消える。

…本望だ。言ってやる。



「こんな世界!今の私は望んでいない!」

パキッ…パリパリ…

世界が…割れた

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