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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
19章 ユルとの決着
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幽霊の声

決戦に備え、各々準備をする中、俺は1人目につかない場所へと移動した。

「さぁ、あなたは誰なんですか」

独り言のように呟く。周りには誰もいないのに、だ。

「そうですね、ではクイズです」

こっちは真面目に聞いている、という言葉を寸でのところで飲み込んだ。

「私は今、どこにいるでしょう?」

答えは明白だった。

「カードの中だ」

頭を通し語りかけるなんて芸当は、黒猫のテレパシーか、これしか有り得ない。

「当たらずも遠からず、模範解答はカードの外側です」

おちょくっているのか、それすらも疑問に思う。

「どういうことだ?」

声に語りかける。

「私はいわゆる所の幽霊ってやつです。今はカードに憑依しています」

そんな非現実的なこと、有り得るはずがない。

「有り得ますよ?アンスールの力なら、ね」

心の中を見透かしたことを言う。

「私はアセロラ。アンスールの…まぁ…ご主人様ってところです」

そういえば聞いたことがある。アンスールは昔、尊敬するご主人様がいた、と。

「…ん?なら待ってください。黒猫は既にあなたの能力を借りているはずです。あなたが能力を使えるはずがない」

確か黒猫は不完全、と言っていたか。感情が強くなった時にだけ発動するという…。

「それは私にも分かりません。おそらくですが、能力を借りた際、受け渡しが正常に機能しなかったのだと思います。初めて使う能力、生と死の狭間を彷徨う対象。なんらかの不具合が発生したと私は思います。ま、そんな事は良いじゃないですか。不具合であろうと無かろうと、それは今私達のためになってるわけですし」

凄く楽観的な人だった。

「では、何故俺のカードに憑依を?別の人に憑依でも良かったのでは?」

わざわざ俺のカードに憑依する意味が分からない。他の身体能力が高い人に憑依すれば、便利だっただろうに。

「それは簡単なことです」

笑顔が見えそうなくらい、明るい声。

「私の能力を使うためには、憑依では使えません。魔力とかそういう問題ではなく、ただ単に身体能力がその人に依存するように、能力もまた、その人に依存するからです」

ふむ…確かにそれは有り得る。

「では、最後の質問を…」

これは聞いていいのか…いや、聞かなければいけないだろう。

「あなたは、成仏出来ないんですか…?」

一瞬の沈黙。たぶん、もっと聞くべきことはあっただろう。ただ、どうしても聞いておきたかった。この人は未練があるから現世に留まっているのだろう。偽善とでもなんとでも言うといい。アンスールがあれほど慕っているのだ。そんな人を放っておけるはずもない。

「…そうですね」

クスッと笑う。ホントによく笑う人だ。こんな人が未練を持っているとは思えない。

「未練…ですか…」

一言、間を置く。

「私はね、見たかったんですよ。妹の成長を。我が子のように可愛がってきた子を。私はね、志半ばで息絶えました。その志っていうのは解放軍としての務めとか、そんなあまっちょろいものじゃありません。妹が笑って平和に暮らせる世界を創りたい。私を慕ってくれている子のように、悲しい思いをする子を減らしたい。解放軍は通過点だったんですよ…。もっと…ホントはもっと見たかったんです…妹の成長を…メイドの成長を…」

所々で嗚咽混じりの声で、それでも笑いながら言いきった。その姿はとても強く、美しいと、素直に思っていた。

「私はおそらく、あなたの目標が成し遂げられたその時、きっと成仏出来るでしょう」

寂しそうな声でそう言った。

「3つ…お願いしても良いですか?」

「…はい」

無意識に、お願いも聞かずに答えていた。

「1つは、アンスールとアーチュには黙っていてください。まだ成仏していなかったのかって、怒られてしまいます」

きっと、もっと深い理由があるのだろうが、追求するだけ無粋ってものだろう。

「1つは、私も戦いに連れて行ってください。きっとお役に立ちますから」

間違いなく即戦力。むしろこっちから願いたいくらいだ。

「そして…」

口をつぐみ、力強く、語った。


「必ず、成し遂げてください」

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