過去のトラウマ
夜が開ける。私は呑気に旅をしているが、明明後日、王宮に集まるかもしれない、という事を考慮に入れなければいけない。王宮まで、約半日か。…今日は旅を続けて…明日1度故郷の村へと戻って結論を出そう。
「どこか行きたい場所とかある?」
一応、アネモネに聞いてみる。
「んっとね…やっぱりお姉ちゃんと一緒なら何処でも!」
やっぱりそうなるか…
「近くに遊園地とかあります?なるべく子供向けの…」
はいよ、と言って馬車を出す。
ゆらゆら揺れて、風が心地いい。
「ほわぁー」
アネモネは外の風景が流れていくのを楽しんでいる。
着いた遊園地は子供向けジェットコースターとかのある、いかにも子供向け遊園地だった。
「乗りたいのはある?どれでもいいよ」
私はアネモネに言ってみる。
「お姉ちゃんが乗るやつ!」
やっぱりそう来たか…ここは攻めてみよう。
「私もアネモネと乗れるならどれでもいいかな」
アネモネは急にアタフタし始めた。おそらく、決める、という選択自体初めてなのだろう。
「えっと…えぇっと…」
アワアワとして、パッと目についた物を指さした。
「あ、あれ!」
それは一際目立つ、船の形をしたアトラクション。ポセイドンとか、バイキングとか言うやつだ。
「ひいぃぃぃやあぁぁぁ!」
中々強烈。
「う、う、う、…うあぁぁぁ!!」
子供向けのアトラクションじゃないってこれ!いや、まぁ、なんというか…
「ひいぃぃぃ!!」
この遊園地の中でたぶん1番怖いと思う。
アネモネも降りてくる。
「ふらぁ…」
千鳥足でこちらに寄ってくる。
そして、抱きついてくる。少し、目が湿っているように感じる。よっぽど怖かったのかな?
「とりあえずベンチにでも行こっか、ね?」
コクリと頷いた。
ベンチに座る。
「ひっく…うっく…」
まだ泣いている。私、私よ、どうすればいいの、この状況。
「え、えっと、ほら、たまにこういうのもあるから、ね?」
フォローになっているのか…?これ。
「…ごめんなさい…ごめんなさい…」
すると、予想に反し、唐突に謝りだした。
「えっと…アネモネは悪いこと、してないよね」
私は急に焦りだした。どうしよう。
「だって…私…間違った選択しちゃったから…」
あぁ、なるほど。それで罪悪感でも感じているのかな?
すると再びギュッと私に抱きかかる。
「ごめんなさい…!もう…もう間違えないから…!何処にも行かないで…!見捨てたり…しないで!」
周りの視線を一点に集めた。
「そんな事しないから、ね?ほら、落ち着こ?」
優しく頭を撫でる。私は勘違いをしていた。この子はこの子なりに売られたことを気にしていたんだ。ケロッとしていたんじゃない。遮断していたのだ。
なんとかアネモネは落ち着きを取り戻し、2人でコーヒーカップとか、メリーゴーランドとかゆったりしたものを中心に色々と回った。最初はあまり元気は無かったが、徐々に不安も薄れ、元気を取り戻した。
帰宅日前夜。この日は少し奮発してホテルに泊まる。柔らかいベッドとかにアネモネは、大はしゃぎだった。
そうして、私は聞いてみた。
「ねぇ、明日なんだけど、お家に帰る予定だったんだけど」
最後に、私は聞いてみた。
「最後にもう一度ここ行きたい!っていう場所はある?」
私の旅の目標の1つ、アネモネの自我の確立。ここで何処かを答えてくれる事を私は期待していた。
「んっとねぇ…」
心臓が凄い速度で脈打っている。
「お姉ちゃんとなら、何処でも!」
あぁ、そうか、私はようやく理解した。
この子は猫を被っていない。猫を被った自分しかいないのだ。猫の仮面の下に、顔なんてものは無い。
「そっ…か」
いや、違う。たぶんこれから顔は形作られていくのだろう。そう願わずには、やってられなかった。