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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
21章 彼女の選択 カランコエ編第3部
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町役場での出来事

町役場まで着くと、ひとつの部屋に案内される。

「さ、座って」

町長は優しそうな笑みを絶やさない。警戒しながら椅子に座る。

「とりあえず、名前はあるかい?」

「…」

果たして言ってもいいものだろうか。この人は信用に値する人物なのだろうか。

「無いならないで、何かしら名前は必要だからね。番号呼びなんてしたくないんだ」

まぁ、お兄ちゃんに付けてもらった名前を変えられたくもない。

「…カランコエ」

恐る恐るではあったが答えた。

「うん、カランコエちゃんね」

メモメモっと…と手元の書類にメモを取っている。

「いやなに、私は記憶力が良いわけではないんだ。気を悪くしたらすまないね」

相変わらず笑みを絶やさない。

「さて、キミにはもう帰る家とかはあるのかい?」

次の質問を投げつけてくる。とりあえず答えておく方が話をスムーズに進めるためには良さそうだ。

「えぇ、ただ、その場所に帰るかどうか少し悩んでいて…」

町長は初めて険しい顔をして、すぐ優しい笑みに戻る。

「訳アリのようだね。あまり深くは聞かないから安心していいよ」

まぁ、言う気もないが。

「とりあえず今後の予定とかはあったのかい?」

「いえ、特に何も…ただ、5日後には帰るかどうか決める予定です」

そう、5日後に王宮に集まるかどうか決めなければいけない。私は、どうするべきなのだろうか。

確かにお兄ちゃんは好きだ。でも、それだけの理由でついて行っても良いものなのだろうか。いや、良くないだろう。私なりの明確な目的が定まっていない。

コンコン

不意に扉をノックする音が聞こえる。

「どうぞ、開いてるよ」

優しげな声で町長は答える。

「…こんばんは」

チラッと顔を覗かせたのは小さな女の子。

トテトテとこちらに向かって走りよってくる。

「んしょ」

私の膝の上に来た。

「…?」

意味が分からない。

「んー…?」

女の子は私の膝を押し、思案顔をする。

「…人だ!」

ギョッとして、飛び降りる。いや、気づくでしょ普通。

「あっ…」

着地を失敗してバランスを崩す。

「危なっ…」

私は咄嗟に女の子を支えた。

「ありがとう…お姉さん」

あぁ、お姉さんか。お姉ちゃん達はこんな気持ちだったのかな。

「あぁ、すまないねカランコエさん。そこはいつもその子の特等席なものだったから。いつもの癖でそこに来たらしい」

女の子は興味ありげにこちらをジーッと見ている。

まぁ、とりあえず話の続きを聞こうか。椅子に座る。

「んしょ」

膝の上に再び女の子が座る。今度は居場所を見つけたかのように、私の上にすっぽりと収まった。

「むふー」

満足そうだ。

「あはは、どうやらカランコエさんが気に入ったようだ」

町長はそう言って笑った。

「まぁ、話を続けるよ」

あぁ、この体勢で聞くことになるんですかそうですか。

「キミが連れ去られた翌日、奴隷不買運動がこの街の至る所で起きたんだ。当日、声を上げようにも上げられなかった者達が中心となって、ね」

急に話が重たくなる。女の子はケロッとしているが…。

「そして、奴隷として人を売った者達には罰則がかけられた。主な罪状は追放だ。腰巻1つで街を追い出されるんだよ。同じ気持ちを味わってこい、という事なのだと思う」

なるほど、だから家には家具だけ残っているわけだ。

「売られていった子達は私達でなんとか取り戻し、引き取り手も探した。ようやくほとんどが落ち着いてきた、という状況だ」

なるほど、あの街のお祭り騒ぎ、あれは本心だった、という訳らしい。

少し安心する。

「それじゃあ、この子は?」

私は下を向き、示した。

「その子は私が引き取った子なのだが…」

うーむ、と唸る町長。

「いや、すまない。その子は私が引き取った子だよ。それだけだ」

ははは、と誤魔化し笑う。

「そうですか…」

首を突っ込まない方が良い事など分かってる。お節介を焼く係はお兄ちゃん担当のはずだ。

「少しの間、この子の面倒、見てあげても良いですか?」

あぁ、お兄ちゃんのお節介が移ったのかな。これ。

「別に、構わないが…」

町長は驚いた声で言ってくる。

私には見えてしまったのだ。この子はきっと、私と同じだ。人を恐れて、猫を被っている。

昔の私を見ているようで、放っておけなかったのかもしれない。

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