中庭のベンチ
目が覚める。布団の中のベゴニアは昨日の夜出ていく感触があった。
体調は完全に良くなった。今は午前8時頃。とりあえず部屋を出る。
さて、どうしよう…。あてもなく歩いていると、中庭のベンチに人影が見えた。
「カサブランカ姫…」
現国王が日向ぼっこだろうか。それとも誰かを待っているのか。とりあえず向かってみる。
「隣…良いですか?」
「もちろん」
即座に返答が来た。
「誰かを待っていたり…?」
「えぇ、ついさっきまで待ってました」
ん?過去形?言葉の綾かな?
「そして、たった今、待っていた人が隣に座りました」
なるほど、私を待って…私の行動…読まれてる?
「ごめんなさい、こっちに来てからずっと強く当たってしまって」
「いえ…私は姫様のおかげで強くなれたので」
珍しく、シュンとしている。
「…ごめんなさいね、今まで遠ざけていたせいもあって、前までの接し方を忘れてしまって…」
なるほど、確かに1度距離感を離すフリをしただけでも、距離感というのは分からなくなる。それが2ヶ月以上も続いたのだ。
「謝ることはありませんよ…また徐々に縮めていけばいいだけです」
「アルミスター!」
くっついて来た。徐々にと言ったのに、一気に詰めてきた。
「あ…ちょ…苦し…苦しいですって…」
「辛かったのぉ!苦しかったのぉ!今までぇ!自分に必死に言い聞かせてぇ!理性、保ってきたのぉ!」
今理性吹っ飛んでますよね!?
「ひっぐ…うっぐ…うえぇ…」
涙と鼻水で顔がぐしゃぐしゃだった。まぁ、それだけの事をして来たことを私は知っている。
私の寝室で謝り続けていた姫を。たぶん、私が思っている以上に自分を追い込んだのだろう。
「これが無かったら…私…とっくに挫折してましたぁ…」
そう言って、ポケットから紙切れ1枚を取り出した。
「…」
昔の私が浴室にいる時の写真…
頭の中で疑問符が湧き上がる。ついでに羞恥心も湧き上がる。
姫様の行動に対して血の気が引いて、羞恥心で顔に血が上って、バランス良く血が巡る。
「あ、言っちゃった」
失言した事を暴露しつつ、何事も無くポケットに写真をしまい、
「うあぁぁぁ!」
また泣き出した…
姫が落ち着くまで、数時間を要した。
「さて、昔話をしましょうか」
そう語り出したのは、姫が泣き止んだ後だった。