ユルの叫び
「ウインド!」
カランコエが風を起こし、アルミスタはそれに乗る。
「ボーダー!」
アルミスタは結界を広げる。
しかし、ユルは剣を握り、結界が広がる事を阻止しにかかる。
剣が結界とぶつかり、異様な音を立てる。
硬直、約3秒。
「チッ…」
ユルは結界から手を引いた。目の前に迫るアルミスタにも対処しなくてはならないからだ。
「グラビティ」
ユルに過重力がかかる。
ユルは足元にヒビが入りながらもアルミスタの剣を受け止める。
アルミスタは風に乗ったまま、片方の剣を鍔迫り合いの状態から離す。もう片方の剣を軸にクルリとユルの周りを回って、背後を取る。
「はぁ…」
ユルは嘆息1つ。諦めた…訳では無いだろう。
「バーサーク」
ユルが能力を発動し、周りの空気は一変する。
「きゃっ…」
ユルは左足を軸に一回転して、アルミスタに叩きつける。その回転の速さは、とても、何倍もの重力を受けているとは思えない速さだった。
アルミスタは向かい風にも関わらず、こちらに向かって飛んでくる。
「…よっと」
ベゴニアがアルミスタをキャッチする。
時刻はそろそろ0時か…アルミスタの人格が戻るのもそろそろのはずだ。
みんな各々仮眠を取ったので眠気は大丈夫のはず。今はユルに集中できる絶好の機会。
ユルは相変わらず仁王立ちしている。
「デザイン!」
「モノ!」
アーチュは龍を出し、黒猫がユルに飛び込む。アーチュは龍に乗ったまま、ユルに急接近する。
「よし、いけ!」
アーチュが龍に指示を出し、龍はユルに向かって、地を穿ちながら進む。
「ふっ」
ドンッ!
鈍い音が響く。ユルは武器を持ち替え、槌を持っていた。
「本命は…!」
「こっち!」
前方から黒猫、後方からアーチュが迫る。
いや、それだけじゃない
「…影が薄いって、便利ですね」
「そうじゃの、こーいう時だけじゃけど…な!」
左右からはベゴニアとカトレアが迫っていた。
アーチュは定規…剣を振りかぶり、黒猫もまた剣を振りかぶる。
「カトレア!」
「カルテット!」
左右2人は魔法を繰り出す。
「…あぁもう…面倒…面倒なの!」
ユルが取り出したのは宝珠だった。ユルが宝珠を割り、辺りの空気はさらに重苦しくなる。
「ふっ!」
槌を振り上げ、叩きつけた。
全てが弾かれる。いや、それだけで済まなかった。
「うわわ…!」
塔が崩壊を始めた。無茶苦茶だ。
「全員!1時撤退!」
生き埋めなんてのはゴメンだ。1度塔からの脱出を試みる。
塔を下る。全員、とりあえずカードに入って安全を確保してもらう。前方から複数の敵影が見えた。その数は何百、何千という数。
全員服という服は来ておらず、腰巻1枚。おそらく奴隷が駆り出されたのだろう。
薙払わなければ、みんな生き埋めだ…!
「まったくもう…お兄様と同じで、世話が焼けますわね」
どこからか、声が聞こえた。
「ロベリア…!」
ここまでも邪魔をしに来たのか…!?
「待てギューフ!そいつはもう味方だ!」
向かいからアントスが現れる。
「はぁ!」
巨大な団扇のような武器を振ると、風が舞い、向かってくる敵を一掃する。
「こっちですわ」
大人しく、ロベリアの指示に従い、移動する。アントスが殿を務めてくれているため、行軍はかなり順調に進んだ。
ここまで気づかなかった裏口を抜け、外へ出る。
塔は音を立て、崩れ去る。
砂埃が舞い、中が見えない。
「さて、説明…してる時間はどうやら、無さそうですわね」
ロベリアがキッと塔のあった方を見つめる。
「ふふ…ふふふ…」
ゆらりと、人影が起き上がる。見た目は満身創痍、今なら勝てる…!
カードからみんなが飛び出し、ユルの方へと向かう。
「…私はね…負けるわけには…いかないの…!」
ユルは叫ぶ。みんなが1度足を止める。ユルが手に持っていたのは宝珠。
それも1つや2つではない。4つ…。
それを、同時に割った。
ユルはみるみるうちに異形と化す。32番と違い、黒光りする外郭が現れる。手は鋭い鉤爪が付き、体は宙に浮き、その大きさは塔の大きさすら、超えていた。
「さァ…ケッ戦をハジメまショウ」