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少女達の奏でる夢想曲  作者: まぐろどん
18章 克服と、決意と、親友と アルミスタ&ベゴニア編第3部
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何かが変わる

朝起きる。まだアルミスタはぐっすり寝ているだろうか。確かに私の方が寝る時間は遅いが、疲労は彼女の方が上だろう。彼女の部屋が見える廊下へと移動する。部屋の死角がほとんど無い絶好の位置取り。ここを探すために王宮を何周もした。

「…??」

おかしい、普段ならまだ寝ている時間帯。起きたのだろうか。いやなに、別に不思議なことは無い。彼女の方が早く寝るのだから。

中庭に目をやる。彼女はよくあそこでのんびりしている。…いない?なら何処へ…

王宮を隈無く探す。いつもいる場所にいない。よく見かける場所は粗方探したがいない。

ふと、嫌な予感がよぎる。

…逃げた?

いや、そんなはずは…無くもないだろう。

信頼していた人に裏切られたのだ。相当滅入ってるはずだった。

「無理もない…か」

彼女は逃げ出したのだ。傍にいたい人を放り出して。

カンッカンッ…

何やら打ち付ける音が聞こえる。

リタがナイフの練習でもしているのだろうか。姫様とアーチュの特訓は…いや、彼女達はこんな遅く打ち合わない。

こっそりと、覗いてみる。その瞬間、私はさっきまで考えていたことについて、ひどく後悔した。

そこにいたのは、あの内気な天使と、アルミスタだった。

私は確かにアルミスタがベゴニアの訓練の誘いを断っていたのを見た。彼女は、変わろうとしているのだ。

あぁ、私はなんてことを考えていたのだろう。彼女はそこまで弱くは無かった。彼女は変わるきっかけを掴んだのだ。私はその場を後にした。


午後11時。今まで痛々しくて見ていられなかった姫様とアルミスタの鍛練を、今日は始めから見た。耳を澄ませば声も聞こえるほど、近くで。

茂みにこっそり身を隠す。もともと消える能力を持っていたせいか、隠密行動は得意だった。

スパン!スパン!

今日も叩かれる音が響く。

「…なんであなた…今日は能力を使わないんですの…?」

言われて気づく。今日、アルミスタは能力を使おうとしない。今まで、たまに見ていたが、姫様が油断した時、必ず能力を使っていた。

「私は…強くならなくちゃいけない…能力を使わなくても勝てるように…!」

彼女に何があったのか、私には全く分からない。ただ、それでも1つ、分かることがあった。

何かが…変わった。

恐れていた彼女は、そこにはもう見えなかった。

今まで打ちのめされていた彼女だったが、今日は何回か、姫様の行動を捉え、防御していた。

そして、午前1時。この時間が強気な彼女が存在出来る限界。毎回、ここで腰を抜かし、倒れる。

私はすぐさま湿布を用意しようと動こうとする。

しかし、何やら様子がおかしい。

彼女は…まだ立っていた。

膝は震え、腕も震え、産まれたての子鹿のように弱々しかったが、彼女はまだ、立っていた。そして、姫様に向かっていった。

当然、彼女はまだ姫様には敵わない。重い一撃が背中に入る。しかし、彼女は倒れなかった。今まで、あやつり人形の糸が切れたように倒れた彼女が、今は糸1本で、立っているような状態だ。

そして、それは、大きな、強い1本だった。

きっと、彼女の中で、変化が生じた。そしてそれは、弱気な彼女にも影響を与えた。

それから、1太刀を浴びせることは出来なかったが、姫様は始めて、疲れたように一息ついた。

アルミスタは過呼吸なくらい疲労していたが。

そこで、プツンと糸が切れたようにアルミスタは倒れた。限界を超えたのだろう。

私は駆け寄った。姫様は立ち去った。いつもの光景だった。でも、1つ違った。

「あの…」

声をかけられた。誰か分からず振り返る。

「お手伝い…何か出来ませんか…?」

あの、内気な天使だった。心配で来てくれたのだろう。とは言っても、手伝って貰えることは特にない…。

「それじゃあ、アルミスタをベッドまで運ぶのを手伝ってくれる?刺激したくないから、慎重に…」

「分かりました、やってみます」

すると彼女は手をかざす。アルミスタの体が浮いた。

「では、アルミスタの部屋まで案内してください」

「あ、あぁ。こっち」

私は呆気に取られていた。凄いな魔法って。私も勉強してみようかしら。

部屋に着き、いつものように湿布を貼ろうとすると、机に目がいった。そこには、紙が2枚。1枚は弱点一覧と書かれていた。研究していたのだろう、自分の動きを。

もう1枚、目につきやすい位置にその紙はあった。

『いつも湿布を貼ってくれる方へ

いつも湿布を貼ってくださってありがとうございます。おそらく私は、これが無ければ日常生活に支障をきたしていたでしょう。出来れば面と向かってお礼を言いたいのですが、今までの状況から見て、名乗り出ることが出来ないのかもと思い、このように手紙として残させていただきました。おそらく、私は2ヶ月丸々使ってもこの勝負に勝てるかは分かりません。情けない限りではありますが、それは変えられない事実です。なので、辛くなったら湿布を置いていくだけでも、貼らなくても構いません。私はいつでもあなたに感謝しています。どうか、あなたまで辛い思いをしないでください。これは私のわがままです。重ねて、いつも、ありがとうございます。

アルミスタ』

そう、書かれていた。

なんて自分勝手なわがままを書くのだろう。

「ほんと、わがままですよね」

フフ、と天使は笑った。優しく。

「で、お返事、書かないのですか?」

紙の下には余白があった。私は書けるものを持っていなかったので、引き出しを開けて、使わせてもらう。

「?」

鍵がかかっていた。もう片方の引き出しは軽く開いて、そこのボールペンで、一言、こう書いた。

『がんばれ』

書きたいことは沢山ある、言いたいことも沢山ある。でも、今の彼女にそれを言うと、彼女は甘えてくるのだろう。私は、自分を押し殺し、そう書いた。

「あ、そうそう」

私は思い出したように言う。

「私の事は、誰にも言っちゃダメだよ?」

天使はニコリと笑い、頷いた。

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