紡がなければいけないバトン
「構いませんよ」
姫は私にそう言った。私は剣を持ち、構える。
「…強化でもなんでもしたらいいですよ。そんな分かりきった勝負、私はしたくありません」
まぁ、その通りだろう。私は元々剣術は苦手だった。最終的にはアルミスタの勝率の方が断然高くなっていた。
「では、遠慮なく」
剣を構え、唱える。自分を限界ギリギリまで底上げする。
「チャンスは1度きりです」
雨は再び降り始めていた。剣を薙ぐと水を切る感触。天使相手なら姿をくらませて不意打ちも出来るけど…生憎、相手は人間。剣で戦うので動く必要がある…。
姫をよく見る。目に見えて疲労が分かる。あの2戦は相当応えたようだ。それは身体的にも、精神的にも。
強化効果をふんだんに盛り込んだ私の身体能力はアルミスタを超える。たぶん、姫様に力勝負で勝てるほどには盛り込んだはずだ。
中段の構えから横に薙ぐ。予想通り剣で止める。私の剣は強い力で押し出され、元の形に戻るように弾け飛ぶ。
その力を利用して右足を軸に一回転。逆側から横薙ぎ。助走がたっぷりあったので次は姫の剣が弾かれる。
下段の構えにすぐに移行し、斜め上に切り上げる。
それを姫様は側転して、上を跨ぐ。
片手で軽々側転をする姫様…若干引いた
そして体が180度ひっくり返った体勢で横に薙ぐ。
私は真上に跳んでそれを躱す。
勢いもあったため、受け止めていたら剣が飛ばされた事だろう。
着地はほぼ同時。私は地を蹴って姫の視界から逃れようとする。
「取った!」
背後に回り込む。私の声に反応して姫は背後を振り向き、即座に防ぐ体勢に入る。ここまで完璧に守られたら正面から剣を入れることは不可能だろう。
でも
スパン!
剣は見事、姫を捉えた。姫の背中に一撃。
「…なんで?」
姫は呆然としていた。
「確かに私は姫様の背後で取ったと言いました。その時姫様は当然振り返って、声のした方を防ごうとします。なのでもう後半周しただけですよ」
一種の賭け。姫様の背後を常に追えなければ負けていたことだろう。1/2。姫様が逆回転をしていたら負けていたかもしれない。
「約束、守ってくださいね」
「…えぇ」
姫様は去っていった。私はなんとか、バトンを繋いだ。
私の親友に。
…?あれ?そろそろ親友って言っても…良いよね…!?あれ!?あれれ!?なんか急に恥ずかしくなってきた!私でも…構いませんよね?って何!?変な顔してなかった!?大丈夫!?大丈夫だよね!?
私は勝ったのに、蹲ってその場を後にしたのだった。