姫の決意
これは私が姫になってからのお話。
この国は貧富の差が激しかった。とは言え、皆飢えることもなく、最低限度の生活は送れていた。
この国の姫は代々、とある有力貴族が担っていたが、ある代でその系譜は途切れてしまった。
私は別の国出身ではあったものの、国王のコネなどもあり、姫に就任した。
任される仕事は書類仕事が大半。とは言え、判を押す簡単な仕事が多かった。
剣を振る時間も取ることが出来た。満足のいく生活も出来ていた。
そう、外の声さえ、聞かなければ。
私は知っている。この国の人々の多くは私が姫となったことを良しとしていない。理由は簡単だった。私が他国の人間だからだ。侵略と考える人が大勢いた。しかも、そのトップはこの国1番の有力者。その言葉を私は剣を振り、聞こえないようにしていた。
ある時、賊が街に忍び込んだ。ナイフを持った男が数十人、街を、酒場を荒らしている。目的は酒と金目の品。私は見るに堪えなくなり、賊の元へと向かった。誰もが止めた。でも私を誰も止めることが出来なかった。
私の剣の腕が光る、唯一の場所でもあったから。
賊は一瞬で蹴散らすことが出来た。これもあって、私は世間の評判はうなぎ登り。中には剣の腕で乗っ取りに来たとか、自作自演と言われたが、それでも評判は常に上がり続けた。
人気も増えれば仕事も増えた。徐々に剣を振る時間は取れなくなっていった。私のアイデンティティは徐々に崩れ去っていった。
そんなある日、とある噂を耳にした。有力貴族が姫の座を奪おうとしているらしい。新しく生まれた子を姫とするため、厳しい教育を躾ているのだとか。
この国の姫の座は奪えないことはない。この国全国民の3/4の署名が集まれば奪えるのだ。
しかし、その後その噂は途絶えた。親が徐々に諦めていったらしい。この子には無理だと、失望している親を何人も目撃していた。
その後、代わりの噂が流れ始めた。有力貴族が国を破壊しようとしていると。簡単に言えば、癇癪を起こしたのだ。しかし、噂は噂。物的証拠が何も無い。私は常にその噂を無視し続けた。
私にもかつて、戦友の1人や2人はいたものだ。ちょうど休みも取れ、日頃の愚痴を聞いてもらうついでに招待しようとした。
「え、えぇ…はい…そうですか…すいません」
電話を切る。待っていたのは、訃報だった。私は心に決めた。
こんな悲しい思い、二度としてたまるものか。