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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
18章 克服と、決意と、親友と アルミスタ&ベゴニア編第3部
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今日は昨日よりも一撃多く防いだ。

今日は昨日よりも一撃多く叩き込めた。

今日は昨日よりも目がよく見えた。

今日は昨日よりも動き方が分かった。

…着実に、近づいている。


「やぁ!」

渾身の一撃で、相手の首を狙う。

「やっ!」

カッという音ともに防がれる。

相手の剣は私の叩いた反動を利用し、私の逆側をついてくる。

ゴッという鈍い音がした。剣の柄で防いだから力の入り方が違ったのだ。

そのまま、相手の剣と反対側にすぐさま飛び退く。

「はっ!」

狙うは、剣で防ぎきれない背中。移動さえしてしまえば楽なものだった。

スパン!と音がたつ。

「ごめん!大丈夫!?夢中で思いっきり当てちゃった…ホントにごめん!」

斬られた主は起き上がる。

「いたた…いえいえ、良い一撃でした!」

笑顔で、そう言った。

ベゴニアと修行を始めて1週間。毎日私の弱点を見つけてくれるおかげで勝率は五分五分になった。そうは言っても、カサブランカ姫にはまだ勝てない。

「そろそろ訓練相手も変えてみてはどうでしょう?」

もっともな提案だが、今まで付き合ってくれたベゴニアに少し申し訳ない…いや違う。私は、寂しいのかもしれない。こんな友人が作れたのに離れてしまうことが。

「そうね…アーチュさんに頼んでみようかしら」

意に反して、私はすんなりこの言葉を口にした。確かに同じ訓練相手ばかりだと伸び悩む事があるのも確かだ。

「良いと思います!」

寂しさを見せないその笑顔に胸がズキリと痛む。

「あの…もし、良かったらなんだけど…」

私は、もじもじしながら、人差し指同士をくっつけたり、離したりしながら、提案をする。

「午前中はあなたと訓練したいの…!」

言えた。ハッキリと。

その後すぐに不安が襲う。断られたらどうしよう。迷惑じゃないだろうか…。

「…あー、えっとね!ほら!…あー!忘れて!ね?」

ごまかす。せっかく言えたのに。ベゴニアは呆気に取られてポカンとしていた。

「…ふふ、良いですよ」

笑顔でそう言った。

「えぇ、そうよ!うん、忘れるべき!うん!」

あぁ、私の言葉を水に流してくれるんだ。関係は今までと何も変わらない。

「あのぉ…今のいいですよ、は忘れて欲しいの方ではなくて、訓練の相手をして欲しい、の返答なのですが…」

「そうよね!えぇ、そうよね!訓練の…訓練?」

パニックから抜け出せずにいた。焦って何を言ってるのか理解が追いつかない。

「一緒に訓練、続けましょ?」

ベゴニアは簡単に言ってのけた。私は顔を真っ赤にして、こう答えた。

「…うん」


「で、訓練の相手だったな。私で良ければ相手をしよう」

アーチュ(こちらもさん呼びしたら、呼び捨てで良いと言われた…本人曰くむず痒いとの事だ)は木刀を構えた。

私も木刀を構える。その後ろの柱の陰にはベゴニアもいる。…たぶん、気づかれていないと思ってるのだろうから、そっとしておく。

「まぁ、とりあえず打ち合ってみるか。その方が分かりやすい」

私は言われた通り、木刀を構えて、踏み込んだ。間合いはベゴニアに言われた通り、踏み込むと剣が届く距離。構えて、振りは少しでも小さく。

「ふむ」

すっと、避ける。木刀で受け流しつつ。

昔の私ならここでバランスを崩して倒れるだろう。でも、ベゴニアに教わったことを無駄にはしない!

飛んでくる剣を止めるため、木刀を少しアーチュ方向に向け、そのまま向き直る。

「!?」

いない!?消えたようにすら思える。

「なるほど、だいたい分かった」

パチン!と背中に痛み。

「そうだな。キミは踏み込みに力を入れすぎている。その力ではバランスを崩すのは当然だろう。見据えるべきは常に敵。刀の長さを体に叩き込む。すると剣先を常に見ずともどこで当たるかが分かる。タイピングと似たようなものだ」

背後からアーチュの声が響いた。

「あと、刀で防ぐ事を優先したことは悪くない。まぁ、これはちゃんと振り返ることが出来れば問題は無いか」

顎に手を当てて考えている。

「さぁ、もう一度打ち込んできてみてくれ」

アーチュは剣を構える。踏み込みに力を入れすぎず…常に敵を見据える!

「うぁ…」

足がもつれた。

「ほら、立って」

手を借りて立ち上がる。

もう一度剣を構え、今度はなんとか距離を軽く詰める。

一撃目。受け流された。アーチュはそのまま左に移る。1歩右に距離を離し、構え直す。もう一度…

また、受け流される。今度は右に移動。私は左に移る。また構えを取る。

次は正面から防いできた。私は後ろに1歩下がり、再び構えを取る。

「そこまで」

アーチュは声を上げた。

「うーむ、一撃離脱戦法も悪くはないのだが…一対一において、そうしているとジリ貧だぞ?」

言われてみたらそうだ。毎回打っては逃げ、打っては逃げ…実戦は毎回先手を打たせてもらえるとは限らない。

「剣術は型を覚えるんだ。私とカサブランカの戦い、見てただろう?」

バレていた…。

「このように防がれた場合、このように次は攻撃、それも防がれた場合、次はこのように攻撃、というものをつくる。すると攻撃と攻撃の隙間が減り、スパンが短くなる。そのうち、私とカサブランカみたいに打ち合うことが出来るというわけだ」

なるほど…

「型ってどんなものがあるんですか?」

「うーん…」

悩んでいる。

「そうだな…一概には言えない。私の場合、1つの攻撃に対し、それに続くように少なくとも10は次の型を用意している。つまり、自分の打ちやすい動きが型となる。もちろん、打ちやすいからといって、デタラメに動けばそれは逆効果なのだが」

つまり、防がれた時、後ろに飛び退くのではなく、次に打ち込む形を複数決めておき、防がれた場合によって、攻撃方法を変える、ということか…

「そうだな…これに関しては相手は誰でもいい、例えば…」

バッと全速力で駆け出すアーチュ。

「天使が相手でも、防いでさえくれれば問題は無い」

ベゴニアは首を掴まれ、うなだれている…。猫のようだ…

「さて、こんなものだろう。すまんな、他にも訓練を頼まれていて行かなくてはならない」

アーチュはベゴニアを離すと歩いていく。

「ありがとうございました!」

アーチュは背中を見せたまま、手を振った。

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