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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
18章 克服と、決意と、親友と アルミスタ&ベゴニア編第3部
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試練最終日 後編

『私』の意識はそこでプッツリと切れた。

代わりに私が目を覚ます。おそらく過度の集中力、過度の運動量により、『私』の存在が限界となったのだろう。

『私』の繋いでくれたバトンを落とすわけにはいかない。

「次は、私の番です」

『私』を見習い、キッとした目付きで睨む。

「…いいわ、来なさい」

私を『私』ではなく、私だと認識したのだろう。姫はそう呼びかけた。

私は『私』とは違う戦い方で、私らしく戦おう。

ゆっくりと相手を見る。私は『私』に比べ力が弱い。精神力が影響しているのか、身体能力は幾分か低下するようだった。

『私』のように突っ込めば押されて負ける。

私はくるりと、相手を見ながらジリジリと詰め寄る。

それはベゴニアと練習した一刀一足の間合い。

カッと音を立て、剣を少し弾く。向こうから動こうとしないのか、弾き返す事もして来ない。

雨水が鬱陶しい。目に入る水は少し痛い。

どうする、どうする…

睨み合いの間にも時は過ぎる。

丁寧に、かつ、急がないと…。

焦る。手には雨水か、汗か分からない水が吹き出す。

即座に私は剣を弾き、姫から見て右に倒し、私は姫の左を目指す。とにかく、相手の反応出来ない場所に動かないと…!

しかし、姫は身を翻し、私の間合いから去る。

すると姫自ら仕掛けてくる。今まで仕掛けられる事は無かった…。

「…かかった!」

私は待っていたのだ。姫から仕掛けられる事を。姫の一撃目は大抵上段からの振り下ろし。剣でいなしつつ、そこから生まれる作用で回り込む。

そうは言っても、限度がある。回り込んでからの横薙ぎはあっさりと受け止められる。

姫は私の剣を押し出し、次は低めの横から切り上げ。

私の、『私』より優れている点は少ししかない。

落ち着いた思考に、行動。視力の良さ。判断力と適応力。

私は『私』には無いものを、最大限に活かす!

姫の切り上げを剣で受ける。私は、その場で跳ぶ。

姫の切り上げの力はかなり強い。それこそ、防いでもそのまま押し切られるほどに。

私は、それを利用した。

剣に乗る。文字通り、剣に乗った。

姫は切り上げを止めようとしたら、おそらく迷いが生じると考えたのか、止める気は無かった。

真上に、飛んだ。

暗がりに混ざって…。

姫は私を一瞬、見失う。

その時、私のすぐ後ろには黄色く、光るものが。

月だ。

晴れたのだ。

姫は、月を見た。そして、私から見た姫は


影になっていた。


おそらく、かなりの悪運だった。姫が月を発見した時、直線上にいた、私も同時に発見した。

おそらく、月が出なければそのまま闇に紛れ1太刀入れることが出来ただろう。

しかし、姫はそれを受け止めた。

私は着地に失敗して、盛大に転んだ。

「もう…分かったでしょう?」

あぁ…ちょっと首を打った…

「あなたは私に勝てない」

意識が…引き止めないと…

「さぁ、ゆっくりと私達と暮らしましょう」

はは…カサブランカ姫…あなたの顔から流れてるのは、雨水ですか…?汗ですか…?それとも…?

「さ、ゆっくり、おやすみなさい」

あぁ、ダメだ…意識は…掴め…無い…

「姫様!」

その声は、僅かに聞けた。久しぶりに聞いた気がする、アイリスの声を。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「姫様!彼女は十分強くなりました!認めてあげても良いのでは無いのですか!?」

私は見ていられなかった。もうあと一歩だったじゃないか。それを、あんな時の運で潰されて…!

「約束は約束です。彼女も、それを良しとはしないでしょう」

冷たい視線が私を刺す。

「それに、良かったですね。晴れてあなたもアルミスタと話せますよ」

姫様は私に誘惑する。私の今1番の欲求を突きつける。

…私の…今1番の…欲求…?

「そんな事!どうだっていい!」

私の今1番の欲求は彼女と話すことじゃない!

「私の今1番の欲求は、彼女の心からの笑顔だから!」

私は頭を下げる。

「どうか!どうか、行かせてやって欲しい!無理なら、あと1日!あと1日で良い!彼女にチャンスを与えてやって欲しい!」

姫様は私を見ているのか、何を見ているのかは分からなかった。

「では、条件を付けましょう」

私は顔を上げる。

「あなたの覚悟を見せてください」

そう言うと、私の目の前に木刀を1本、投げられる。

「私に1太刀浴びせたら、あと1日、チャンスを与えましょう」

「そ、それは…」

無理だ。私にはこれっぽっちも剣術の心得は無い。でも、やらなかったら?チャンスを与えられて、無条件で手放すようなものだ。

「あら、それはさすがに酷でしたか。良いですわよ?剣術に長けた人をお連れになってもらっても」

アーチュはこの時間は寝ている。黒猫か?いや、彼女はきっと無償でこのような決闘に挑んでくれる人じゃない。

なら誰を…?他の人も既に寝静まった時間帯。寝ぼけ眼で戦って、果たして勝機はあるのか?

やはり私がやるしかないのか?

「あまり時間をかけすぎないで。あと5秒」

どうする、どうするどうするどうする

「5」

焦るな、手を探せ。私がやって勝てるのか?

「4」

いや、無理だ。きっと、瞬殺も良いところだ。

「3」

なら、この場にいる人に…

「2」

それも無理だ。黒猫は呼び出すには20秒くらいかかる。ダメだ…

「1」

やっぱり、私が取るしか…

剣に手を伸ばす。

「その勝負」

剣が地から離れる。

「私が受けても…構いませんよね?」

それを勇敢にも手に取ったのは、内気な天使だった。

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