カランコエの決意
「私じゃ…力不足…かな…」
私がボソリと呟いた。
「そんな事ない!」
隣から、大声で否定される。
「お姉ちゃんは無力なんかじゃない!私、すっごく楽しかったの!お姉ちゃんは全然力不足なんかじゃないよ!」
言葉が溢れ出てくる。私はそれでも、首を横に振る。
「違うのよ、アネモネ。私がこれから向かおうとしていた場所はそんな簡単な場所なんかじゃ…」
「違うよ!」
アネモネは大声で否定する。
「お姉ちゃんが向かおうとしている所、私、なんとなくだけど分かるよ。きっと、誰かのために、戦いに行くんだよね」
こんな小さい子に見透かされている。
「私ね、思うの。今までの旅も、お姉ちゃんがこれから向かおうとしている場所も、誰かのためという事では同じなんだと思う」
諭すように、語る。
私は…首を横に振る。
「そんな一言で話せるものでは無いの。これは…」
私は黙る。言葉が出てこない。
「あの、カランコエさん?そろそろ時間が…」
町長が申し訳なさそうに口を挟む。私はそれを手で制した。そう、もうそろそろ向かわないと間に合わない。
「…」
私はまだ、黙っている。心のどこかで、タイムアップを狙っているのかもしれない。
「きっと…ね」
アネモネは再び話し始める。
「これは私の予想だから…お姉ちゃん、きっと今回の戦いは、とても、とーっても大事な人のため、なんだよね…私よりも、ずーっと」
そう、お兄ちゃんのため…。実兄では無いけど、大切な唯一の人。
「旅の間、ずっと遠くを見ていたの、私知ってるよ。お姉ちゃん、無意識だったのかは分からないけど…」
アネモネは言葉を紡ぐ。
「だから、さ。行ってあげて。行かなかったらきっと…後悔しちゃう」
その言葉を聞いて、私はついに
「そんな事は分かってるわよ!」
声を荒らげた。
「始めから分かってた!きっと行かなかったら後悔するんだって!でもね、行っても後悔するかもしれないの!もしかしたら、行かなかった方が良かったって思うくらいに!」
声を荒らげる相手を間違えている。そんな事、分かっている。でも、歯止めが効かない。
「私は!弱いから!力も!心も!意思も!」
アネモネは黙って、いや、口を開く。
「…お姉ちゃん、その言葉は本気なの?」
「…え」
思わず、一瞬迷う。
「私はね、もっと弱かった。もしかしたら、今でもまだ、弱いかもしれない」
謙遜だ。そんな事。弱い人はそんな事、言えない。
「私はね、自分が無いの。上に従っておけば、とりあえず生きていける。うん、ずっとそうやって生きていた。でも、お姉ちゃんと目が合った時、この人と対等に接してみたいって思ったの」
思いもよらない言葉が返ってくる。
「お姉ちゃんは無力なんかじゃない。お姉ちゃんはきっと、気づいていないだけ。お姉ちゃんはね」
アネモネは、深く息を吸った。
「みんなに、力を分け与えているんだよ」
…あぁ、私って、ホントにチョロいな…つくづく思う。
「私はね、分けて貰ったよ。だからこうして自分の言葉で話せてる。きっと、お姉ちゃんと出会わなかったら…私は弱いままだった」
アネモネは語る。過去を。感謝を。
「お姉ちゃん、お姉ちゃんは無力なんかじゃないから。私が保証する」
あぁ、そっか。私はどうやら、旅の目的は達成していたらしい。
「…ありがとう」
私は、涙を流し、声を震わしていた。
「アネモネ、一つだけ、お願いしてもいいかな?」
アネモネはコクンと頷いた。
「私が帰ってくるまで、この家で待っていて。必ず、迎えに行くから。そしたら…さ、私達のお城へ案内してあげる。だから…さ」
私は目を見て、話す。
「待ってるからって…私に言ってくれないかな…」
アネモネは大きく頷いた。
「待ってるから!絶対に!だから…」
アネモネは言葉に詰まる。
「戻ってきたその日には…一緒に暮らそうね!」
私は大きな決意を抱いた。馬車は既に用意してあった。
「さぁ!飛ばしてください!」
私は騎手さんに頼んだ。
「頑張ってー!お姉ちゃーん!!」
アネモネは、私が見えなくなるまで、いつまでも、いつまでも手を振っていた。