盛大なパーティ
今日は王国主催の盛大なパーティの日。ユルが敗れ、奴隷となった人達が戻ってくる日。
泣いて再会を喜ぶ者。今までの時間を失ったことを悔やむ者。色んな人がいた。
そんな中、解放軍として活躍した俺たちには、王宮で誰よりも豪華なパーティを楽しんでいる。
「よぉ!ギューフ!お前も飲め飲め!」
アントスが凄い勢いで肩を組み、酒を勧めてくる。
「おまっ…飲まないんじゃ無いのかよ…」
呆れ顔で聞いてみるが…
「良いじゃねぇか!俺は今日くらい飲む!」
そう言って肩を揺する。
「もぉー…お兄ちゃん…?」
フラフラとこちらに誰かが寄ってくる。
「お酒はほどほどに…ね?」
真っ赤に酔った顔…あぁ、兄弟なんだな、と思い知らされる。
「失礼致しますわぁ…ほぉら…お兄ちゃんってばぁ…」
ロベリアに片手で押しのけられ、アントスは退場。
幸い、リタ達の傷は浅かったため、すぐに退院する事が出来た。唯一、俺の左腕が重症だったのは秘密だ。
そんな中、1人だけ今回のパーティを欠席していた。
黒猫だ。彼女がこんな楽しいことを休むという事は、何かしら嫌な予感がする。
外から不意に視線を感じる。中庭のベンチで手招きをしている。
…その顔はどこか、寂しそうだった。
俺は迷わず、黒猫の方へと向かった。
「なぁ、ギューフ」
深刻な顔をして、ボソリと喋り始める。
「実は…終わっていないんだ」
「…何がだ?」
終わっていない?あぁ、そうか、いつもの深刻な顔をして実はしょうもないパターンか。常套手段じゃないか。まんまと乗せられた。
「…」
そんな様子では無いことくらい、その後の沈黙で容易に察する事が出来た。
「…いたんだ」
絞り出す声。
「黒幕が他に…いたんだよ」
涙が零れる。あぁ、そうか。黒猫に渦巻いている葛藤が手に取るように分かった。
今の王宮内では戦闘がようやく終わったのだと安心してる者が大勢いる。彼ら彼女らに、戦闘は終わっていなかったと告げるのは酷な話だ。
「どうすればいいんだろうね…私は…」
俺はなんて言えば良いのだろうか。正解の言葉なんてものは見つかるはずもない。
きっと、みんなに協力を要請するべきと言えば、黒猫は酷く辛いことを言わなければならなくなる。
もし、もう終わりにしようと言えば、志半ばで終わり、黒猫は自責の念に駆られる。自分を責めることは無いなんて言っても、聞く耳を持つやつでは無い。
「なぁ…答えてくれよ…ギューフ…!」
ここまで黒猫が荒れることは滅多にない。
「…」
俺は何も喋れずにいる。言葉が浮かんでこない。
「俺は…」
「私はどこまでもついて行く」
建物の影からそっと人が現れる。
「…アーチュ…どうしてここに?」
「いつもの迷子だ。そしたら会話が聞こえてきてしまってな…」
盗み聞きした事を申し訳なく思っているのか頭を搔く。
「例えアンスールが拒否しても、私はついて行く。今、心から信頼してるのはお前だからだ」
恥ずかしげもなく言い切った。
「みんなにも聞いてみるといい。いや、私はお前に対する信頼が厚いだけかもしれないからな…1度全員に考えさせてみてはどうだ?」
アーチュは折衷案を提案する。
「そう…だね…」
自信なさげに、黒猫はそう応えた。
「さ、話は終わりだ」
アーチュは踵を返す。
「黒猫、案内してくれ」
アーチュは振り向き言い放つ。
「…まったく、どこにだい?」
黒猫もようやく、調子が戻ってきたようだ。
「パーティに行く途中だったんだ。私は迷ってしまうからな。さ、皆でパーティに行こう」
そうして、3人揃ってパーティ会場へと赴いたのだった。