コスモス畑
さて、到着したのですが…
「ほぉ、なかなか綺麗じゃのう…」
「そうですねぇ」
何故だか私と、カトレアさんの2人旅。
「見ろリタ!あそこに蝶々が飛んでおるぞ!」
キャッキャッとはしゃぐカトレアさん。子を見守る親になった気分です。
うーん…それにしてもなんでカトレアさんは私と…。理由が思い当たりません。
ま、とりあえず今は楽しむのが吉、ですよね。理由なんてなくても、女の子同士で出かけたかっただけですよ、多分。
「ちょっと、そこのベンチで休むとするかの」
カトレアさんはベンチを指さします。木陰の、丁度よさそうな位置。
「あ、では飲み物を…」
自販機に足を伸ばすと…
「ほれ」
マイボトルを渡されました。用意周到ですね。
仕方なく、ベンチに腰を下ろします。
「綺麗な眺めよの…」
サーッと風が吹くと、コスモスが波打ちます。
ちなみにカトレアさんは身バレしない為にサングラスとかかけて、思いっきり変装しています。
「そうですねぇ…」
徐々に、眠くなってきました。
というか…急に…かなり…眠…く…
「リタ…リタ…」
誰かが私を呼んでいます。
パパでした。その隣にはママがいます。
「あぁ、リタ…良かった…!」
心底ホッとしたようにママが声を上げます。
「リタ…リタ…」
また別のところから声が聞こえます。
ご主人様でした。
「リタ…!良かった…無事だったんだな…!」
こちらも心底ホッとした声で呼びかけます。
私は直感で分かりました。どちらかに向かえば、どちらかを失う、と。
私の中から、声が響きました。
私は足を伸ばします。
その先は…
「リタ?起きたか?」
カトレアさんが膝枕をしてくれていました。
「まったく、急に眠るから何事かと思ったのじゃ」
やれやれ、と言いたそうにカトレアさんは首を横に振ります。
「リタ、ほれ、コーヒーじゃ。目が冴える」
渡された飲み物を口に含みます。
「にぎゃい…」
ブラックでした。子供舌なのが恨めしい。
「むぅ…それはすまんかったの…」
申し訳なさそうに項垂れるカトレアさん。
「いえ、お陰様で目が冴えました。ありがとうございます、カトレアさん」
「あぁ、カトレアでいい…いやなに、次からは気をつけるとする…」
サラッと呼び捨てを要求されちゃいました。まぁ、カトレアが構わないのでしたら、そうしましょうか。
「さて、真面目な話でもするかの…」
やはり、本題がありましたか。まぁ、そうでも無いと、この人から2人旅なんて提案、出てきませんよね。
「お主、妾に初めて会った時…あぁ、いや、違うか。2度目じゃの。その時の事、覚えておるか?」
1度目というのは魔王城で…2度目は…
「あぁ…その節は…」
恥ずかしい…まさか私があそこまで後ろ向きになるなんて考えたこともありませんでした。
「いや、もう良い。お主は今でも、ご主人様を信じておるか?」
きっと、二人称を統一して分かりやすく言ってくれてるのでしょう。
「えぇ、今でもずっと」
「カカッ、そうじゃろうな。まぁ、それは見ていれば分かる」
カトレアはそれだけ言うと、少し悲しそうな顔になります。
「それじゃあ、今のお主にとって…ご主人様と、両親…どちらが大切かの?」
聞いた本人が、酷い顔をしていました。自分の感情を押し殺そうと必死な顔。
「そんな事…」
私は答えます。
「分かりませんよ」
「…そうか」
それから、長く、永遠のように沈黙が続きました。
「さて!帰るとするかの」
「そですね」
そして私とカトレアは向かっていったのです。
もう、長い長い旅の終わりは、近いのですから。
「久々に使うと中々疲れるのぅ…」
妾はあの時、2つの魔法を使った。
1つは睡眠魔法、こちらはよく使うから問題は無いのじゃが…。
もう1つ、夢を見る魔法。使う機会が限られておる。滅多に使わん。
妾はリタの夢を覗き見た。
「お主は…どちらを選んだ…?」
妾にも、そこだけ、見えなかった。