カランコエの世界
ここは、どこ?私は、誰?
何もかも、思い出せない。私の名前すら。
そんな事を考えていると…いや、何も考えないでいると、徐々に景色が鮮明になっていく。
灰色。1面灰色。
ここは…思い出した。強制労働施設…。
いや、様子がおかしい。外が、騒がしい。
すると、こちらに向かって1人の男が歩いてきて
ガシャン
足枷が外された。別のところに売られたのだろうか?
「すまなかった、本当に…」
この人は…町長だ。
顔に見覚えがあった。
私は直感で理解した。私は、この人に助けられたのだ。
街に戻ると、町長の家にしばらく泊めてもらう事になった。
「キミはアネモネ、それでキミは…シラユリ」
私に名前が付けられる。シラユリ…シラユリ…
うん、とてもいい名前。
隣のアネモネちゃんはとても可愛らしい。
私と彼女は同じ部屋で過ごす。寝る時も、ご飯の時も一緒だった。
時間が経ち、2人とも大きくなった時のこと。
「海だー!」
私は叫んだ。すると
「うみだー!」
アネモネも叫んだ。
2人とも、妙にテンションが高かった。夏の日差しがそうさせるのだろうか。
あの頃に比べて、自分の気持ちの表現の仕方が分かった。私には、私の生き方がある。
その事をよくよく、理解したのだ。
猫を被って生きていかなくてはいけない、という状況を脱したのだ。
自由に生きていいのだと、私とアネモネは理解した。
その日は日が暮れるまで遊び尽くした。
そして海辺の階段に座り、夕焼けを眺める。
「ねぇ、お姉ちゃん?」
彼女は私をお姉ちゃんと呼んでいた。
「なに?アネモネ」
私は聞く姿勢を取る。
「お姉ちゃんはさ、この時間がずっと、いつまでも続けば良いって、思わない?」
あぁ、私は…
「ね?シラユリ…」
シラユリ…そう、それが私の名前…それが…
私は…なんて答えれば…良いのだろうか