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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
19章 ユルとの決着
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32番

主戦力となる人達全員をカードに入れて、塔の前まで到着する。かなりの距離があったが、能力のおかげで全く疲れは感じられない。

「全軍、突撃!」

魔物達と兵隊が塔に突撃していく。その光景は殺伐としていた。やがて…

「報告します!滞りなく下層制圧完了致しました!」

もう、コイツらだけで良くね?

という内心は置いておき、俺達は上層へと向かう。敵はまばらで襲ってくるが一薙ぎで対処出来る。

扉…おそらく、この向こうにユルがいる。

カードからみんなを出す。序盤はみんなに頑張ってもらい、消耗してきた後半、一対一という状況を作る。

「行くぞ」

「えぇ!」

「はい!」

色々な声が飛んでくる。扉に手をかけ、開いた。

「あらあら〜お久しぶりね〜フェオくん?」

かつて、勝手に付けられた名前を呼ばれる。

「誰だろうな、そいつは。俺はギューフだ」

ふふっとユルの口角が上がる。

「可愛げが無いわね〜」

昔のままの口調。猫を被っている口調だ。

「それで〜?要件は〜?」

決まりきっている。

「お前を、倒しに来た」

また、彼女は笑う。

「そう…なら、この人を倒してみてからにしなさい?32番!」

パチンと指がなる。32番、確か気さくな青年で、能力実験の時、被検体を喜んで引き受けてくれた好青年。彼と戦うのか?彼自体はそこまで強くは無さそうなものだが…。

「ぅ…ぅうぅうぅうううあぁああぁあ?」

ペチャリ…ペチャリ…

その姿は異形。体からは液体が垂れ、言葉を認識しているようだが、発することは出来なくなっていた。

「そんな…酷い…!」

1番ショックを受けていたのはリタだった。面識があるのは俺とリタ、黒猫はもしかしたら知っていただろうが、接触も無かっただろう。

「切って良いのよね?」

アルミスタが前に出る。そうだ。戦いに集中しなくては。

「あぁ、一思いにやってやってくれ」

分かったわ、と一瞥するアルミスタ。そして

「ウインド!」

カランコエが追い風を吹きつけ、アルミスタを加速させ、一気に間合いを詰める。

「取った!」

スっと剣が異形を真っ二つに切り裂く。

「む…?その場を離れろ!アルミスタ!」

アーチュは叫ぶ。アルミスタは呆然とこちらを振り向く。その時

ドチャリ…ドチャリ…

異形は再生を始めた。真っ二つに別れたものはくっつき、元の形を取り戻す。そしてアルミスタに平手打ちのような攻撃を放つ。

「なっ…!」

油断した中、意識がこちらに向いている状態で、回避も防御も出来なかった。

「レイン!」

「アイスシールド!」

カランコエが振らせた雨をリタが凍らせ、盾を作る。

シュー…

氷は徐々に変色し、溶けている。

その隙になんとかアルミスタは脱出を図った。

「カトレア!」

次はカトレアが背後から魔法を入れる。鉄則の戦法だった。

「うぅ…ぐあぁぁ…」

効いているようだが、倒れない。

体力、防御力が異様に高く、物理攻撃が届かない攻撃、という訳か。

「デザイン!」

アーチュが石で小さな部屋を創り、そこに異形を閉じ込める。

「ふっ…!」

そしてそれを圧縮する。

コトリ…と石が落ちる。中に成分が残っているとはいえ、さすがにこれでは出てくることも出来まい。

「ユル、これはどういうことだ」

クスッと笑い、答える。

「理破りの宝珠、それは体内の様々な力を向上させる代物。そして同時に、体内の魔力バランスを大いに崩します。1つだけなら問題はありません。彼はただ、限界に挑戦してもらっただけです。もちろん本物を使うなんてことはしません。偽物です。でも、十分に、強いでしょう?」

そう言うと、気づいた。

シュー…

石が溶けていた。

パンっ!

石が弾け、勢いよく中からは異形が飛び出す。

おそらく、カトレアとベゴニアに魔法を頼んでもジリ貧になるだろう…。だからといって、外に飛ばすと被害が拡大しかねない。

「なぁ、黒猫。理破りの宝珠の効果時間ってどれくらいだ?」

突破口が見いだせないものか…。

「人によりけり、だ。10分くらいの奴もいるし、2日保持したやつもいる」

ふふふ、と声が聞こえてくる。

「そういえば、人工物は長持ちするのですよ。本物よりも優れてる唯一の点なんですよ」

ユルが楽しげに笑みを浮かべる。他のみんなからの報告によると、塔に入ってから宝珠を使ったのはアルムだけだったようだ。

マジックブレイズを使って、消滅を試みる作戦も無きにしも非ずだが、魔力消費が凄まじい。後半の失速は目に見えている。

名案は何も浮かばない。石が溶けるのはおそらく酸によるもの。人間の中で酸性が強いものと言えば…

「リタ、少し頼めるか」

「なんなりと、ご主人様」

即答だった。

おそらくあの成分は胃液のような何か。つまり水分を多く含んでいるはず。それならリタの能力である程度操作出来るはず…!

アーチュが再び動けないよう、異形を拘束する。

リタが水を1枚隔てて…異形に触れる。

異形はみるみるうちに分解される。小さくしたそれを、リタは凍らせる。

パシャンッ!

そしてアーチュが石壁でそれを押し潰した。

「さて…」

そして今の今まで何も起きなかったと言うように、ユルがのっそりと立ち上がる。

パキッポキッと首の骨を鳴らしている。

「さて、本番といこうか」

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