姉という生き物
目が覚める。朝7時。2日目が始まる…。
いやいや、何を憂鬱になっているんだ、俺は。アセロラさんは良い人だし、助けになるっていうのは素晴らしいことじゃないか。
体を起こすと、アセロラさんは憑依してくる。これで俺の指示で体を動かすことは出来なくなった。
ふと気づく。両隣の布団ではまだ2人が寝ていた。いや、違う。狸寝入りだ。なぜそんな事を?
「ほら、アンスール、アーチュ、起きなさい」
アセロラさんは2人を起こしにかかる。狸寝入りだと気づいていないらしい。
「ん…んぅ?あぁ、おはよ」
黒猫が軽そうな瞼を開く。
「すー…すー…」
アーチュは若干大きく息をする。
「ほら、アーチュ。起きろ」
黒猫がここぞとばかりに、げしげしとアーチュを蹴る。酷い起こし方だ。
「こら、アンスール。そんな起こし方ではいけません」
アセロラさんはすぐに注意をする。
黒猫はえへへ、と笑って、その後すぐアーチュは起きる。
…なるほど。ようやく2人の昨日の含み笑いの意味が分かった。
朝食は再び、アセロラさん担当。
「ちょっと!だから!それは入れたら…あー!」
届かない声が響く。あぁ、俺はなんと無力なのか…。
黒いモヤがかかった料理が出てくる。
心なしか、2人の顔色は昨日より良く感じられる。
「さ、食べようか」
アーチュは食器を手に取る。
「そうだね。美味しい食事の時間だ」
黒猫もそれに倣う。
そして2人とも、料理とは言い難い何かを口に含む。そして
「美味しいな」
「あぁ、とっても」
2人の顔はとても引きつっていた。それでも2人は笑顔だった。
「さ、さぁ!アセロラさん!どうか…一思いに!」
俺も意を決した。あの二人が頑張ったんだ。俺が挫けてどうする。
「なんですか?人の料理を毒みたいに…」
俺の体はその物体を口に含む。
「美味しい、きっとこれは美味しい…!」
自分にそうやって言い聞かせていたら、胃は辛うじて受け付けた。
食べ終えたら2人が言う。
「さて、今日は何をしようか」
ノープランだった。
「そうですね…」
思案顔のアセロラさん。
「では」
そう言って席を立つ。
やって来ました遊園地。凄いね王国って。だってさ
「きゃああああーーー」
絶叫系が9割を占めているんですもの。
「さ、行きましょ行きましょ!」
意気揚々とアセロラさんは駆け出した。2人はその後ろをついて行く。
2人とも、浮かない顔はしていない。だからといって、ウキウキしている顔でも無かった。懐かしむような、それでいて長年出来なかった事が出来たような…そんな顔をしている。
「ふぅー!楽しかったですね!」
アセロラさんは元気いっぱい遊園地の出口から出た。
後ろの2人は既に疲労困憊といった顔だ。ここの絶叫マシンは凄かった。たぶん1部はホントに拷問器具として再利用出来そうなくらい怖かった。
時刻は既に夕方を回っていた。昼食は遊園地内で食べたため、健康な食生活を送ることが出来た。それは唯一の救いだ。
帰路では魚の焼ける匂いなど、辺り一面を漂っていた。
「お姉ちゃん…どこ…?」
ふと道の端に目をやると1人の女の子が泣いていた。迷子のようだ。
迷わずアセロラさんはそちらへと向かう。たぶん俺だったらそうとう迷うだろう。この人はホント、すごいと思う。
「どうしたのかな?迷子?」
「ひっ…」
そりゃ、男の人がこんな事言ったら恐れられるよな…悲しい。
「お姉ちゃんを探しているのか?」
「…うん」
アーチュが間に入ってくれる。
黒猫も入って、どうにか少女の名前を聞き出し、捜索を開始する。
黒猫とアーチュの手を取り、女の子は少し元気になったように見える。
「お姉ちゃん…もしかしたら私を嫌いに…」
「そんな事ない!」
誰よりも早く、強く、アセロラさんは否定した。
「姉という存在は、妹のことを大事に思うものなんです。確かに長く一緒にいると喧嘩もするし、意地も張ります。でもね、ほとんどの姉は妹が大好きなんです。姉ってね、そういう生き物なんだから」
女の子はコクリと頷いた。アセロラさんはご満悦のご様子。たぶん見た目がアセロラさんのままだったらきっと元気よく返事してくれただろうに。
その後、無事女の子は再会を果たし、家に帰っていく。
「さ、私達も帰りましょうか」
クルリとアセロラさんは回り、声をかける。2人とも笑顔でそれに答える。
夕飯は言うまでもない。いつもの光景だった。
その後、3人で少し夜更かしをした。ゲームしたり、お話したり、少し甘いもの食べたり…。
「ギューフ、キミに憑いてる幽霊はいつまでいるんだい?」
黒猫は聞いてくる。
「…明日まで、だな」
2人ともが悲しい顔をした。
「…そっか」
その一言には決意が篭っていた。
「幽霊さんに伝えてくれ。明日は私達がもてなしたい。だから明日は何もしなくていいって」
「…あぁ、分かったよ」