決戦、開始
王宮陥落から1年過ぎた。
「ニシシ…さぁ、いよいよ決戦の時だ」
皆、見違えるほど強くなった。カランコエもリタも1年前のアーチュ以上の実力となった。特にアルミスタは目まぐるしい成長を見せていた。
黒猫含め、他の全員も大きくレベルアップしていた。備えあればなんとやら。ユルに挑めるレベルまでは上がったと自負している。
「さぁ、作戦通りに行くとするよ」
黒猫は先頭でそう高らかに声を上げる。ここには5つの塔がある。
ユルは中央の塔という事は把握出来ている。残りの4つの塔を一気に叩き、手が空いたメンバーが増援に駆けつける、というものだ。
リタと俺、アルミスタとカランコエ、黒猫とアーチュ、ベゴニアとカトレア。この分け方で誰も異論は無かった。
「それでは皆の者、吉報を待っている!」
アーチュが締めくくった。隣で軽く黒猫がキックを入れているのを見逃さなかった。
「…?」
そして俺には不安要素が1つ。約1年前、だいたい、アーチュが加わった頃からだろうか、視線を感じる。
「ま、気のせいか」
「それでは皆の者、吉報を待っている!」
そう言うアーチュに蹴りを入れる。私がせっかく気持ちよく喋っていたのに!
それぞれ、各方面に散っていく。兵の数はかなり揃った。さすが魔王と言うべきか、魔物が大量に仲間に加わったのだ。
主に雑魚戦で戦わせて、主将相手にこちらも主力をぶつける形をとる予定だ。
「さて」
私とアーチュは一応あの中ではトップクラスの戦力を保持していると自負している。謙遜なんて必要ない。
私の軍は、私と傭兵1人。以上だ。
「なぁ、アンスール?」
傭兵が声をかけてくる。
「私はお前にまだ傭兵扱いされている気がするのだが」
「…傭兵だろ?名目上」
アーチュはそうやって愚痴をこぼした。これから決戦だというのに、なぜか気持ちが少し楽になった。
塔の目の前。予想通り門番がいる。
「アーチュ、頼んだ」
「言われなくても」
石塔の裏手に回り込み、アーチュが石塔に触れる。
少し石塔が伸びてから
ガシャァン!!
崩れた。爽快だね。予想通り、中の人員は壊滅。ただ、1人だけ生きていた。
「やぁ、久しいね」
「そうだね、ニシシ…」
立っていたのは、リグルだった。奇妙な縁もあったものだ。
「さて傭兵?手筈通りに」
「悪いな、私は…アーチュだ!」
アーチュはリグルの正面に突っ込む。リグルの様子を見る限り、既に宝珠は使っているようだった。私達が掻き集めた宝珠は合計6つ。アーチュから渡されたもの含めると7つ。そのうちの1つを鞄から取り出し、私が割った。おそらく、こうでもしないと勝てないだろう。
アーチュが食い止めている間に手札を整える。
「モノ!」
武器生成。普段のものより、断然切れ味が良さそうだ。
「アーチュ!」
次は私が背後から突っ込む。
若干アーチュが押され気味だったのも想定済みだ。アーチュは素早く後ろへ飛び退き、私と攻撃を交代する。
「デザイン!」
龍が出てくる。背後から一気に迫る。
次は私がバク転して飛び退く。
「トリ!テトラ!」
去り際一撃。普段の4倍は威力が出ていた。
「チィっ」
舌打ちして、リグルはその両方を受け止めようとする。
砂埃が舞い上がり、状況がよく飲み込めない。
砂埃が晴れ、リグルが姿を表す。
その姿は、既に傷だらけで、これ以上無いほど呆気なかった。
「…ま、人工物って、こんなもんか…」
そう一言言って、倒れた。宝珠を使ったとは言え、呆気なさすぎる。分からない。人工物?なんの事だ…?
「なぁ、アーチュ」
アーチュは見るからに青ざめていた。
「…悪い、少しギューフの方に向かいながら考えるとしよう」
そう言って、リグルにトドメを刺す。
呆気なく、塔を1つ、制圧完了した。