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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
21章 彼女の選択 カランコエ編第3部
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町長の様子

町長はしばらく、宿無しの私を泊めてくれるそうだ。素直に助かる提案だった。

なお、町役場はそこまで広くもないため、女の子と同室。

今夜はとりあえず少しお話をする事にしようか。

座布団を、2枚敷く。

「ほら、座って」

ポンポンと座布団を叩くとトテトテ走りよってきて座った。

私の膝の上に。

…なぜ?

「ま、いいか」

自分に言い聞かせる。男と女ならともかく、女同士なら問題は無いはずだ。…無いはずだ。

「なぁに?お姉さん」

なるほど、上目遣いってこんな感じだったのか、と考えながら言葉を探した。

「キミの名前は?」

女の子は思案顔になる。

「んっと…36番」

あー…うん。真っ黒だった。いやたぶん、町長の名前が染み付いていないだけだと思うのだけど…。

私が引き取った、と言っていた。おそらくだが、引き取り手が完全にいなくなって、自分が引き取るしか無くなった、という訳だろうか。

さて、困った…。名前…名前か…。

考えると難しいな…。お兄ちゃんは花の名前で決めてたし、その線で考えてみよう…。

「アネモネ…なんてどうかな?」

パッと思いついた花の名前を言ってしまった。あぁ、もっとちゃんと考えてあげるべきだ私は…!

「アネモネ…」

しかし、予想に反し、その子の顔は輝いた。

「アネモネ!アネモネ!」

大喜びだった。

ガッガッガッ

頭が顎に当たる。とりあえず膝から降りて欲しいと思ってしまった。

女の子は興奮したままなかなか寝付けなかったようだが、布団に入ってしばらくすると、規則正しい寝息が聞こえてきた。

スっと布団を抜け出し、部屋を出る。少し町長の警戒だ。完全に信用なんてしていない。怪しい行動を取れば即射抜くくらいの心構えだった。

部屋をこっそり覗く。机に突っ伏して寝ていた。

机には大量の書類の山。意見箱の書類のようだ。それを1枚1枚チェックしているらしい。

こっそり数枚を取ってみる。主に、保育施設の拡充の依頼だった。町長は目の前にいくつもの保育施設の書類を置いていた。

なるほど、この人はホントに優しい…のかな。

いやいや、そういう演技だという線は残しておくべきだ。…あぁ、私って、ホント疑ってばかり…。

とりあえず書類は依頼内容によって種類分けくらいはやっておく。すると、底から1枚、紙が出てくる。

今日の私について書かれたメモだ。

「…ふふっ」

中身を見ると、重要なことをメインに、様々な事が書かれていた。今日の話の内容だけの事しか書いていない。それも、これは喜ぶ、これは嫌がるなど、事細かにメモが残されていた。

「町長、起きてください」

近くにあったペンで突く。

「はっ!」

覚醒は早かった。

「あ、すまないね…」

申し訳なさそうに部屋を見回す。

「書類の整理…キミがやってくれたのかい?」

驚いた声で聞いてくる。

「えぇ、泊めてもらったせめてものお礼です」

町長は笑顔になって、

「そうか、ありがとう。助かったよ」

素直にお礼を言ってきた。

私は、この事を聞くかどうか迷う。聞いて後悔しないだろうか…。いや、さっきの様子を見て、ある程度は確信している。きっと、後悔はない。

「町長は、あの子になんて名前を付けたんですか?」

ふっふっふっ、と初めて見るに堪えない笑い方をした。

「アキレス・アレクサンダー36世だ」

私は後悔した。

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