彼女の居場所
彼女は剣の師範をしていた。国一の剣士とまで言われた強く、気高い女の子。
そう、女の子。彼女を一言で表すとその言葉が適切だった。彼女は座学が苦手だったが、剣の腕は誰にも負けたことは無かった。
大人3人がかりで彼女に立ち向かっても、彼女を倒すことは出来なかった。
彼女は不器用だった。自分は強いという自信からか相手に対して上からものを言うような、簡単に言えばプライドが高かったのだ。彼女はいつも1人だった。
ある時、世界でMFという物が広まった。1部の人間にだけ発現する特殊な力。彼女はもちろん、自分もその能力が発現すると信じてやまなかった。
努力は怠ることは無かった。なんでもやった。でも、彼女の想いは届かなかった。成果は実らなかった。言われてみれば当然でもある。努力で発現するものではないと、公表すらされていた。彼女はそれを知っていたが、気づかないフリをしていた。
彼女はいつも言っていた。
「ほら、もしかしたら何か変わるかも」
そう言っては鍛錬に戻り、
「私がこうして発現して、世間に公表されれば、それは証明に繋がる。誰もが希望を持つことが出来る」
彼女は強かった。でも、現実を受け入れることは出来なかった。
明くる日も、明くる日も剣を振った。しかし、天は彼女の期待に応えることは無かった。
やがて、1人の少女が弟子入りを志願した。彼女は師範でありながら、弟子は取りたくない!と遠ざけていた。でも、この時の様子は違った。
「遠方の国の少女です」
「今すぐにでもこっちに呼びなさい」
その返事の間に0.1秒も無かったと皆は言う。何が彼女を惹き付けたのか、それは誰も理解しなかったが。
その少女の名はアーチュと言った。定規を剣のように振る、おかしな少女だった。歳はアーチュの方が下だった。
アーチュはMFを持っていた。姉の訃報を受け、発現したと聞いている。開口一番、彼女は聞いた。
「MF保持者なら発現する可能性があるか分かるそうね。私はどうなの?」
彼女は恐れずに聞いた。しかしアーチュは
「あなたには発現の予兆は見られない」
ざっくりと言った。その場にいた誰もが慌てふためいた。しかし、彼女は微笑み
「そう、それなら予兆が見えたらいつでも言うように」
それだけ答えた。
彼女はやはり強かった。MFも使ったが、全く歯がたつ事は無かった。
彼女は毎日、訓練終わりにこう聞いた。
「どう?そろそろ私にも予兆は出てきたかしら」
決まって、同じ返事ばかり、アーチュはしていた。
「いや、まだ見えない」
やがて、アーチュは別の国で遊撃隊を率いる事が決まった。訓練最後の日。彼女はいつものように聞いた。
「どう?そろそろ私にも予兆は出てきたかしら?」
ほんの優しさだった。アーチュはこう答えてしまった。
「えぇ、ほんの少し」
彼女はそれからも剣を振り続けた。やがて、食べることすら、寝ることすら忘れ、剣を振り続けた。聞いた話なのだけどね。
そんな彼女の体調を心配したのはその国の国王だった。彼は心優しく、慕われていた。
「キミは何故、そこまで剣を振る?」
彼女は真っ直ぐ見据えて答えた。
「もうすぐ、MFが使えるようになるかもしれない」
すると国王はさらに聞いた。
「今のキミは十二分に強いじゃないか。満足…しないのかい?」
彼女は答えた。
「まだです」
彼女はさらに理由をつける。
「私には、私の居場所がありません。まだ、本当にここが私の居場所と言えるところを見つけられていないんです。なので、まだ足りないと思うのです。もっと、力を手に入れないといけないのです」
国王はほぅと一息。
「ならば、居場所をあげよう。ただ、条件がある。健康であれ。しっかりと寝て、しっかりと食べること。それが条件だ」
彼女はすぐに条件を飲んだ。
以降彼女の生活習慣は改善された。剣を持つこともやめた。彼女は、必死にならなければならなくなった。
彼女は、一国の女王という居場所を渡されたから。
彼女は考える。ホントにここが私の居場所なのか。考える暇もなく、厄介事は増えていく。やがて、考える時間すら無くなった。
ホントに彼女の居場所はここだったのだろうか