リタの世界
白い壁に囲われた何も無い部屋。否、壁があるかすらも怪しい。そんな中に私はいた。
どこなのだろうか、ここは。私は今まで、何をしていたのだっけ。
…思い出せない。というより、どうでもいいと、頭が考えることを拒否している。
考えることも、思い出すことも、出来ない。
私は…今まで何をして来たのだっけ…。
「リタ…リタ…」
遠くで私を呼ぶ声が聞こえた。
何処で私を呼んでいるのだろうか。私は声に向かって歩き出した。
「リタ…リタ…」
声が徐々に近づいて来た。
「リタ…リタ…!」
声は、私を見つけた。
「パパ…ママ…!」
両親だった。何も思い出せないが、気分が、この上なく高揚している。
私がそちらに駆け寄ろうとする。
「リタ!」
一声、一際大きな声が聞こえた。
いや、聞こえた気がした。その方向を振り向いても誰もいない。
いつか、夢を見た気がする。それを思い出す。
この場にいたのは、両親と…私の、大事な人…。
誰だったか…。私は思い出そうとする。しかし、頭がそれを拒絶する。
もう一度、両親の方を見る。そこには笑顔で…パパとママが待っている。
私はきっと、この時間を今の今まで過ごせなかった。その事を思い出す。
何故だったか、それは思い出せない。
ポツリ、ポツリと徐々に記憶が蘇る感覚。正直、気持ちが悪い。
最重要が、思い出せない。
なのに、重要なことは思い出す。大きな出来事を思い出す。
私は…どうするべきなのだろうか。
きっと、私が両親を受け入れると、幸せな時間がいつまでも続くのだろう。
それは普通で、当たり前で、当然のこと。そんな時間が、続いていくのだ、と私は思う。
もし、私が両親を拒否したら…?
いや、そんな事は考えられない。私はこの状況を拒否するはずがない。
私は…私は…
そう、夢の中と同じ行動を取ればいいんだ。
夢の中、幸せな瞬間を、味わうため。
私は…
両親の方へと駆けだした。