知らない声
ようやく塔に到着した。
ピシュン!
上を見る。既にボスが弓を構えているではないか!
「ご主人様、どうします?」
少し考えてみる。ここからでは確認しかねるが、宝珠は使ってないように見える。
となると、おそらくこの作戦が一番か。
「各自散開!盾を上にして塔の真下を目指せ!」
こちらの兵は王宮から拝借した兵隊が何人か。その全員が塔を目指す。
ザッザッと足音を並べ行軍する様は見ていて非常に気持ちのいいものである。
そしてこちらは…
「…ご主人様、非常にかっこ悪いです」
「うっせぇ」
背後をコソコソと忍び、塔を目指す。リタはカードにしまっている。こちらの方が慣れているのだから仕方がない。
ザッザッと歩く兵士の後ろをカサカサと移動しているのだ。
予想通りと言うべきか、塔の前では盾を持った兵士がゾロゾロといる。俺はその合間を抜け、真っ先に塔最上部へと向かう。下では大混戦を象徴するような怒号が聞こえてくる。
塔最上部だと思われる部屋の前でリタをカードから出す。
「さぁ、行こうか」
「えぇ、負ける気がしませんね」
時々感じていた視線は気にならない。おそらく気の所為だったのだろう。
扉を開く。
ピシィッ!
鋭い音が空を切る。
「アイスシールド!」
リタが氷で壁を作る。
「お久しぶりですね。昔の記憶は取り戻したのですか?」
アルムはそう言った。おそらく、このお久しぶりは記憶を失う前の頃の俺を言っているのだろう。
「あぁ、紆余曲折あってな」
軽く答える。別に話して害のあることも無いだろう。
「そうですか。なら話は早いですね」
そう言って左手に何かを掴む。
「昔の私の敵討ちと参りましょう」
パリィン…
宝珠を割る。空気がガラリと変わった。
「知ってます?私達は理破りの宝珠の人工化に成功しました」
「!?」
あれは奇跡を起こす代物。量産されて良いはずがない…!
「とは言え、効果は半分もありません。オリジナルに勝てる偽物はありませんから」
弓を構え、こちらに向ける。
「ですが…」
ピシィッ!!
「アイスシールド!」
パリン…
虚しい音を立て、氷の壁は破れる。リタの左腕を矢が掠めた。
「つっ…」
左腕からは血が少し流れている。
「ユル様は私にだけ本物を与えてくださった!そして私の前にあなたが立ち塞がる!これはもう運命と言わずしてなんなのでしょう!」
アルムの感情が昂っていた。
「…リタ」
「はい、ご主人様。やむを得ませんね」
出来れば温存しておきたかったが、事態が事態だ。宝珠に手を伸ばす。
ピシッ
矢が飛んでくる。隙を作らないつもりか…!
「どうしました?前みたいに力を集めれば良いじゃないですか。ほら、早くしないと」
ピシッピシッ…
「ブラッドシールド!濃縮!」
リタが血で盾を作る。表情からして長く持たないことはよく分かっていた。
宝珠に手を伸ばす。ただ、これはリタが使うべきか…今の俺よりリタの方が断然強いのは火を見るより明らか。
「くっ…!」
でも、リタはコンマ1秒でも動けない状態が出来れば全滅の可能性が高い…。
考えろ…考えるんだ!
「きゃっ…!」
リタの盾が割れる。リタ目掛けて次の矢が放たれようとしている。
「…守ってあげて…」
知らない声が聞こえる。声は頭の中に響く。この感覚は…
カードの中からの声。
これに賭ける他無い…!
宝珠を割る。頭に浮かぶ呪文を唱える。
「マジックブレイズ!」
剣が見事矢を弾いた。
「!?」
アルムが目を見開く。
「そんな…黒猫は別の塔に…おかしい…!」
明らかに焦っている。
ここで決める!
「切り裂け!」
頭に浮かぶ中で、最も強力な一手の呪文を叫ぶ。
「クローバー!」
ドーム状にアルムの周りを剣が囲う。
ドームの中がどうなっているかは確認ができない。
やがて剣が全て消え、中の様子を確認することが出来た。
アルムは気絶するだけで済んだようだ。おそらく宝珠が無かったら命すら危うかっただろう。
「ギューフ…」
扉の向こうから声が聞こえた。
黒猫だった。
「今の…いったいどういうことだい…?」
焦ったような、落ち着きの無い様子でこちらを見ている。
「…分からない、黒猫の能力じゃ無いのか?」
黒猫は首を横に振る。
「後でお話します…なので今は他言無用でお願いします」
頭に声が響く。誰かは分からない。とりあえず恩人とも言える人の願いを無下にはしずらい。
「分からないことを考えていてはダメだな。今は集中しないと」
とりあえず逃げの一手。
「あ、あぁ、そうだね…」
釈然としない様子ではあるが、納得はしたようだ。
「とりあえず全員からの連絡はついた。塔攻略は全て終わった。さぁ、決戦と洒落こもうじゃないか…ニシシ」
1度拠点に戻り、全員の無事を確認する。
各塔を守ってた人達は全員気絶しているか、縛られているかという状態だった。
砂漠の中央に目をやる。
さぁ、決戦の時間だ。