絶望
周りの空気は一変した。さっきまで見えていた星は見えなくなった。闇はユルの姿を隠していく。
呆然と、全員立ち尽くす。みんなの表情からは絶望が隠しきれていない。
外郭には傷一つなく、とても強固に見える。
「ま、紛い物よ!こんなの!」
カランコエが弓を構え、放つ。
「サンダーアロー!」
雷を纏った矢はユル目掛けて一直線で飛ぶ。
しかし、その矢はユルにすら届かない。
「ボーダー」
アルミスタが結界を貼る。
「ご主人、ユルの周り、凄い魔力が流れてる…!ただの風じゃない…!」
魔力で起こる突風はカランコエの風とは比べ物にならない。
「ならば!押し通るまで!デザイン!」
アーチュは龍を創り、ユル目掛けて突進させる。
ゆっくりと振り返り、腕を振る。
ガシャアァン!!
龍は粉々に砕かれる。
「くっ…」
ユルがのそのそと動く。
「どうシタ?もうオワり?」
とても流暢とは言えない言葉が聞こえる。
ここにいる全員の魔力を合わせれば勝てるのか…?いや、見れば分かる。不可能だろう。宝珠は残り3つ。俺が異形になれば…!
「ダメです!ご主人様!変なことは考えないで!」
リタの声が響く。考えていることはお見通しだった。
「そうは言っても…!」
分かってる。こんな言葉はリタは望んでいない。これ以上喋るとみんなをさらに絶望させる事になる。
「満足…シたか?」
ユルがこちらに向かって話す。腕を胸の前に持っていき、魔力を込める。
周りの魔力を全て凝縮したその魔力球はとてつもないエネルギーを持っていた。
「絶望に…シズめ」
魔力が全体に放たれる。
「なっ!」
アーチュに触れた魔力は大きく開き、檻のようになる。魔力は宙に浮き、ユルの近くへ飛んでいく。
幸い、外傷は見られないが…。
「ギューフ!気をつけろ!あれは精神を蝕む!当たったらMFは使えない!」
黒猫はそう言い、回避に専念している。
「次は…オマえ」
黒猫の周りを魔力の球が囲う。ネズミ1匹すら通らない。
「黒猫!」
「良い判断だ!」
呼応を使ってここまで飛ぶ。しかし
「…!!」
俺の左側から魔力球が迫っていた。避けれない…!
「ギューフ!」
黒猫は俺を庇い、魔力球に触れる。
次々と、みんなが捕まっていく。
「…魔力ギれ…」
ユルがそう呟いた時、その場にいたのは俺1人だけだった。リタも、カランコエも、アルミスタも、アントスも、ロベリアも、
「…える?…聞こえる!?」
頭の中に声が響く。出発前に通信機を渡されていた。この声はアロエだ。
「あぁ…」
ホッと息をつく。
「いい?すぐにその場を離れて。今の状態じゃ無理よ。少なくとも、あなた1人で勝ち目は無い!」
「…」
確かに、被害を考えれば逃げるのが妥当か…。もしかしたら、またチャンスは訪れるかもしれない。
でも…
「…はあぁ!」
「ちょっと!?」
突っ込む。ユルに向かって。
「そんなんじゃ!前と何も変わらない!みんな、俺を信じてくれているんだ!ここで逃げるわけにはいかないんだよ!」
必ず成し遂げる。約束をしてしまった。
「ぐはっ!」
蹴りがとぶ。地面を無様にゴロゴロと転がる。
「逃げなさい!これは命令よ!」
「出来ない!」
立ち上がり、向かっていく。
「ぐあぁ!」
氷の壁で弾かれる。
「早く!早く逃げて!」
「…手放しちゃ…ダメなんだ…!」
剣を杖に立ち上がる。
ノロノロと進む。
「さァ、アキラめたらドウだ?」
「それは…」
「無理な相談だな」
肩をポンと叩かれる。
「少し休め。最後のその時まで」
アントスがユルに向かって走る。ユルはそのままアントスに一蹴を入れる。
周りに血が飛ぶ。しかし、アントスの姿は無い。
「…アントス…?」
「あいよ!兄弟!」
空を舞っている。ユルの左腕がアントスに向く。そして、左手から炎が放たれる。
「お兄様!?それは本体ですのよ!?」
ロベリアが叫ぶ。確かに捕まったはず…。
「それなら大当たりだ!お生憎様…!体は丈夫なものでね!」
振りかぶった剣は、ユルを…捉えなかった。
代わりに
「今度こそ、助けたぞ。カランコエ」
カランコエの檻を打ち破った。