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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
20章 最後の願い アーチュ&アンスール編第3部
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最後の願い

キィン…

マイクがハウリングする。

「みんな、聞いて欲しい」

パーティ会場全体に響く声で黒猫は告げる。

「ユルとの戦い、本当にお疲れ様。とても素晴らしい戦果を残すことが出来た」

ドッと歓声が上がる。黒猫はそれを制する。

「よく聞いて欲しい。ユルを裏で操っているやつが分かった。私達はその戦いに向かう予定だ」

会場全体がざわめく。

「おそらく、相手は今回以上の強敵となる。今回は生きていても、次回生き残れるかは分からないし、保証も出来ない」

誰もがキョロキョロと相手の様子を伺っている。

「もし、それでも付いてきてくれると言うのであれば、2週間後、ここに再び集まって欲しい。十分、よく考えてから、自分の1番良いと思った道を選んでくれ」

黒猫は壇上を降りる。相当辛かったのだろう。足取りはふらついていた。降りた途端、アーチュが黒猫の体を支えた。

「ずいぶん仲良くなって、少し妬けちゃいます」

頭の中に声が響く。

「まだ居たんですか」

「えぇ、まぁ。とは言っても、ユルを倒すところは見届けましたし、そろそろ潮時ですね」

悲しそうな声が響いた。

「最後に1つ、お願いしても良いですか?」

「…どうぞ」

相も変わらず、俺は質問の内容を聞かずに返事をしていた。


次の日。アーチュと黒猫をとある部屋へ呼ぶ。

「えっと…なんだい?これは」

黒猫は若干引いていた。いや、たぶんそれは俺も引くだろう。

俺はドレスを着て、模造刀を手に、仁王立ちしていた。

「どうせ暇なのでしょう?でしたら私…じゃなかった、俺と手合わせしてくれ」

最後の方は俺の声帯をフル活用したイケボだった。

「まぁ、そういう事なら…」

アーチュが1歩踏み込み、こちらへ向かって剣を振る。

カッ…パチッ

俺の動きでは無かった。人間の関節ってあそこまで曲がるのか。

「アイタタタ…」

しかし、この声は俺の声だった。関節グネったのだ。素直に痛い。

でも

「…え?」

アーチュの背中に1太刀浴びせていた。

「油断したのか…?私が?…次は本気でいく」

再び、関節を痛めている俺へと向かってくる。

カッカッバチィン

「いってぇぇ!!」

関節が!関節が死にますよ!このままだと!

「…どういう事だ…?」

またまた1太刀入れられたアーチュが自分の手を握ったり開いたりしている。

それもそのはず。今の俺に乗り移っているのは…

「痛いって!死んじゃう!死んじゃうから!」

元解放軍最強の騎士なのだから。

「いったあぁぁぁあい!!」


最後のお願いというのはささやかな物だった。

「どうか3日間、あなたに憑依して、形だけでも3人での暮らしを再現させてください」

そう、それだけ。彼女の人生はその為の物だったと、そう物語っている気さえする。

「返事は変わりませんよ」

俺は余裕の笑みで、そう応えた。


剣術稽古が終わると、時刻は既に夕方だった。何故なら途中で俺が気絶したから。凄いな、関節が柔らかすぎる。

「さ、料理を作りますか」

「だったら私は食堂に…」

黒猫がそそくさと退散しようとする。

「アンスール?」

アセロラさんは黒猫をキッと見つめる。

アーチュに至っては既に逃げる気力すら残っていないようだ。

俺はキッチンへと向かい、料理を始める。

「あっ!ちょっ!アセロラさん!なんてものを!?」

そこに入れられていく有象無象。出来た料理はなんと言うか…凄いものだった。

「いっただっきまーす!」

「「…いただきます」」

大声で喜んで言ったのは俺だけだった。と言ってもアセロラさんだが。

2人とも浮かない顔をしていた。いや、それもそうだろう。どんな拷問かと疑いたくなる料理である。

「うぇ…ううぇ…」

胃が受け付けないのに…!受け付けていないのに…!スプーンが止まらないの…!アセロラさん!止まって…!

全員、辛うじて完食する事が出来た。


「さ、寝ましょうか!」

「いやいや、ギューフ、ついに頭狂ったか!?」

正直、既に狂いかけてる。なんか視界がグラグラしてフィーバーしている。

「私は別の部屋で寝てくる」

そそくさと退散を決め込もうとしたアーチュにキッと厳しい視線が飛ぶ。

全員ため息をついて、今日は布団を3枚並べて寝る事で許された。

「すぅー…すぅー…」

規則正しい寝息。それは布団に入り40秒後から聞こえ始めた。

「なぁ、ギューフ」

黒猫が聞いてくる。

「私からも聞きたい」

アーチュも同じように聞いてくる。

両手に花…という状況では無い事くらい察している。

「なんだ?」

2人がホッと胸を撫で下ろす。きっと、アセロラさんだった場合を危惧していたのだろう。

「ギューフ、今、体を貸しているのかい?」

「あぁ、そうだな」

やっぱりという表情でこちらを見る。

「何故?よほど恩義のある者なのか?」

「そうだな、この人がいなかったら、アルムにも、ユルにも絶対勝てなかった」

2人とも既に誰なのか察しているのだろう。

「そっか…それなら」

「あぁ、そうだな」

2人して笑い合う。仲良くなったのは良いが、意思疎通がしっかりし過ぎていて、よく分からない2人だった

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